R-15
ねえ、知ってる?
そう彼女は俺に語り掛けた。
でもその時俺は、たぶんとても苛々していて、砂糖菓子の様に甘ったるくすがりつくような声色のなまえを軽く流してしまったんだ。
死ぬのに理由なんていらないの。
ああ、またなにか可笑しなことを言っている。なまえの言うことは支離滅裂で理解出来ないことが多いんだ。
私はたまに呼吸をするように当たり前に
花が咲くように自然に
星達が瞬くように明るげに
太陽の目覚めのように静かに
死にたくなるの。
なまえは言った。歌うように、軽やかに言った。
俺には理解ができなかった。そして死にたくなるなんて、言わないで欲しかった。
だって、そんな悲しいこと、なまえの口から聞きたくない。だって、命って大切なんだ。
そして俺は感情に任せてなまえに怒鳴ってしまった。そしたら彼女、なんて言ったと思う?
ああ、綱吉はわかってくれないのね。ごめんなさい。
でも、私、死ぬことが悲しいことだと思わないの。私は生きていることの方が、怖い。とても怖い。
死んだらいけないなんて誰が決めたのかしら。死んでその人の救いになるならそれでいいじゃない。
あ、もしかしたら私のように意味もなく、花のように星のように太陽のように自然に死にたくなる人もいるかもしれない。
でもそれは悪いこと?残された人が可哀想?何故死後にまで人に気を使わなければならないの?ああ、怖い。死んでしまいたい。
でも、綱吉が私を思って泣いてくれるならそれはとても怖くて、とても幸せなことなんだわ。
そう言った次の日、なまえは死んだ。
俺は泣いた。なまえを思って泣いた。
でも、何故だか悲しくはなかった。