クリスマスの前日、レナとリーマスはウィーズリー家に招待された。
大家族が住んでいるにしては小さめの家は、ジニーによって飾りつけられ、W.W.W.に負けず劣らずの賑やかさになっていた。
大きなクリスマスツリーのてっぺんでは、飾られている天使が生き物のように暴れている。
何か叫んでいるようにも見えたが、ラジオから流れてくる歌と、フラーの大きな話し声にかき消されて、何を言っているのかまではわからない。
レナは天使の声を拾うことを諦め、暖炉の炎をじっと見つめているリーマスを眺めることにした。
(何かあったのかな)
このところ――といっても、数ヶ月ぶりに戻ってきてからの3日間だが――リーマスの様子がおかしい。
話しかけても気づかなかったり、ぼーっとしていたり、今のように考え込むように手を組んでいる姿をよく見かける。
自意識過剰でなければ、レナを注視していることも少なくない。
そのわりにはあまり目を合わせようとしないし、会話も弾まないしで、とにかく変だ。
「メリークリスマス」
「大丈夫?」
珍しくつながりのないセリフを言いながら、フレッドとジョージがレナの両脇に座った。
2人は「ごめん」と口をそろえた。
『何が?』
「ルーピンだよ」
「何も言われてない?」
ひそひそ声で言い、顎でリーマスを示した。
「店のことで俺たちめちゃくちゃ怒られたんだ」
「ポスターもはがされた」
「そりゃ黙ってやった俺らも悪いと思うけど」
「あれは営業妨害だぜ」
『それであの態度なの?』
リーマスは顔を暖炉に向けたまま、目だけはしっかりとこちらを向けている。
膝の上で組んだ手の人差し指だけが動いているが、音楽に合わせてリズムを取っているわけではないだろう。
レナは両隣を軽く睨みながら声をひそめた。
『どうするの?全然大丈夫じゃなかったんじゃん』
「ルーピンだって鬼じゃない」
「話せばわかってくれる」
『そうかもね――って、私が!?』
「レナならいける」
『無茶言わないで』
「僕らに借りがあることを忘れちゃいけない」
『それもうチャラになったでしょ!?』
「そう言わず」
「頼んだ」
フレッドとジョージがレナの肩を叩き、そのままリーマスのほうに押した。
横目で様子を窺っていたリーマスが顔を上げて苦笑いした。
「2人とも、あまりレナをいじめないでくれるかな」
「誤解だ」
「いじめてない」
「まあ、レナで遊びたくなる気持ちもわかるけどね」
『ちょっとリーマス!そこは保護者としてビシッと注意して!』
「そうだね。フレッドとジョージには気をつけるんだ、レナ」
『私!?』
焦っていたのはレナだけだったようで、3人は「ははは」と愉快そうに笑った。
レナが文句を言おうとしたところでラジオのボリュームがあがり、わななくような歌声が響き渡った。
「ごめんよママ」
フレッドがモリーに謝り、ジョージが「お気に入りの歌手なんだ」とレナに耳打ちした。
2人は最後にもう1度レナをぐいっとリーマスのほうに押し出し、ジニーを誘って爆発スナップのゲームを始めた。
フレッドとジョージが去ってすぐ、ハリーがアーサーになにやら真面目な相談を始めたのは、レナにとって幸いだった。
リーマスの注意がそちらへ向いたからだ。
少しだけ体の向きを変え、一言も聞き漏らさないように耳を傾けている。
真剣そのものといった表情をしていたので、レナは静かに元の位置に戻った。
ラジオの音は相変わらず大きかったが、囁くような歌い方に変わっていたため、レナの耳にもハリーの声は届いた。
どうやらハリーは、スネイプを怪しんでいるようだった。
「それはダンブルドアの役目だ」
ハリーとアーサーの会話に、リーマスが口を挟んだ。
暖炉に背を向け、テーブルにいるハリーに、強い口調で「スネイプを信じるかどうかじゃなく、ダンブルドアを信じるかどうかだ」と諭している。
それはいろんな意味でどうなんだとレナは思ったが、アーサーはハリーの向かいでうんうんと頷いた。
「そうだ、レナって三本の箒で働いてるんだよね?」
アーサーが飲み物を取りに行ったとき、ハリーは突然レナに話を振った。
レナの返事を待たず、ホグズミード休暇の日に怪しいやつを見かけなかったかと、期待の眼差しで聞いてくる。
「例えばプラチナブロンドで、蒼白くて細長い顔で、偉そうで、子分を2人ひきつれてる――」
『ずいぶん具体的だね』
「まあね。もっと具体的に言うと、ドラコ・マルフォイっていう名前のやつだ。子分はクラッブとゴイル。黒い服を着ていることが多い。今度見かけたら様子を探ってみてくれないかな」
『レジで名乗るわけじゃないからあれだけど、いいよ。それっぽい人がいたらよく見るようにしてみる』
「ありがとう。頼んだよ」
「いいや、頼まれない」
リーマスが鋭く言った。
「ハリー、勝手なことをする前に、君が考えていることをダンブルドアに話すといい。君の行いがダンブルドアに迷惑をかけることになるかもしれない」
「でもルーピン、マルフォイがこそこそと何かをやっているのは確かだ」
「だったらなおさら、レナを巻き込むのは危険だとは思わないのかい?」
「僕、そんなつもりじゃ……ただ、企みを暴ける機会があればと思って……」
「この話はおしまいだ。いいね?ハリー」
ハリーもリーマスの「いいね?」に弱いようだった。
しばらくぼそぼそと何かを呟いていたが、それ以上レナに話を振ってくることはなかった。
代わりにハリーはリーマスの近況を聞き始めた。
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