人間、本当に驚いた時は言葉が出なくなるものらしい。
店の主人にお礼と代金を支払い綱吉に手をひかれて彼の車に乗り込んだ。(自転車も乗ったし)人を雇えるだけあるというかなんというか、立派な車でした。私あんまり車に詳しくないんだけどたぶん凄い高い奴。雰囲気が凄い高い奴だった。阿保みたいな感想しか言えないけど本当にすごい高そうだった。助手席に座らせられたんだけど座り心地もよくて小さく「おー…」なんて感嘆の声を上げれば彼に聞こえていたらしく軽く笑われてしまった。なんとなく気恥ずかしくなり慌てて顔を背けた。あ、微かにタバコの臭いがする。
「つな…沢田って煙草吸うの?」
「煙草?んー…好んでは吸わないかな」
「ふーん…」
自分から聞いといてそっけないとは思ったがその後に続ける言葉も見つからずお互いに無言の時間が続く。き、気まずい…なんとかこの状況を打破したい…なにか、何か話題に繋がるものは…。きょろきょろとさり気なく辺りを見回すと綱吉のハンドルを握る手が見えた。
男にしては白くて華奢に見えるが私の物と比べるとやはり大きくて硬そうで、あの頃はあんなに小さくてもちもちしてたのに、と遠い記憶に思いを馳せる。綱吉の、柔らかぷにぷにな小さなお手手に可愛いほっぺ…手を伸ばせば面白いくらい伸びて、涙目になる綱吉の顔…。
懐かしくて恋しくて思わずため息を吐くと綱吉は不思議そうな顔をした。
「名前、降りて」
綱吉の言葉に考え事を中止し、車から降りる。意識が飛んでた…というかなんだか随分と広い駐車場だなぁ。
綺麗に折りたたまれた自転車と荷物を持ち歩き始めると両手の荷物は綱吉に奪われた。
こんな男前な動作を流れるようにやるところに女の影を感じてしまい少し切なくなるが、いけないいけない!と自分に喝を入れて綱吉の後に続いた。
足を踏み入れた廊下に思わず目を見開く。
だって…お前これ…え、なに綱吉ってお城に住んでるの?と思わせるくらい広く長く、煌びやかだった。ここ私の踏み入れていいところじゃないよね!?
「さ、沢田…?」
「入って、みんなに紹介するから」
私の助けと説明を求める顔を完全にスルーして一際大きな扉の前に立たされた。というかここまで来るのにかなり歩いたってどういうこと。普通の家じゃありえないよね?あ、ここ城か。
いや、そんなことよりみんな?みんなってどういうことですか綱吉さん?そりゃあこんな立派なお宅に住んでるんだからお手伝いさんやら同居人はいるのかもしれないけれどまだ心の準備ができていません。なんて紹介されるの?新しいお手伝いさんって?
「みんなって誰」
「入ればわかるけど…名前」
「な、なに?」
「入っても腰抜かさないでね」
それどういう意味…なんて聞く前に扉を開かれてしまった。
慈悲も何もあったもんじゃねぇな!あのころの気弱で優しい綱吉戻ってきて!
そして綱吉がドアを開けた瞬間、聞こえたのは銃声でした。
「このダメツナが…また抜け出しやがったな」
入る前に腰が抜けた。