机に乗り切らずその周りまで囲む書類の山に筆を動かしながら、口を挟む事なく俺は目の前の二人に半眼を向ける。
特に談笑とは呼べないが、内容は明らかに下らない物で。けれどもその節々に仕事の話を織り交ぜているのは、彼等の天職とも言えよう。
「例えば今日もしくは5分後に突然の心臓発作がナルトに起きたとしたら私はどうすればいいだろう」
「縁起でもねぇな。つかなんだその例え話」
「この世は解らない物だよ。この書類怪しい。後で監察に回すわ」
「もしもの仮定は意味を無さねぇ。今在るのが現実だ。その書類は俺に寄越せ。確認がてら任務に行く」
「じゃあ私が心筋梗塞で倒れたらナルトはどうする?解った任せる」
「そん時はシカマルを殺す。」
(いやいや何故…?)
「そこは、俺も後を追って死ぬ。と言って欲しかったわ」
「死ぬのは面倒だからシカマルに後を追わせる」
(本人の意思は無視か…ッ)
「ふぅん。ならいいけど」
(よくねぇよ!)
こいつらの会話は唐突だ。
名前は『例えば』の話が好きで、なんの脈絡も無く話始める。
最初こそ戸惑ったが、今では耐性がついたのか慣れたもんだ。だがその実、何か大切な物が失われた気がしてならない。それが苦労症なのだと言われたら俺は納得して頷けてしまう。とても残念だ。
だが、ナルトは違った。
多分これが『波長が合う』という事なのだろう。いやまったく羨ましくは無いのだが。
「そうじゃあ例えば、」
(ほらまただ)
「シカマルの首が、こうポーンって飛んだとしたら」
「ってちょっと待ったァァァア!!」
「そうだな。とりあえず首拾って身体の隣に置くかな」
「なんでお前はそう冷静に答を返すんだ!?つか俺を引け合いに出すな!!」
「あらシカマル聞いてたの?」
「盗み聞きは良い趣味とは言えねぇぞ」
「よく見ろこの部屋の見取り図!聞こえねぇ方が可笑しいだろッ」
「私なら首が何故跳んだか究明するわ」
「いやいや嬉しくねぇから」
「断面とか気になるよな。血とかは?」
「グロいわ!!これが世に言う職業病!?」
「理想ではロケットパンチみたいな感じで」
「ロケットパンチってさ、アレ撃った後どうすんだ?自力回収?」
「無視された上に話題変わってるし!」
「それは間抜けね。新しいの生えてくるんじゃない?でも時間かかりそうね。ストックが腕にあるのかな」
「非生産的だな。効率悪い。」
「そういえばアンパ●マンの古い顔って…」
ころころ話題が変わる。
お前らは女子高生かと問い掛けたい。
(だが命は大事なので、言いません)
「…よし。ほーらシカマル。新しい顔だぞー」
「…………いやいや何が『よし』なんだ。片手に持つ丸めた紙屑で何しようってんだ」
「アンパ●マンの古い顔の行方の解明。私的にはチー●が食べてると思うのよね」
「発想がどこまでもグロいなお前ら!お子様に見せられるか!」
「ほーらシカマル。新しい顔だぞー」
「だからお前は俺に何を求めてんだよ!?」
「「首が飛ぶ事」」
「出来るかァァァァア!!」
「じゃあ影分身でいいわ」
「なんで名前が『しょうがないなあ』って顔してんだよ」
「お願い!」
「されてたまるか。つかお前らが影分身出して変化させりゃいいじゃねぇか」
「「!」」
「なんか驚かれた!?」
「そうだな。よし、影分身ノ術!」
ボンっと出されたのはナルトの影分身。さらに変化までして俺になる。
やっと矛先が俺から反れた事に安堵して、ようやく書類に手を戻す。
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