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幸せの翼
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どのくらい経ったのだろうか。
残りの騎士団員やダンブルドアがやってきて、情報の共有と今後の動きについての話し合いがなされた。

レナは輪から少し離れたところに座り、ぼーっとその様子を眺めていた。
頭はまだガンガンしていて、働くことを拒否している。
耳から入ってくる英語は、何ひとつ日本語に変換されない。
今は何も聞きたくないレナにとってはありがたいことだった。


(こんな状況でも、気持ちを切り替えなきゃいけないなんて……)


騎士団員の輪の中のリーマスを見ていると、いたたまれない気持ちになる。
憔悴しきっているのに、涙を見せることもなく、話し合いに参加している。

騎士団の強さと過酷さを目の当たりにした気分だった。

こんなとき、自分はどうしたらいいのかわからない。
自分はまだまだ子どもであると認めざるをえない。
みんなが気丈に振る舞っているなかで1人だけ悲しみに浸っていることが申し訳なくなり、レナはそっとキッチンを出た。


(そうだ。から揚げ、取りに行かなきゃ……)


真っ先にから揚げの心配をするくらい、レナの思考回路は麻痺していた。
フラフラとおぼつかない足取りで階段を上り、シリウスの部屋に向かう。
無人の部屋のドアをノックし、声をかけてから中に入る。


『戻ってこないシリウスが悪いんだからね』


誰もいない空間に向かって言い、1つ手にとって口に運ぶ。
何の味もしない。
こんな失敗作なら食べられなくてよかった。


(何が“命を失っても”だ。シリウスのバカ、単純、考えなし……)


そんな考えだから、任務に混ぜてもらえないんだ。
残された人の顔を見ていたら、危険があるほうがいいなんて言えないはずだ。
大好きなハリーに怒られて、ずっと家から出られないような呪いをかけられてしまえばいい。

思いつく限り罵ってみても、気分はちっとも晴れない。
シリウスは打ちひしがれるハリーの顔を見ることも、命令違反の説教を受けることもできないんだと思ったら、また涙が出てきた。


(なんで、いなくなっちゃうの……)


シリウスはレナのよき理解者であり、相談相手だった。
そしてリーマスの親友だ。
10年以上の隔たりを経て、ようやく誤解が解けて、まだ2年しか経っていないのに、リーマスはまた1人になってしまった。


(バカあほ間抜け!)


私には離れるなって言ったくせに、自分はどっか行くわけ?
リーマスの心配だけしてろだ?
心配の原因をシリウスが作ってどうすんの。
アニメーガス、まだ完成してないんだけど!

どうしようもない悲しみを、怒りとしてぶつける。
こうなったらから揚げも全部食べてやると意気込んだが、既に喉が詰まっていて最初の1つすら食べ切れていない。
次々と溢れてくる涙をぬぐってるせいで、袖のシミばかりが増える。


『私1人じゃ何もできないんだから、早く戻ってきてよ……』


ぽつりと日本語で漏らし、レナは皿を持って立ち上がった。
名前を呼ばれた気がする。
階段を下りて行くと、玄関ホールに人が出てきていた。
いつの間にか話し合いは終わっていたようだ。


「……レナ、今日は家に帰ろう」


レナの肩をリーマスが抱き寄せる。
それがいいだろうと誰かが言った。

* * *



家に戻ってきてからもぐずぐずと泣いているレナを、リーマスは一生懸命になぐさめた。
それがかえってレナにとっては辛かった。


『どうしてリーマスはそんなに平気そうにしてるの?』
「平気ではないよ。ただ、こればかりは仕方のないことだ。ハリーを救ったと思えば、シリウスも本望だよ」
『そうじゃなくて、親友でしょ?仕方ないとか、本望だったとか、そういうことじゃ、なくて』


嗚咽交じりに言うレナの頭を、リーマスが撫でる。
レナはその手を振り払い、リーマスを見上げた。


『なんで我慢するの?私が泣いてるから泣けないの?』
「……そうだね。レナが代わりに泣いてくれているから、私はいいかな」
『そんなの、辛いだけじゃん!』


自分ばかりが泣いて、リーマスが我慢をしているという状況が許せなかった。
誰かが代わりに泣くことで、悲しみが和らぐことなんてあるはずがない。


『リーマスが我慢をすることなんて、シリウスは望んでない!』


シリウスはハリーのことを大事に思うのと同じくらい、リーマスのことを考えていた。
レナの相手をしてくれていたのだって、リーマスに頼まれたからだ。
純粋にレナの為だけを思っての行動じゃなかったということくらいわかっている。
リーマスの頼みがなければ、シリウスはきっとハリーの為により多くの時間を使っていたはずだ。


『私が邪魔なら、外にいるから!』
「レナ、邪魔だなんて思ったことはない。今だって、いてくれてありがたいんだ」
『こんなときにまで、大人ぶらないで!シリウスも童心に返れって言ってたじゃん!大人だから、男だから泣いちゃいけないなんて、馬鹿じゃん!』


おかしいのは自分の言っていることだ。
支離滅裂で、何が言いたいのかわからない。
それでもかまわず、レナはリーマスの背中を押して部屋の中を進んだ。


『少しそこで頭を冷やして!』


リーマスをバスルームに押し込み、乱暴にドアを閉め、レコードをかける。
これで少しは音をごまかせるはずだ。
泣いたことが気取られないと思えば、泣いてくれるかもしれない。


『もうっ、もうっ!』


こんなことしかできない自分が嫌で、レナはクッションに当り散らした。
安物のクッションはすぐに破れ、端から綿がでてしまう。
まずい怒られると慌てて直し、なんとかごまかせる状態になったところで、レナはようやく落ち着いた。


『何やってるんだろ私……』


ため息をつき、ろくな明かりすらつけていなかった部屋にランプを灯した。
ついでにくもの巣もと思い杖を振ったが、1年いなかったわりには家の中はきれいだった。


『何か食べるかな?』


いつまでも泣いてリーマスに迷惑をかけるわけにはいかない。
レナは頬を両手で叩き、キッチンへ向かった。


『あるわけないかあ』


食材がしまわれていた棚を開けては閉め、開けては閉めを数回繰り返し、レナは料理を持ってくるんだったと思った。
缶詰ならいくつかあったが、残念ながらありあわせのものでオリジナル料理をちゃちゃっと作れるような腕前は、レナは持ち合わせていない。


(三本の箒にいけばテイクアウトできるかな?)


くもの巣を取ったばかりの暖炉に目をやり、それはできないと首を振る。
煙突飛行ネットワークを使って大丈夫かどうかがわからない。
仕方なくレナは紅茶缶とやかんを取り出し、お湯を沸かし始めた。


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