stand by me | ナノ
別れ(後編)
[1ページ/2ページ]

ダンブルドアはなかなか騎士団本部に現れなかった。
それはありがたくもあったし、不安でもあった。
相変わらず騎士団のメンバーは忙しそうにしているが、特に大きな問題が起こることもなく春が終わり、初夏が訪れた。

窓から見える公園の木々が青々としてくると、シリウスの機嫌がいい日が増えてきた。
試験が終わればハリーが戻ってくるからだろう。
少し前までは暖炉を眺めながら「連絡が来ない」「ジェームズならすぐに会おうと言ってくれるだろうに」とブツブツ文句を言っていたのだが、それもなくなった。
冬休み前がそうであったように、夏休みまでの日数を指折り数えている。
会議のときだけは相変わらず機嫌が悪いが、毎度おなじみすぎてみんなももう慣れてきた。

それよりもリーマスのほうが気になる。
隠しているつもりなのだろうが、疲れ果てているのは明白で、目の下からクマが消えることがない。
弱音を吐くこともなく任務もきっちりこなしているようだから、心配というか、尊敬するというか、背中が遠く感じられるというか――とにかく気になって仕方がなかった。


(満月の散歩かあ)


リーマスには拒否されてしまったが、行けるものなら行ってみたい。
でも、そのためにはアニメーガスを完成させなければいけない。
完成してしまえば、ここに残る言い訳がなくなってしまう。


(あれなんだろ)


窓からぼーっと外を見ていたレナは、夕闇迫る街並みに、一筋の銀色の光を見つけた。
光はだんだん近づいてきて、壁を通り抜けて部屋に入ってきた。
銀色の鹿から発せられる低い声は、スネイプのものに似ていた。


『シリウスならいるけど、……え?いちゃまずいの?食堂に人を集めるって、シリウス抜いたらリーマスしか……おーい』


光る鹿はレナの返事も聞かず、すぐに外に出てしまった。


(ふりじゃないよね?)


今は屋敷にシリウスとリーマスしかいないのだから、シリウスに秘密のことならリーマスに直接言えばよかったのではないだろうか。
それにもうじき夕食の時間だ。
機嫌がよければ、何も言わなくても降りてくる。
来るなと言えば逆に怪しまれるだろう。


(誰がいるか知らないのかな?)


スネイプは、学期中はあまり本部に顔を出していない。
だから全員の予定は把握しきれていないんだろうと考えながら、レナはリーマスの部屋に伝言を伝えに行った。
守護霊が来たと聞き、リーマスは険しい顔をした。


「スネイプの?本当に?」
『初めて見たからわかんないけど、声はあの人の声だった』
「どうしてレナに……」


困惑しつつも、リーマスは地下へ向かった。
途中で玄関から誰かが入ってくる音がした。
ムーディとトンクスのようだ。
ひそひそ声が聞こえてくる。


「ねえ、本部に戻る意味ってある?私たち魔法省にいたのよ?エレベーターですぐじゃない」
「今行ったところで何もない。タイミングが重要だ。それに相手の人数もわからん。できうる限りの準備と作戦が必要だ。油断大敵!」


2人が近づいてくるにつれ、リーマスの表情は険しさを増した。
食堂に行きかけていた足の向きを変え、2人の元に歩いていく。


「いったい何があったんだ?」
「あれ?リーマス聞いてないの?」
「話はあとだリーマス、ニンファドーラ。アレが騒ぎ出してはかなわん」


マッド-アイは義眼をぐるりとまわし、死角に掛けられている絵画のほうを見た。
ニンファドーラと呼ばれたことでトンクスは怒ったが、声を荒げることはなかった。
いつも躓く傘立てに気をつけながら食堂に降りる階段に向かい、リーマスとレナもそれを追っていく。
それから10分くらい待ったが、人が増えることはなかった。


「残してきたキングズリーを入れても4人か」


マッド-アイが唸った。
ダイニングテーブルを囲んでいるのは先程の3人だけだ。
さらに5分待ち、もうこれ以上誰かが来ることはないだろうと判断すると、マッド-アイは手短に状況を話した。


「閉心術の訓練を続けていなかったということか?」


ハリーがヴォルデモートに見せられた偽の光景を信じていると聞き、リーマスは憤った。


「スネイプは何をやっているんだ」
「過ぎたことを言っても仕方がない。既にポッターは仲間を引き連れて神秘部へ向かっている」
「それじゃ、悠長に話をしている場合じゃないじゃないか」
「大丈夫よリーマス。戻る前に確認してきたんだけど、姿くらましや煙突飛行を使ったという記録はなかったわ」
「おそらく空の移動だろう。となれば、着くのは早くとも暗くなってからだ」
「だからって――」
「到着があればキングズリーから連絡が入る」


それまでに作戦を立てなければならないとマッド-アイは息巻いた。
到着前にハリー達を保護すればいいんじゃないかとレナは思ったが、空での捜索の難易度がわからないため黙っていた。

何より、口を挟める雰囲気じゃない。
口調はいつもと同じなのに、ピリピリとした空気が空間を支配している。
マッド-アイは建物の見取り図のようなものを取り出し、侵入経路になりうる場所に印をつけ始めた。


「学校を出た子ども達はポッターを含めて5、6人だという話だ」
「多いな。ダンブルドアはこのことを?」
「スネイプが伝えているはずよ。間に合ってくれるといいんだけど」
「闇払いに応援は頼めないのだろうか」
「今の魔法省じゃ期待できん。一応キングズリーが何かと理由をつけて残業させるよう仕向けているが、やつらは実際に死喰い人の侵入が確認できるまで動かんだろう」
「つまり、私たちだけでやるしかないってこと――」


集まったメンバーを見回したトンクスは、キッチンの入り口を見てギクリと表情を強張らせた。
その様子に気づいたリーマスとマッド-アイが次々と顔を向け、全員がしまったという顔をした。
そこには、シリウスが立っていた。


「これはこれはみなさんお集まりで。どうやら私は集合の知らせを聞きそびれたようですね?」


シリウスは明らかに怒っていた。
1人1人の顔を順番に睨みつけながら室内に入ってきて、無理やり輪の中に入り、ドカッとイスに座った。
先ほどまでとはまた違った緊張感が走った。


「ハリーを含めて6人だって?私がハリーを守れば残りは5人。ダンブルドアとキングズリーを含めればぴったりだな」


シリウスの目がテーブルの上の図面にいった隙に、他のメンバーの間でさっと目配せがされたことにレナは気づいた。


「ブラックよく聞け。今回ばかりは連れて行くわけにはいかん」
「“今回も”の間違いだろうマッド-アイ。それとも“今回ばかりは連れて行く”の間違いか?」
「いいからまずは話を聞け。ポッターはお前が捕まったと信じ込んでいる。そこにお前が出て行けば、今後ますます夢と現実の区別がつかなくなる」
「スネイプからも君を出さないよう連絡が入ったんだ。おそらくやつらは君を利用する作戦でくる」
「ハリーが心配な気持ちはわかるけど、ここは私たちに任せて」
「私の気持ちがわかる者がこの場にいるとは思えないね」


次々とかかる説得も、まったく無意味だった。
むしろ、自分の夢が原因だと聞いたことで、使命感に火がついたようだった。
シリウスは前のめりになり、地図の×印を目に焼き付けていった。


「これは待機場所の割り振りか何かか?」
「ブラック、お前はここで待機だ」
「その話は終わりだマッド-アイ。ここで仲間割れをしている時間はないはずだ。違うか?」
「わかっているなら駄々をこねずに部屋でじっとしていろ」
「息子の命の危機だってのに、じっとしていられる親がどこにいる!」


今すぐにでも乗り込みそうな勢いで、シリウスがテーブルをドンと叩いた。
よくない流れだ。
争っている時間はないと自分で言っておきながら、怒鳴って作戦会議を妨げている。


『シリウス、1回冷静になろ。よくわかんないけど、なんか罠っぽいから』
「邪魔をするなレナ!変身するぞ!」
『――っ』


シリウスの肩に手を乗せたレナは、勢いよく後退してリーマスとマッド-アイの間に逃げ込んだ。
しかし、マッド-アイにぐいっと押し出されてしまう。
よろけるレナの背中に、チョンチョンと大振りの杖が当たる。
なんだろうとレナは振り返ったが、マッド-アイは見取り図の説明に戻っていた。


(え、まさか、なんとかしろって言うんじゃないよね)


無茶振りにも程がある。
犬になったらどうしてくれる。
というか騎士団員の言うことも聞かないシリウスが、レナの言うことを聞くはずがない。
しかもハリーが危険な状況なのに、だ。


『……えっと、シリウス、行っちゃやだなー』
「お前はリーマスの心配だけしてろ」
『でもほら、シリウスに出て行かれると私が1人ぼっちになっちゃうから、心細いなー』
「悪いが私は君の心の平穏よりもハリーの命のほうが大事だ」
『ですよねー』


むしろそっちを大事にしてくださいと言いたい。
だって神秘部といえばあれだ。
アーサーが大怪我を負った場所だ。
細かい話の内容まではわからないが、そこに子どもたちが向かっていて、敵が待ち構えているなら、迎え撃つのは1人でも多いほうがいい。


(行かなくてすむなら行かないでほしいけど)


レナは真剣な表情で話すリーマスへ目を向けた。
できることなら、行かないでと言いたい。
シリウスの代わりに残ってほしい。

でもそんなこと言えない。
身を削ってまで真剣に取り組んでいることを個人的な感情で止められないし、1分1秒でも惜しい状況で余計な発言をして邪魔をしたくない。
レナにできることは、マッド-アイに頼まれたのかもしれない任務を格好だけでも果たすために、シリウスの腕をちょいちょい引っ張ることくらいだ。


←前へ [ 目次 ] 次へ→
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -