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叫びの屋敷
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イースター休暇が終わり6月が近づくと、マクゴナガルもリーマスもあまり相手をしてくれなくなった。
聞けば、学年末試験があるとのことだった。
1年に1度きりの大事な試験で、5日間に渡って行われるらしい。

しかも午前と午後に1教科ずつ。
レナの学校は午前のみで数教科ずつ消化していたから、ずいぶんと大掛かりだ。

マクゴナガルが言うには就職に関わるような重要なものもあり、その試験は外部の人間が執り行うらしい。
そのため先生方も気を抜けないのだという。
生徒一人ひとりの状況を確認し、必要があれば呼び出して指導をしている様子は、受験直前期の進路指導室を思い出させた。


『早く終わらないかなー』


試験とは無関係なレナは、毎日窓際でのんびりと本を読みながら過ごした。
窓の外を眺めれば、雲ひとつない青空が広がっている。
一足早く夏が来たようないい天気だ。
外で遊ぶにはもってこいのこんな日にテスト勉強で缶詰なんて、どこの国でもテストは天敵だ。

* * *



テストは月曜の午前中から始まった。
教室から同じ呪文が何度も聞こえてくる。
結果は芳しくなかったようで、昼食時に戻ってきたマクゴナガルはあまりいい顔をしていなかった。

そしてその表情は試験の最終日まで続く。
すべての試験が終了すると、マクゴナガルは「試験結果をまとめてきます」とため息混じりに職員室へ向かった。
先生も大変だ。


(防衛術はどうだったんだろ)


レナは1週間以上会っていないリーマスのことを考えた。
寮監のマクゴナガルほどではないが、リーマスもかなり忙しそうだった。


『今日も会えないかなあ』


おつかれさまの意味も込めてマッサージとか片付けの手伝いとかをしてあげたいが、この時間に来ないとなると、今日はもう無理そうだ。
太陽はもう森の向こうに沈みかけている。
明日は会えるだろうかとオレンジ色に染まるホグワーツをぼーっと見ていたレナは、玄関から出て行く人影を見つけて首をかしげた。
もうすぐ日が暮れるのにと思い、双眼鏡をのぞく。


『ハリーと……グレンジャー?』


2つの人影は、レナが知っている姿だった。
他人の目を気にしてコソコソしているように見える。


『デート……?』


ハリーもなかなかやるもんだ。
でも、生徒はもう出歩いてはいけない時間のはずだ。
2人は校庭を通り抜け、森のほうへ消えてしまった。
どこに行ったのかはわからない。
戻ってくるかどうかしばらく見ていると、ハリー達の代わりにとんでもないものを見つけてしまった。


『グリム!?』


思わず大きな声を出し、立ち上がる。
窓ガラスに双眼鏡をくっつけ、深呼吸をしてからもう一度よく確認する。

間違いない。
大きな黒い犬だ。
マクゴナガルに知らせなければ――。
そう考えたとき、グリムがこちらを向いた。


『――っ』


双眼鏡を使っているのだから向こうから見えるはずがないのに、レナはパニックのあまり正確な判断ができなくなっていた。
どうしよう。
睨まれた。
死んじゃう。

でもその前にハリーだ。
彼はグリムにとりつかれている。
殺されてしまう。


『マクゴナガル先生、早く!』


レナは双眼鏡を持ったまま、青い顔をして部屋をうろうろした。
刻々と空の色が変化している。
暗くなってからでは探すのが大変になる。
そして逆に暗闇に溶け込める色をしたグリムが有利になる。


『はやく……早く戻ってきて……っ』


マクゴナガルを呼びに行こうかとドアに手をかけ、職員室の場所がわからないから入れ違いになるかもしれないと手を離す。
何度か繰り返したあと、レナは暖炉を見た。

勝手に行くのは駄目だとわかっている。
でも緊急事態だ。
もうあれから30分経っている。


『ルーピンの部屋!』


レナは、緑色の粉を暖炉に投げ入れた。

* * *



リーマスの部屋はもぬけのからだった。
しかし、少し前まで人がいた気配がある。


『すぐ戻ってくるかな……?』


レナはまた部屋の中をうろうろし始め、机の上に何かが広げられていることに気づいた。
吸い寄せられるように机へ向かうと、それは地図だった。
おそらく、ホグワーツの。
驚いたことに、地図上のあちこちに足跡と名前が書かれていて、動いている。


『いた!』


リーマスの名前はすぐに見つかった。
レナは窓から空を確認し、もう夜がすぐそこに来ていると知り、覚悟を決める。


(これを持ってリーマスを追いかけるしかない)


透明マントがあればきっと大丈夫だ。
そう考え、前においてあった場所にマントを取りに向かおうとしたとき、部屋の外から物音が聞こえた。
リーマスが戻ってきたのかと驚いて地図を見るが、部屋の前に書かれた名前は別人のものだった。


(やばっ)


レナは透明マントをひっつかんであわてて隣の部屋に隠れた。
訪問者――セブルス・スネイプは、ノックをし、リーマスの名前を何度か呼んだ。


「ルーピン、薬だ。――入るぞ」


諦めて帰れという祈りも虚しく、スネイプはドアを開けて部屋に入ってきた。
ゴブレットを机に置き、広げっぱなしになっている地図に気付く。

しまったと思ったときは遅かった。
スネイプの目が隣室に向き、まっすぐに歩いてくる。
躊躇なくドアを開けたスネイプはさっと部屋の中を見渡したあとに杖を取り出し、何か呪文を唱えた。
レナがかぶっていた透明マントがふっとんだ。


「これは、これは」


スネイプは笑っていた。
笑っているのに、全身から負の感情がにじみ出ている。
初めて目の当たりにするその姿にレナは恐怖を覚えた。


「どちら様ですかな?」


地獄の底から沸き起こってくるような低い声がレナの頭上から降ってくる。
向けられた杖先はまっすぐレナを捕らえて離さない。
レナはマクゴナガルの部屋から持ってきてしまっていた双眼鏡をぎゅっと握り締めた。

怖い。
超怖い。
これはボガートの変身対象になったことも頷ける。
女装姿を思い浮かべてみるものの、本人を前にしては何の意味もなかった。


「なるほど、そういうことか」


レナが恐怖のあまり何も言えないでいると、スネイプはレナを嘗め回すように見たあと、何度か頷いた。
1人で勝手に納得しているようだった。
早口なため何を言っているのかよく聞き取れない。


「直接やりとりするよりも間に1人挟んだほうが危険度は減りアリバイも作れ自分に向く疑いは減る。子どもを利用するならなおのこと。しかし甘いな生徒の目はごまかせても我輩の目はごまかせん」
『何?もう1回言って。ゆっくり』
「ほう……君は、満足に、話すことも、できないのか」


完全に馬鹿にした口調と表情だった。
スネイプはレナの襟首をつかみ、地図が広げられた机へ向かった。


「わかるか?ルーピンと、ブラックだ」


地図上の足跡を1つ1つ指差す。
ブラックという名前の横にはハリー達数人分の名前もあった。
地図の端へ消え、それを追う様にリーマスの名前も消える。


(よかった。リーマスが地図で見つけてハリー達を追ってくれたんだ)


ほっと一息つきかけて、そうも言っていられないことに気づいた。


『ブラックって、殺人犯の!?』


グリムが――“死”が、頭をよぎる。
ハリー達が危ない。
追っていったリーマスも危険だ。


「さよう。さしずめ貴様は見張り役といったところか?」
『え?何の?』
「言い逃れはできんぞ。いますぐ貴様を尋問し全てを吐かせてもいいのだが――」


スネイプはチラリと地図を見た。


「あいにく時間がない。まずはルーピンとブラックだ」
『そうだリーマス!助けなきゃ!』
「そうはさせん」


スネイプは杖を振り、レナの手に縄をかけた。
そして強引に外へ連れ出した。
初めての外出が、こんな形になるとは思ってもみなかった。


太陽はもう森の奥へ姿を隠している。
西の空はまだうっすらとした紫色だが、頭上は既に群青色に変化し、星もチラホラ見えていた。
足元がよく見えないため、レナは何度も転びそうになる。


『ねえ!ちょっと聞いてる!?危ないってば!』


構わずどんどん進むスネイプに引っ張られ、レナはついに坂道で転んだ。
スネイプは舌打ちし、思い出したかのようにパトローナスを出した。
銀色の生物は塔のてっぺんへ向かって飛んでいった。


「早く立て」
『なんなの!?あなたも先生なんでしょ?やめてよ!』
「喚いても無駄だ。たったいまダンブルドアに使いを送った。ブラックを見つけその手引きをした者を捕らえたとな。じきに魔法省の役人が来る。貴様もブラックもルーピンもまとめてアズカバン行きだ。もっともそれまで生きていられたらになるが」
『だからゆっくり言ってって!ダンブルドアがなに?アズカバンって誰?ブラックの仲間?リーマスを助けに行くんでしょ?』
「貴様は、もう、終わりだ」
『意味わかんないんですけどー!』
「ついにまともな言葉を話せなくなったか。せいぜい残りの時間恐怖するがいい」

だめだこいつ。
まったく話が通じない。
レナの英語が下手すぎるとか最後のは日本語で言ったから通じなくて当然だとか、そういうことじゃない。
まったく聞く耳を持っていない。
レナはスネイプに状況説明を求めるのを諦め、どうかリーマス達を助けに向かっていますようにと祈りながら後に続いた。


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