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襲撃
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9月になり、子ども達が学校へ行くとモリーも家に帰ってしまい、屋敷はがらんとした。
他の騎士団の人たちも、定例の報告会のときくらいにしか本部に集まらなくなる。
ここで寝泊りしているリーマスは他の人に比べれば顔を合わせることが多いが、長期間家を空けることもしばしばだ。
リーマスとトンクスが一緒に出て行く姿を見て、レナは胸にチクリとした痛みを感じた。


(トンクスはいいなあ)


明るくてユーモアがあってよく笑うトンクスは、ドジな一面こそあるものの魔法の腕は確かで、政府機関の闇払いとかいうなんだかすごい部署に務めている。
闇の魔術に対する防衛術の先生をしていたリーマスと話があうのだろう。
一緒にいる姿を見かけることが多い。

リーマスも楽しそうに会話に応じているし、ときには真面目に難しい話をしている。
まさに対等、仲間といった感じだ。
レナの知らないリーマスの一面もたくさん知っているに違いない。


(私も魔法学校に通いたかったな)


レナは夏休み中にハーマイオニーに教えてもらった、日本の魔法学校の話を思い出してため息をついた。

どうして自分は通わせてもらえなかったのだろう。
もし、普通の小中学校ではなく、そっちに行っていたら、もう少し役に立てたのかもしれないのに。

大掃除も終わり、やることがなくなってくると、そんなことばかり考えるようになってしまう。


「不満そうだな」


1人で昼食を食べているところにシリウスがやってきた。
髭を剃っておらず、わずかに酒の臭いもする。


『また飲んでたの?』
「他にすることがないんでね」


吐き捨てるように言い、シリウスは厨房へ消えていった。
次の酒瓶でも探しているのか、何かを物色するような音が聞こえてくる。


『食べるならフライパンに余りものがあるよ』
「ん?ああ……」
『座ってて。暖めるから』
「悪いな」


本来の目的ではなかっただろうに、シリウスは「助かる」と言って戻ってきてテーブルに座った。
入れ替わりでレナが厨房に入ると、案の定、シリウスが酒を隠している場所の戸が開いていた。


「当然か。こんな場所を不満に思うなってのは無理な話だ」


シリウスは鼻で笑った。
レナが昼食を食べるのに使っていた、家紋の入った純銀製の食器を忌々しげに見ている。


『別にこの家が嫌なわけじゃないよ』
「じゃあなんだ?外に出られないことか?」
『そんな感じかな』


あいまいに答えると、シリウスは「その気持ちはよくわかる」と同調を示し、この家でおとなしくしていることがいかに不幸なことなのかを語って聞かせた。

レナはフライパンを揺すりながら相槌を打ち続けた。
アニメーガスについて教えてもらうお礼にできることは、こうして愚痴を聞いてあげることくらいだ。
リーマスにも頼まれているというのに、なんとも情けない。


『どうしてシリウスだけダメなんだろうね。やる気も実力もあるのに変だよね』
「そうだろ!?」


大きな声で言ってから、シリウスは舌打ちをした。
レナが持って戻った料理を受け取り、食べ始めても愚痴は止まらない。


「しかし私は世間では犯罪者ということになっていて、アニメーガスのことも敵に知られている。家を提供するくらいしかやれることがない。少なくともダンブルドアはそう思っている」
『ダンブルドアの言うことは絶対なの?反抗しちゃえば?規則なんて破るためにあるようなものなんでしょ』
「それもそうだな」


ニヤっとしつつ、本気で考えてはいないようだった。
どうやら本当にダンブルドアの言うことは絶対らしい。
ファンタ爺おそるべしだ。


「偉いなレナは」


シリウスは落ち着いた声で言った。
少し馬鹿にしているようにも聞こえた。


「素直に言いつけを守っておとなしくしていて。私のように癇癪を起こすこともない」
『それがリーマスのためになるってシリウスが言ったんじゃん』


外に出たいとは思う。
あと数ヶ月しかないのだ、少しでも長く一緒にいたい。
でも、あと少しだからこそ迷惑はかけたくない。
以前シリウスが言ったとおり、ここにいることが最善の策なのだ。


「身の安全につながるとは言ったが、ためになるとは言ってないぞ」
『どういうこと?同じでしょ?』
「ある意味ではな。ある意味では――そうだな、一緒にいてやれ」
『えええ意味わかんない』


一緒にいることよりも命の方が大事だろと言ってレナを説得したのはどこの誰だ。
同一人物のセリフとはとても思えない。
顔色は変わっていないが、実は相当酔っているのかもしれない。
アニメーガスが完成したら一緒にいたいと提案してみたらどうだとまで言ってきた。


『それ、リーマスが許すと思う?』
「思わないな」
『でしょ』


じゃあ聞かないでよと言いながら、レナは食べ終わった皿を片付け始めた。
自分はシリウスとは違う。
アニメーガスになれるようになっても、他の魔法ができなきゃ足をひっぱるだけだ。
騎士団の本部に来てから、嫌というほど思い知らされたことだ。


『シリウスはいいなあ、リーマスとずっと一緒にいられて』
「レナもいればいいじゃないか」
『無理だよ。私は戻らなきゃいけないもん』
「戻ったあとでまた来ればいいだろ」
『シリウス、頭いいね』


その手があったかとレナは思った。
しかし、すぐにため息をつく。


『でもダメ。リーマスが私と一緒にいるのは、責任を感じているからだから、戻ってきても追い返されちゃう』
「リーマスがそう言ったのか?」
『言ってないけど、なんとなく一定の距離を保とうとしているのくらいはわかるよ』
「じゃあその距離から離れるなよ」
『う、うん』


シリウスはいったい何を言っているんだ。
ここは“無理に近づくな”とか“気にせず踏み込め”というアドバイスが返ってくるところなんじゃないの。
“それ以上離れるな”なんて変なアドバイスは初めて聞いた。

だいたい、現状維持でいいなら、変に行動をしなくていいってことじゃん。
酔っ払いめ。
言ってることが無茶苦茶だ。


「あいつは責任感だけで他人を家に置くようなやつじゃない」
『ありがと』


レナは片づけを終え、ついでに紅茶を淹れて戻った。
空になったシリウスの皿を下げる代わりにそこへカップを置く。
相変わらず何を言いたいのかわからないが、リーマスのことをよくわかっているという風に見えるだけでもうらやましく思える。


『ねね、暇なら他の魔法も教えてよ』
「暇って言うな」
『なんか戦えそうなやつとか。あと防衛術。そしたら一緒にいられる可能性も上がるし、シリウスの練習にもなるじゃん』
「素人相手じゃ準備運動にもならねえよ。でもまあ、じっとしているよりはいいか」


シリウスは紅茶をいっきに飲み干し、髭を剃ってくるといって出て行った。
取りに来たはずの酒瓶はテーブルの上に置かれたままだった。


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