虹色従者 | ナノ
虹色の人生
[10ページ/12ページ]

イースター休暇という名の天国がやってきた。
なぜなら授業がなく、クリスマス休暇のように家に帰る必要もないからだ。
つまり、1日中スネイプ先生に仕えることができる。


『何でもお申し付けください、先生!』
「寮に帰って宿題をしたまえ」
『ご心配には及びません』


やるべきことはきちんとやっています。
先生は頭がよく、完璧主義ですからね。
先生の従者として恥ずかしくない生活を送れるよう、日々心がけています。

え?努力が足りない?
その言動が恥ずかしい?

後者はよくわかりませんが、先生が足りないと言うのであればもっと頑張りますね。
夕食後も先生のお手伝いができるよう、計画書を見直してみます。


「我輩をつけまわすなと言っているのだ」
『でもここじゃないとキャーキャー言えないですし』
「まだそのようなことを言っているのがいい加減に飽きた頃ではないのかね」
『とんでもない』


飽きるなんてありえない。
主従関係というのは、そういう次元の話ではないのだ。
というか、いい加減といえば、いい加減に秘密のレッスンしましょうよ。
じゃなかった、してくださいよ。
このままじゃ1年が終わっちゃいます。


「好きにしろと申し上げたはずだ」


そうですよ。
好きにしていいって言ったじゃないですか。
なのになんで毎日追い返されそうになるんですか。
もしかして許可を取らずに始めていいということですか?
私たち、もうそんな信頼関係ができあがりました!?


「君のような脳を持っていれば、さぞ人生が楽しく感じるのでしょうな。うらやましい限りだ」
『先生は楽しくないんですか?』
「あいにく我輩の脳は君の様におめでたくないのでね」
『天才ゆえの悩みってやつです?』


天才とは時に周囲に理解されず、孤独になりがちだ。
先生もそのタイプの可能性はある。

私だって最初はただの怖い先生だと思っていた。
鈍くて馬鹿な生徒は嫌いで、授業でヘマをしようものなら瞬く間に飛んできて、容赦なく責められるんだから仕方ない。

それに、生徒に嫌味を言い、罰則を与えることを生きがいとしている先生は、減点を言い渡しているときが1番良い顔をしているんだから。
なんだったら今も嫌味を言われているような気もする。

でも、でも!である。
先生は、自分を認める人間、そして自分が認めた人間に対しては寛容なのだ。
その扱いの差は、同じ人なのかと疑いたくなるほどだ。
この“贔屓されるレベル”に達すると、まったく違った世界が見えてくる。

ちなみに私は絶賛贔屓され中だ。


『先生、私は幸せものです』
「でしょうな。我輩はいま、馬鹿ほど幸せに生きられるという事を実感しているところだ」
『その理屈だと先生は生きづらいということになっちゃいますよ』
「当然であろう。――何せこの状況だ」


そう言って両腕を広げる先生。
あれ、そのポーズ、どこかで見たことがありますね。

そうだ、満月草の採集を言い渡された日のことだ。
濃紺の空をバックに、俺の胸に飛び込んで来いをやったときと同じポーズだ。
藍色のローブで代用ですか。
相変わらずおしゃれですね。

あのときもローブは着てたとか、紺じゃなくて黒だとか、そういう細かいことは気にしないでください。
こういうのに大事なのは勢いとムードです。

というかここにきてあの時を連想させることをするなんて、以心伝心テストですか?
それとも飛び込んでいけばいいのかな?


『いでっ』


テストのほうでしたか。
失礼しました。

でも、飛びついているところに杖を向けなくてもいいんじゃないですかね?
あやうく鼻に杖が刺さるところでしたよ。
私なんぞの血で先生の杖を汚すわけにはいかないんですから気をつけてください。
ほっぺも穴が空きそうなくらい痛いですが。

それよりテストですね。
なんでしたっけ。
生きづらいんでしたっけ?
人生楽しくないんでしたっけ?


『なんですって!?』


なんで私はこんな重大なことをさらっと聞き逃していたんだ。
自分の幸せをかみ締めている場合ではなかった。
先生の幸せなくして私の幸せはない。
それが従者というものだ。


『私、決めました。スネイプ先生の人生を虹色にして見せます』
「それを言うならバラ色だ」
『バラがお好きでしたか、失礼しました』
「そうは言っていない」
『バラを育ててプレゼントしますね』
「結構――不要という意味だ!」



調べてみたら、バラは育てるのが大変な植物だということがわかった。
なるほど。
だからこそバラ色の人生には価値があるのか。
そこらへん魔法でどうにかならないのかな。
温室で育てればすぐに咲くかな。
ああでも先生に離れるなって言われてるんだったどうしよう。


『先生、おはようございます!』


本物のバラはすぐに渡せないことに気づいたので、ひとまず代用品ということで卵色のバラを作ってきました。
ほら、イースターですし。
花びらがクレープの生地っぽいですが、食べられないので気をつけてくださいね。
湯船につけるとひよこのおもちゃになるんです。
これでお風呂タイムも孤独から解放されますよ。
ちなみに、かわくとまたバラに戻るので、どこでも楽しめて一石二鳥です。


「Ms.イーリス、君はなぜいつもそうなのだ……こんなことに能力を使わず、宿題で1つでも多く優をとれるよう努力したまえ」


なんと、先生は私が宿題を終わらせることに重点を置くあまり、内容が二の次になっていることに気づいていた。
さすが先生、敵わない。

あ、ちゃんと真面目にやるのでそんな顔をしないでください。
先生の仏頂面を満面の笑みにすることこそ、私の真の使命なんですから!

って、聞いてます?
教室じゃないのに例の魔法を使ったんですか?
外ばっかり見て何が――って、ハリーですか。
クィディッチのユニフォームを着てるからこれから練習かな?

というか、先生ってば本当にハリーが好きなんですね。
飛んでいったかと思ったら、難癖つけて減点までしちゃって。

先生は否定しているが、私にはわかっている。
クィディッチの審判をしていたときでさえ、試合の進行状況よりもハリー個人に興味津々のようだったから、ハリーのファンなことは間違いない。
見かけるたびに注意をしたり減点をしたりなのは、おそらく可愛さあまって憎さ100倍というやつだ。

あれ?
ということは、毎日減点されている私も可愛い?


『先生、私、嬉しいです』
「何が――いや、言わなくともよい」
『ハリーには減点での愛情表現は向かないですよ。やっぱりここは私が間に入って――』
「イーリス、我輩は必要以上にポッターに近づくなと申し上げたはずだ」
『でも、罰則で独り占めするのはずるいってみんな言ってます。ハリーはみんなの英雄なんですから』
「あやつは英雄などではない」
『スターでしたっけ?』


先生ってばこだわりが強いんですね。
というかハリーのことがお気に入りなら、私に手伝わせてくれればいいのに。
そんなにハリーに他人を近づけたくないのかな。
それとも私が離れるのがそんなに嫌なのかな。
私としてもいつでも駆けつけられる位置にいたいけど、どうせなら遠方での任務も信頼して負かされるようになりたいものだ。


「無駄口を叩いている暇があるなら調合のひとつでもしてみたらいかがですかな?」
『はい!』


休暇中に調合の提案。
それって特別授業のお誘いですよね?
ついに、ついにこの日がやってきた。



『匂いをつけるって難しいんですね……どうしてどの文献にも載っていないんでしょう』
「通常の脳をもっている者ならば、匂いなど必要ないと理解できるからだ」
『そんな、天才だなんて』
「言っていない」


イースター休暇を全部使っても、煙に匂いをつけることはできなかった。
肉は焼くだけで香ばしい香りがするのに、どうしてこんなに難しいんだ。
先生は本を読みながら紅茶を飲んでいて、一緒に考えてくれる気配はない。
5月になったとはいえ、地下はまだ寒いから、暖炉前から動きたくないのはわかりますが、こっちから見ると半分橙色に染まっててアレですよ!


「……誰が手伝うと言った。評価するくらいのことはしてやるが、それ以上のことをするつもりはない。罰則のつもりでやりたまえ」
『もちろんです!』


なるほど。罰則のつもりだったから何もアドバイスしてくれなかったんですね。
先生は罰則好きですもんね。
先生が楽しいならそれでオッケーです!

→続


←前へ [ 目次 ] 次へ→
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -