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再会
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1998年5月2日。
長きに渡って続いた戦争がついに終わりを迎えた。
お守りのようにポケットに忍ばせておいた折鶴と同じ色の空が、見渡す限りに広がっている。


「生き残ってしまったよ……」


どうしてそんな言い方になったのか自分でもよくわからない。
死ぬ気で戦ってはいたが、死ぬつもりはなかった。
それでもなぜか心がざわついた。


「リーマス、急ぎ頼みたいことがある」
「ああ、わかっている」


城に入る直前でキングズリー・シャックルボルトに声をかけられ、リーマスはまだ完全に終わったわけではないと気を引き締め直した。


「すぐにアジトに向かってみるよ。フェンリール・グレイバックがいなければ、彼らも少しは私の話に耳を傾けてくれるだろう」
「そうしてくれると助かる。怪我の手当ても満足にしていないだろうに急かして申し訳ない」
「いや、じき満月になる。早いほうがいい。新しい大臣は受け入れてくれると話して構わないかい?」
「ああ。“魔法省は”と言わないよう気をつけてくれ。嘘は不信につながる。魔法省全体が変わるには、まだ時間がいる」
「違いない。キングズリー、君はいい大臣になるよ。君が作る魔法界ならきっと、我々は今よりもいい暮らしができるだろう」
「決して自暴自棄にさせてはいけない。頼むぞリーマス」


2人は固い握手を交わし、リーマスは人狼たちが隠れていそうなところを片っ端から訪ねてまわった。

* * *



説得は満月後も続き、リーマスがアジトを巡回している間に騎士団は解散した。
仕事の大部分は闇払いへと引き継がれ、リーマスは狼人間との交渉を続けながら手伝える範囲で闇払いの仕事も手伝った。

その結果、リーマスには“闇払い兼狼人間援助室室長”という肩書きが与えられ、マーリン勲章も授与された。
この異例の待遇は、狼人間の態度を軟化させることに大いに役立った。


多忙な日々がひと段落し、お金と時間に余裕ができるようになってくると、自然とレナを思い出すことも増えてきた。

自分の幸せを願ってくれた人がいたという事実さえあれば、孤独を感じずに生きて行けると思っていたはずなのに、シャワーを浴びるたびにレナの顔を思い出し、風でガタンと音がなるだけでドアを見てしまう。
日本に行ってみようかと血迷うことさえあった。

その都度リーマスは、窓際の鶴と花を見ながら自分を律し、気持ちを紛らわすために一心不乱に働いた。


「ルーピン室長、大臣がお呼びです」
「今からかい?今日は満月だからそろそろ上がらないといけない時間なんだけどな」
「早急に、だそうです」
「大丈夫。行くよ」


呼びに来た新人があまりに申し訳なさそうな顔をしたため、「帰りを待つ人もいないしね」と笑いながら軽く応じた。

* * *



「何事だい?」


出迎えたキングズリーにリーマスは尋ねた。
大臣直々の呼び出しは珍しい。
さらに人払いもしているとなると、どうしても身構えてしまう。


「グリモールド・プレイスに侵入者があったと聞いたけど、私じゃなきゃいけない理由なんて――」


リーマスは執務室の奥に先客がいることに気づいて言葉を失った。


「捕らえられた侵入者だ」


硬直しているリーマスに構わず、キングズリーは「本日午後3時23分、侵入者避け呪文に反応有……」と手にした書類を読み上げ始めた。
しかしリーマスの耳には何も入って来なかった。


「キングズリー、彼女は――」
「ああ、イギリス人じゃない。しかし国際魔法連名を通すのは面倒でね」
「いや、そうじゃなく、なんで……」
「唯一住所がわかる場所だったかららしい。つまり家の住所を教えておかなかった君の責任だ、リーマス。よってこの件は君に任せる」


リーマスの肩を、キングズリーが優しく叩いた。


「退勤間際に悪いがこの仕事は今日中に済ませてくれ。調書を作り終えたら帰っていい。提出先はそこだ」


暖炉を指差したキングズリーは、ダンブルドアのようなウインクを残して部屋を出て行った。

カギがかかる音を最後に、しばらく沈黙が続く。
リーマスはドアの前から動けなかった。


『ごめんリーマス、なんか仕事増やしちゃったみたい』


申し訳なさそうに笑う声は紛れもなくレナのもので、リーマスは駆け寄って強く抱きしめた。

* * *



感動の再会もつかの間。
パシパシと腕を叩かれたリーマスは、ハグに慣れないレナが呼吸困難に陥っていることに気付いて吹き出した。


「ごめんごめん。久しぶりすぎてレナが小さいってことを忘れてたよ」
『会って最初に言うことがそれ?てか一応これでも3cm伸びたんだからねっ』
「違いがよくわからないけど……嘘うそ、冗談だよ。ずいぶん大人っぽくなった」
『リーマスは見た目もそういうところもあまり変わりないね』


『元気そうでよかった』と微笑むレナは、本当に見違えるほど大人びてきれいになっている。
成長した姿を見られてよかったと思う一方で、自分との差がよりいっそう広がっていることが、リーマスを複雑な気持ちにさせた。


「レナも元気そうで何よりだ。――それじゃ、尋問を始めようか」
『えっ、本当にするの?』
「するよ。大臣命令だからね」
『しなくていいよって感じだったじゃん』
「そう?気のせいじゃないかな」


リーマスはキングズリーに渡された書類をまとめて暖炉に捨て、大臣室にしかない高級な応接セットに腰掛けた。
『する気ないよね!?』と混乱しているレナが正面に座るのを待っち、にっこり笑った。


「まずは氏名と年齢、住所。それからどうしてあの場に現れたのか――そうだな、5年分くらい聞こうかな」


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