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帰郷
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レナが連れてこられた叫びの屋敷は、相変わらずのボロ具合だった。
歩くたびに床板が軋み、埃が舞い上がる。
リーマスとレナは杖灯りを頼りに、ところどころに残っている足跡の1つを辿って奥へと進んだ。
今にも外れそうなドアの先に、壊れた家具に混ざって見覚えのある洋箪笥が置かれていた。


『これってあのときの?』
「今はただの洋箪笥だけど、時間を遡ればダンブルドアが修理した状態のものになる」
『直してまた壊したってこと?』
「そうだね。あれは危険なものだから……去年、ダンブルドアがホグワーツを追われたと聞いたときは焦ったけど、ダンブルドアはあらかじめその可能性を考えてここに隠していたんだ。――大丈夫、ボガートは入っていないよ」


リーマスはかぎを開けながら説明し、背後に隠れたレナを笑った。
中にはいくつかハンガーがあり、そのうちの1つに制服がかけられていた。
携帯電話や造花も置かれている。

レナに着替えるよう言い、リーマスは部屋の外に出た。
いつから自分の手元になかったのだろうと考えていたレナは、マクゴナガルの部屋にいたときに回収されたのだろうと結論付け、数年ぶりの学生服に袖を通した。
携帯をポケットにしまい、卒業おめでとうと書かれたリボンのついた造花を胸に着けようとして、ふと手を止める。


(こっちに何かを残していくことはできるのかな?)


未来のものを過去に持ち帰ることはできないと言われているが、逆なら問題なさそうに思えた。
レナは少し考えた後、造花に杖を向けて小さな花束にした。


『お待たせ』
「サイズ、ぴったりだね」
『うん。なんかちょっと複雑な気分』


全然成長してないじゃんと膨れるレナに、リーマスはそうかもしれないと頬をかきながら笑った。


「でもほら、雰囲気はずいぶん変わったよ。あと頭の中も」
『戻ったら覚えた魔法も全部忘れちゃうってことないよね?』
「どうかな」
『えええっ、知識は持ち帰れるって言ったじゃん!』
「ははっ、冗談だよ。大丈夫、知識も記憶も全部そのままだ。――ところでそれは?」


リーマスはレナが手にしている、先ほどまではなかったはずのものを指差した。


『変身術を使って作ったの。上出来でしょ』
「今?」
『そうだよ。私の旅の成果をリーマスに持っててもらいたいなと思って』


レナは勿忘草で作った花束をリーマスに押し付けた。
細いリボンには、感謝の気持ちと花言葉を日本語で記してある。
どさくさにまぎれてキスもしようとしたが、レナの企みは身長差によって阻まれてしまった。


(も、もうちょっとなのに……)


レナはリーマスが屈んでくれることを期待した。
しかし、リーマスは「小さいね」と笑って背伸びをするレナの頭に手を乗せるだけで、タイムターナーの使い方の説明を始めてしまった。


(こんなときにまでいじわるを発揮しなくてもいいじゃん)


次会うときまでに10cm伸ばしてやると無謀な野望を抱きつつ、レナは手作りのタイムターナーを受け取った。
金の砂時計をくるくる回している間に、4年間の出来事がいろいろ思い出された。
杖を渡し、洋箪笥の中に入り、戸がしまったら時計から手を離せば、夢のような旅が終わる。


「さあ、お別れだ」
『ありがとうリーマス。またね』
「ああ、また……」


リーマスによって戸が閉められ、見える景色がどんどん細くなっていく。
普段通りでいようとしているリーマスにあわせ、レナは最後まで必死に笑顔を保った。
しかし、視界が完全に閉ざされたとき、ボロッと大粒の涙がこぼれた。


『――っ絶対に待っててよ!いなくなってたら許さないんだから!』


もう開かない戸に手をつき、さっきとは正反対のことを叫んだ。
私のことは忘れてしまっていてもいいから。
笑顔もご飯もいらないから。
絶対に、絶対に死なないで――。


「待っているよ……“また”がなくてもね」


からっぽになった洋箪笥に向かってリーマスは呟いた。
レナはきっと新しい生活の中で新しい恋をするだろう。
特殊な環境下にいたときに好きになった人狼のことなんて、さっさと忘れるか、笑い話になるに違いない。

それで構わないし、そのほうがいいとリーマスは思った。
向こうで平和な生活を送り、年相応で健全なふさわしい相手を見つけて幸せな未来を掴んでくれたらいい。


「レナが私を忘れても、私は忘れないよ」


レナのアニメーガスと同じ色の花束は、レナが消えてもまだ手元に残っている。
そのことにリーマスは安堵した。

これでレナの無事が確認できるし、自分の幸せを願ってくれた人がいたことをいつでも思い出せる。
遠く安全な場所でレナが生きていると考えれば、1人でも孤独じゃない。
もし本当にまた会いに来てくれたら――と幻想に思いを馳せるだけで、幸せな気分になれた。


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