stand by me | ナノ
W.W.W.
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荷造りとリーマスの変貌ぶりの余波でなかなか寝付けず、レナは寝坊をした。
慌ててキッチンへ降りていく途中で、ポンポンッという独特な音が耳元で鳴る。
なんだろうと思った次の瞬間には、両腕をつかまれていた。


『フレッド!?と、ジョージ!?』
「やあレナ」
「おはようレナ」
「聞いたぞ」
「行くところがなくなるんだってな」


2人は同時にニヤリとした。
そして、声を揃えて「俺たちの店に来ないか?」と言った。


『ごめん、あとにして』


おいしいご飯を準備して待っていると得意顔で言った次の日に朝食を準備し損ねるなんて笑えない。
レナは先を急ごうとしたが、2人はがっちりと腕をつかんで離さなかった。
そればかりか、ずるずると近くの部屋に引きずり込んだ。


「ちょうど開店準備で大忙しなんだ」
『私はいま大忙しなの!』
「俺たちとしては手伝いが増えて助かるし――」
「レナも居場所ができる」
「騎士団員が2名もつきっきりになるんだ」
「ルーピンも安心するだろう」


レナの待ったも聞かず、フレッドとジョージは交互に話し続けた。


「悪くない話だと思うぜ」
『わかった、わかったから!』


男2人の腕を振り払うのは無理だと判断したレナは、降参のポーズをとって何でもすると言った。
自分達の店が暗い気分を吹き飛ばすのにもってこいだと語っていたジョージは、毎日送り迎えもするし食事もつけると話していたフレッドと、レナの頭上でニヤッと目配せした。


「そうと決まれば」
「さっそくボスの許可をもらいにいこう」


バタバタと食堂へ降りて行ったフレッドがドアを開け、ジョージがレナを背中から押す。
レナは2人に流されるまま、リーマスの前に出された。
なんだか盾にされている気分だった。


「いいよ」


リーマスはあっさり了承した。
フレッドとジョージが「やりい」とハイタッチをする。
2人に「これからよろしく」と肩を叩かれながら、こんな簡単に決まっていいのかとレナは唖然とした。


「ただし条件がある」
「なんだい?」
「お手柔らかに頼む」


肘でつつきあっていた双子がわずかに身構えた。


「1つは、何があってもレナを守ることだ」
「もちろん」
「任せろ」
「闇の魔法使いからだけじゃない。魔法省からもだ。いいね?」


念を押すリーマスに、2人が同時に頷く。
「おーけー」の言い方が軽い。
リーマスは眉根を寄せたが、ジョージは「2つ目は?」と次を要求した。


「レナを店から出さない」
「いいけど」
「なんでまた」
「マグルの目に触れるといろいろ面倒なんだ。マグルの世界には監視カメラというものがあちこちにあるらしいからね」


リーマスは正面に座っていたアーサーを見た。
アーサーが何度も頷いた。
監視カメラについて詳しく話をしたそうだった。


「それから、私が任務に出ていないときは休みにしてもらう」
「そりゃないぜ!」
「今が1番忙しいんだ」
「急な欠勤も困る」


フレッドとジョージはぶーぶー文句を言ったが、リーマスは全て右から左へ流した。
席を立って近づいてきて、レナの腕をつかんで2人から引き離す。


「私も、期待していたご飯がないと困るんだ」


肩に手を回して引き寄せられ、レナは自分の顔がひきつるのを感じた。
とても寝坊が原因で遅れただなんて言えない。
フレッドとジョージはレナの気持ちを酌んでくれたようで、これは貸しだとでもいうように肩をすくめた。


「わかったよ」
「取引成立だ」


フレッドが懐から丸まった羊皮紙を出した。
レナが受け取る前に、リーマスによって素早く取り上げられる。


「これは?」
「契約書さ」
「雇用証明だよ」
「それなら私が確認をして保護者のサインをしよう」
「未成年でもないのに?」
「別に怪しい書類じゃないぜ?」


フレッドとジョージは心外だとでも言わんばかりだった。
しかし、リーマスだけではなく、アーサーまでもが確かめに来た。
レナも覗き込んだが、「その前にやることがあるだろう?」と厨房へ追いやられた。

* * *



2人の店があるダイアゴン横丁は、ずいぶんと閑散としていた。
これがロンドンで1番大きな魔法商店街だとはとても思えない寂れっぷりだ。
ショーウィンドウの多くは魔法省の大きなポスターに覆われ、窓に板を打ち付けられている店もある。

そんななか、煌々と輝く派手な店があった。
それがフレッドとジョージが出した店、W.W.W.――ウィーズリー・ウィザード・ウィーズだった。


『何これ、すごっ』


初めて店に足を踏み入れたとき、レナはたまらず歓声をあげた。
店内には商品が所狭しと並べられていて、床から天井まで、空間が色であふれかえっていた。
まるで店内で花火大会が行われているようだ。
通りに面したショーウィンドウの中でも、目の眩むような商品の数々が、回ったり跳ねたり光ったりしている。


「これがだまし杖、5種類あってそれぞれ値段が違うから要注意だ。それからこっちの羽ペンは自動インク、綴りチェック、冴えた解答の3種類」
「売れ筋商品はこれだ。ズル休みスナックボックス――特に鼻血ヌルヌルヌガーが人気だ。レナも試したことがあるだろう?他には発熱ヌガーに、ゲーゲートローチ、それから――」
『ち、ちょっと待って!』


次々と商品の説明をする2人をレナは止めた。
専門用語のオンパレードだ。
ある意味、騎士団の作戦会議よりも聞き取るのが難しい。


『リストか何かない?』
「注文用紙か在庫チェックのでよければあるけど」
「それより自分で試したほうが覚える」
『これ全部?』
「まあ、ちょっとした時間が必要だな」


フレッドが笑いながらバックヤードに行っている間に、レナは窓際へ向かった。
ピンクで固められたコーナーには、けばけばしい色の小瓶が山積みになっていた。


『惚れ薬……?効くの?』
「もちろん。ただ、本気には向かないな」
『どうして?』
「本物の愛を作り出すわけじゃないからさ。これは一時的に強烈な執着心を引き起こし、ちょっとした夢のひとときを得るためのものだ」
『へー』


レナは、ピンクの瓶を手に取ってしげしげと眺めた。
どうせ相手にされていないなら、1日くらい甘い夢を見てもいいかもしれない――。
そんなことを考えながら、数日前のことを思い出した。

* * *



グリモールド・プレイスを離れて数日後、シリウスの遺書が見つかったという話が飛び込んできた。
自分にもしものことがあったら、ハリーに全てを相続すると書かれていたそうだ。
ただ、その遺書がどの程度効果を発しているのかはわからず、ダンブルドアがハリーを使って確かめるまでは各自自宅待機を続けるようにという指示が出された。

それを知らせに来たトンクスは、話を終えたあともその場を動かず、チラチラとレナを気にするそぶりを見せていた。


「あのね、リーマス、もう1つ話があるの。これは騎士団とは関係ない話なんだけど……」
「ここではできない話?」
「できたら2人きりで話がしたいんだ」
「……わかった、外に出よう」


リーマスはすぐに戻ると言ってトンクスと一緒に出ていった。
どうせならどこかに飛んでくれればいいのに、2人は居間の窓から見える位置で話をしていた。
表情までは確認できなかったが、トンクスは必死に何かを訴えているようだった。
リーマスが首を横に振り、トンクスがリーマスの胸元を掴んだところで、レナは食器を持って台所に引っ込んだ。

* * *



「どうした?欲しいなら店員特価で売るぜ」
『そこは無料じゃないの?』
「こっちも商売なんでね」
『さっきは全部試せって言ったのに』
「買って試せばいい」
『無茶振りすぎー』
「諸君、雑談している暇はないぞ。時はガリオンなり!だ」


ジョージと冗談を言い合っていると、バックヤードからフレッドが戻ってきた。
レナは一覧表を受け取り、すぐに商品の確認に戻った。

W.W.W.の取扱商品は多岐に渡っていた。
悪戯専門店というくらいだから、ふざけた商品ばかりなのかと思っていたが、年頃の女子に人気が出そうな“10秒で取れる保証つきニキビ取り”という薬品や、ふわふわした毛玉の“ピグミーパフ”という生き物まで取り扱っている。
かと思えばマグルの手品があったり、護身用に使える盾の帽子があったり、もはや何でも屋のほうがしっくりきそうな店だ。


「どうだ?覚えられそうか?」
『商品名がそのまま説明になっているものが多いからたぶん大丈夫。200羽のふくろうを覚えるよりずいぶんマシ』
「いいね」
「頼もしい限りだ」


フレッドは、商品リストと一緒に持ってきた赤紫色の服をレナに渡した。
その上にジョージが帽子とマント、手袋を置く。


「店のユニフォームに」
「盾シリーズ商品だ」


「歩く広告塔になってくれ」と2人は口を揃えた。


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