stand by me | ナノ
選択のとき(前編)
[1ページ/3ページ]

「レナ、大丈夫かい?怖かっただろう。すまなかったね」


しばらくして話がまとまったらしく、リーマスが振り返ってレナの頭を撫でた。
レナはフルフルと頭を横に振り、リーマスの顔をじっと見た。


(よかった……いつものリーマスだ)


先ほどまでの険しい表情が嘘のように、柔和な顔つきをしている。
周りにいた人達も、疲れきってはいるが肩の力を抜いており、部屋の空気が変わったように感じた。
ひと段落したからなのか、視線は再びレナに集まった。


「先生……ルーピン先生?」


ハーマイオニーが控えめに聞いた。


「あの……その人、誰ですか?スネイプ先生は捕まえたとおっしゃっていましたが……?」
「まずはピーターだ」


リーマスはピシャリと言い、ピーターを縛りあげた。
次にずっと座ったままだったロンの足に添え木を固定し、怪我の応急処置をする。

ピーターは逃げないように手錠をつけ、両腕をそれぞれリーマスとロンにつなげた。
伸びたままのスネイプは杖で浮かせ、テキパキと学校へ戻る準備を整えていく。
ハリーもロンもレナのことを気にしているようだったが、リーマスの言葉に従い、何も言わずに洞窟を歩いて出た。


一行は無言で、遠くに見える城の灯目指して歩いた。
暗い校庭をしばらく歩いているうちに、空を覆っていた分厚い雲が切れる。
光が差し込み、レナの前を歩いているリーマスの後姿がはっきりと見えるようになった。


(よかった。月が出た――って、満月!?)


雲の切れ目から顔をのぞかせたお盆のように丸い光を見上げたレナは、ハッとして後ろにいるスネイプを見た。
宙に浮いたまま、まだ目が覚める気配がない。
横でシリウスが立ちすくみ、片手をさっとあげてハリーとハーマイオニーを静止している。


(あのとき、確か……)


レナがリーマスの部屋で見つかったとき、スネイプはゴブレットを手にしていた。
薬だと言って入ってきた気がする。
あれが今日飲む分の脱狼薬だったとしたら――。


「あの薬を今夜飲んでいないわ!危険よ!」


レナの気持ちを代弁するかのようにハーマイオニーが叫んだ。
「逃げろ」とシリウスが低い声で言う。
レナはどうすべきか悩み、振り返ってリーマスを見た。

リーマスは月を見上げて硬直している。
そして、手足が震えだした。


「何をしている!逃げろ!早く!」


シリウスが声を荒げるのと同時に、恐ろしい唸り声がした。
頭や体が伸び、ローブを突き破って背中が盛り上がり、リーマスの姿がどんどん変化していく。
牙が生え、全身を毛が覆い、丸まった手には鋭いカギ爪が出ている。


『――っ』


声が出なかった。
2本足で立ち上がり、バキバキと牙を鳴らすその姿は、想像していたものと全然違った。
自分の意思とは関係なく、足が勝手に後ずさりする。

シリウス達のほうへ行きかけたそのとき、ハリーの横に熊ほどの大きさがある巨大な犬を見つけてレナは悲鳴をあげた。
犬はものすごい勢いでレナに向かって走ってきて、そのまま脇を通り過ぎてリーマスの元へ行き、狼人間の首にくらいついて後ろに引き倒そうとした。
狼人間と大きな犬は牙と牙をぶつけ合い、カギ爪で互いを引き裂きあっている。
助けなきゃと思うのに、恐怖で足がすくんで1歩も動けない。


『どうしよう――ねえ起きて!』


助けを求めて、この場にいる唯一の人間の大人に呼びかける。
しかし、スネイプは宙釣りにされたまま動かない。


『ねえってば!リーマスが殺されちゃう!』
「シリウス、あいつが逃げた。ペティグリューが変身した!」


レナとハリーの声が重なった。
一段と高く吼える声と低く唸る声が聞こえ、レナが2匹を確認すると、狼人間が逃げ出すところだった。
森に向かって走っていくリーマスを、血を流した犬が追っていく。
いつの間に外れたのか、手錠から開放されたピーターはどこかへ消え、ロンが転倒していた。

「ロン!」
「大丈夫!?」

ハリーとハーマイオニーが駆けてきた。
2人はロンの様子を確かめ、生きていることを確認するとほっと胸を撫でおろし、周囲を見回した。
近くで座り込んでいるレナと目が合った。


「この人と2人を城まで連れていって、誰かに話をしないと」


ハリーが目にかかった髪をかきあげた。
何かを考えているようだった。
どこからかキャンキャンという苦痛を訴えるような犬の鳴き声が聞えてくる。


「シリウス……」


ハリーが暗闇を見つめて呟いた。
もう一度レナを見て、ロン、スネイプへと視線が移動する。


「2人を頼んでもいいかな?」


ハリーはレナに言い、返事を待たずに駆け出した。
ハーマイオニーもあとに続いていく。


『待って!置いていかないで!』


レナは叫んだが、ハリーは足を止めることなく暗闇の中へ消えていった。
キャンキャンという犬の声はまだ途切れ途切れに続いている。
合間に獣の唸り声のようなものも聞こえる。
レナは恐怖し、震えあがった。

どうしたらいいのかわからない。
ロンもスネイプも完全に伸びている。
シリウスの真似をして2人を城に連れていこうにも、杖は部屋だ。
身を護る術を何も持たないいま、何かが襲ってきたらおしまいだ。


『……スネイプ、先生』


あれこれ考えた結果、彼にすがるしかないという結論に達した。
完全に力が抜けてしまっている下半身に鞭を打ち、半ば這うようにしてスネイプの元までいく。

吹き飛ばされたときの衝撃で傷だらけになっているスネイプを叩き、揺すり、なんとか起こそうとする。
気絶をしているスネイプは、宙吊りになったままがくがくと揺れた。
そして突然、操り人形の糸が切れるようにドサッと地面に落ちて目を覚ました。


『助けて!』
「あやつらはどこだ」


ローブにしがみつくレナを振り払い、スネイプは立ち上がった。
辺りを見回し、近くにロンが倒れているだけだということを知ると舌打ちをした。
そして目を空に向け、煌々と月が輝いていることを確認し、眉根をよせた。


『リーマスが狼になったの!犬に襲われているの!』


レナはなんとか状況を伝えようと必死だった。
どうか通じますようにと願いながら、懸命に単語を並べていく。
スネイプは口元に手を持っていき、考えるそぶりを見せた。


「ポッターは?」
『犬を追っていきました。ハーマイオニーも。……あと、シリウスって呼んでたからたぶんシリウスも』
「ほう」
『リーマスを助けて!犬にかみ殺されちゃう!』
「問題ない。犬はもうじき無力になる」


スネイプは尻もちをついていたレナを立ち上がらせた。
覆っていた手がどけられ、端がつり上がった口元が露になる。


(なんでこの状況で笑えるの!?)


狂気じみたスネイプの表情に悪寒が走る。
その視線の先に無数の黒い浮遊体があることに気づき、寒気はより一層強まった。
吐く息が白くなったことが、体の震えが内面の恐怖からきているものだけではないと示している。


「来い。ルーピンが人語を話せないいま、貴様が証言するのだ」
『助けないと!』
「その、必要は、ない」


冷たく言い切り、ロンをついでのように拾い、スネイプはレナを連れて城へ戻った。


←前へ [ 目次 ] 次へ→
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -