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狼おじさん疑惑
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『というわけで、青い鳥になろうと思うんです』
「どういうわけですか」
『いやあ……それが私にもさっぱりで……ひらめき?』


レナは渋い顔をするマクゴナガルの前で首をかしげた。
鳥になりたいとは前々から思っていたが、“青い”鳥がいいと感じたのは唐突だった。
もしかしたらリーマスの部屋に置いておいた折鶴がいつのまにか青くなっていたからかもしれない。
しかもなぜか天井からぶら下がっている。
高い位置で固定されており、ジャンプをしても手が届かなかった。
アニメーガスになりたくてもなれない現状を示しているようで悔しい。


「ずいぶんといいかげんな動機ですね。いいですかサクラ、何度も言うように、アニメーガスはとても難しい魔法なのです。他の変身術のように少し練習したくらいでなれるような簡単なものではないのですよ」
『じゃあ、いっぱい練習します!』
「そういう意味ではありません……」


マクゴナガルはため息をついた。
そしてアニメーガスがどれほど難しく危険を伴うものなのかをせつせつと語った。
決意が固かったレナは、それを右から左へと聞き流す。
このやりとりはもう飽きるほど繰り返した。


『やってみなきゃわからないじゃん?それに、戻るまでまだ時間かかりそうなんでしょ?』
「そのようですね……ですがアニメーガスになれるだけの時間があるとはとても思えません」
『途中まででもいいから!』
「どうしてそんなにアニメーガスにこだわるのです?他にも魅力的な魔法はたくさんありますよ」


あまりにレナがしつこいので、マクゴナガルは呆れ気味だ。
しかし、理由如何では考えてもいいという態度を初めて見せる。
レナはこのチャンスを逃すまいと納得してもらえるような理由を考えたが、結局パッと思い浮かんだことを口にした。


『私、青い鳥になって、ルーピン先生に幸せを届けたいんです』
「ルーピン先生に?」
『だってルーピン先生っていつも不幸そうな顔してるんだもん。……病気のこともあるし』


今日だって寝込んでいる。
先月もだ。
その前も、そのさらに前も……毎月のようにリーマスは寝込んでいる。
まったく快方に向かわないと、不治の病なのではないかと心配になってくる。

それに、この頃様子が変だ。
イースター休暇に入ったというのに、リーマスの部屋を訪れても、難しい顔をして地図のようなものを眺めてばかりいる。
相変わらず具合は悪そうだし、思いつめているようにも見える。


『……ねえ、ルーピン先生の病気って、深刻なの?治る?』
「今のところ、根本的な治療薬はありません」
『え!じゃあリーマス死んじゃうの!?』
「安心なさい。命に関わるような病気ではありません」


うっかり口からでたリーマスという呼び方は見逃してもらえた。
代わりにまたため息をつかれる。


「サクラ、あなたが彼を心配する気持ちもわかります。しかし、ルーピン先生はあなたが詮索することを望まないでしょう」
『詮索だなんて、そんなつもりじゃ』
「同じことです。本人が隠そうとしていることを別人から聞きだそうとしているのですから」


マクゴナガルは怒っているわけではなかった。
静かにそっとしておくようにとレナを諭そうとしている。
その様子がリーマスの病気の深刻さを物語っているようで、余計に心にずしんときた。


『……マクゴナガル先生は知ってるんですよね?』
「ええ、もちろんですとも。彼が生徒の頃から見ていますからね」
『みんな知ってるの?』
「知っているのは先生方だけです」
『子ども達には言っておかなくていいの?親は?ほら、いきなり何かあったらショックを受けるじゃん――』
「スネイプ先生が薬を調合してくださっています。万が一はありません」
『でも』
「いいですか、サクラ」


マクゴナガルは少し強い口調になった。


「教えてもいいと思ったら、ルーピン先生が自らの口で、あなたに伝えるでしょう。どうしても知りたいなら、私ではなく本人にお聞きなさい」
『聞いたけど……狼になるのを防ぐ薬だって言われたんだもん……』
「言ったんですか?ルーピン先生が?」


マクゴナガルが目を丸くして驚いた。
無理もない。
元生徒の現同僚が病気をごまかすためにセクハラ発言しているだなんて、知りたくなかった情報だろう。


『信じられます?18歳の乙女に向かってですよ。しかも一緒に過ごさなきゃいけない夜に!セクハラですよセクハラ!』


思い出したら腹が立ってきた。
こっちは本気で心配しているというのに、茶化すなんて――しかもその方法が最悪だ。


『いくらごまかすためだからって、ひどいと思いません?』
「サクラ、Ms.サクラ、落ち着きなさい」
『落ち着いてらんないですよ!学校側としてどうなんですか副校長!』
「ルーピン先生は、ごまかそうと思ったわけではないかもしれませんよ」
『本気で言ってたほうが問題だと思うんですが!』
「あなたは勘違いをしているのかもしれません、サクラ」
『勘違いってどういうこと?もしかして聞き間違い?似た病気の名前があるの?』
「本人に聞いてごらんなさい」


なんという無茶振り。
開いた口が塞がらない。
セクハラに発展する可能性があるこの内容をもう一度聞けっていうのか。
だいたいすんなり聞けて、きちんと答えてくれるなら苦労はしない。
マクゴナガルまで冗談を言い始めたのかと思ったが、当人はいたって真剣なようだ。


「あなたには話してくれるかもしれませんよ」


そう言って本棚から1冊取り出してレナに渡した。
変身術の――アニメーガスの本だった。


『これ……!』
「できる限りのことはしましょう」


マクゴナガルはイースター休暇が明けたら練習を始めるからそれまでに読んでおくようにとレナに告げた。

* * *



昼間のマクゴナガルとの会話が頭から離れず、レナは眠れずにいた。
そっとベッドから抜けだして机に向かい、もらったばかりの本の表紙を開く。
窓から入ってくる月の光のおかげで、灯りをつける必要はなさそうだ。

満月がこんなに明るいということも、こちらに来てから知った。
魔法に関係のないことですら知らないことが多いのに、リーマスの病気についてなんてわかるはずがなかった。


(聞いたらなんて返事するかな)


レナは月を眺めながら頭の中でシミュレーションを繰り広げてみた。


『体調よくなった?』


まずは無難な会話からだ。


『つらそうなときと元気なときと差が激しいみたいだけど、定期的にくる発作みたいなものなの?』
「そのようなものだね」
『薬は効いてるの?』
「そうじゃなきゃあんな苦いもの飲まないよ」


この辺まではいけそうだ。
問題はここから。


『それにしては具合悪そうだし毎月のように寝込んでるけど、あの薬ってどんな効果があるの?』
「前に言わなかったっけ?」
『狼になるって言ってたやつ?あれ本当のことなの?』
「本当だと言ったらどうする?」
『どうって……』


狼歓迎です襲ってくださいなんてとんだ痴女だし、危険人物ですねなんてひどいこと言えない。
こちらの反応を先に聞いてくるのはずるい。
答えにくいに決まってる。
――ということをわかった上であえて聞いてきそうだ。


『大変な病気だなって……』
「そうだね」


ダメだ。
これでは会話が進まない。
というか昼間にマクゴナガルが狼になる件は違うっぽいことを言ってたからこの流れはおかしい。


(ん?ごまかすつもりはなかったって言ったんだっけ?)


まずい。
こんがらがってきた。
狼になるのはごまかしじゃなくて、でも勘違いってどういうことだ。


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