stand by me | ナノ
クリスマス
[1ページ/2ページ]

外は一面銀世界。
部屋のドアにはリース、暖炉にはヒイラギや金色の燭台。
ようやく雨が止んだと思ったらもうクリスマスモードだ。

ホグズミード休暇に訪れたリーマスの部屋も例外ではない。
謎の生物や器具がたくさん置かれた状態のままクリスマス色に彩られていて、不思議空間が出来上がっている。


「散らかっているけど適当にくつろいでいて」


リーマスは眉をハの字にし、机の上に紙の束を積み上げながら言った。
レナに向かって「今日は相手ができないかもしれない」と申し訳なさそうにする。


『気にしないで。本を持ってきたから』


レナは暖炉の前にあるソファの上に置かれた荷物を横にずらし、リーマスが見えるポジションを確保して休憩時間を待った。
久しぶりに長時間話ができると思ったのにとがっかりする気持ちもある。

でも、リーマスが仕事をしている姿を見られるなんて貴重な機会はなかなかやってこない。
レナは本で顔半分を隠しながらチラチラとリーマスの様子をうかがった。

相変わらず洋服はくたびれていて表情も疲れているが、それが逆にいい味を出していた。
真剣に書物に目を通す姿は様になっている。
顔の傷ももう気にならない。
眼鏡をかけさせたいなとレナは思った。

* * *



「少し休憩しようか」


半分ほど紙の山が減ったところでリーマスが伸びをした。
待ってましたとばかりにレナは立ち上がり、魔法を使ってお湯を沸かし始める。
ピーピー音を立てるヤカンを見てリーマスが感心した。


『マクゴナガル先生がね、自分のことは自分でできるようになりなさいって』
「大切なことだね。さすがマクゴナガル先生だ」
『マクゴナガル先生だけ?』
「レナも、さすがだ」
『ふふー。あとね、変身術もいろいろ教えてもらって、センスあるって!』


ここぞとばかりにレナは会えなかった期間の成果を見せた。
マグカップをネズミにしたり、戻したりするレナにリーマスが拍手を送る。


「すごいね。たいしたものだ」
『変身術ってすごくない?無機物を有機物にしたり、その逆だったり、質量保存の法則も無視してさー……ってそれ言ったら魔法全部なんだけど』


1か月分の会話を取り戻すかのように話し続けるレナに、相槌を打ちながらリーマスがティー・バック入りの缶を取り出す。
おしゃれな紅茶専門店の缶ではなく、ところどころ塗装がはげて錆びている何かの使いまわしの缶だ。
レナが杖を振ると、使い古されていた缶はツリーとサンタクロースが描かれたピカピカの缶に生まれ変わった。
リーマスがまた拍手をし、レナはますます得意になる。


『自分の姿を変身させることもできるらしいの!アニメーガスって知ってる?』
「もちろん、知ってるよ」
『マクゴナガル先生を含めて数人しか登録されてないんだって。すごいよね!たった数人しかできないんだよ』
「ん、登録上は、そうだね」
『登録上?』
「なんでもないよ」
『もしかしてリーマスもアニメーガスになれるの?』
「私は無理だよ」


できないと言いつつも、リーマスの表情は得意気だった。
悪戯を思いついた子どものような顔にも見える。
そして少しだけ寂しそうだった。
どういうことか聞こうとするレナの前に、リーマスは先ほどの缶を出した。


「もう少し練習が必要なようだね」
『どういう――げ』


ちょうどサンタの帽子のあたりから赤い塗装が消え、元の色が見え始めていた。
2つの意味ではげている、傑作だと、リーマスは肩を震わせた。


『そんなに笑わなくてもいいじゃん!』
「ごめん、おもしろかったから、つい。このサンタがダンブルドアに似ているのは、わざと?」
『違うし!似てないし!笑いすぎだし!』


マクゴナガルに聞いたリーマスの学生時代の話も今なら信じられる。
監督生だったらしいから、きっと知能犯だ。
たちが悪い。
ダンブルドアに言いつけてやると言うと、それは困ると謝り、口止め料だといってチョコレートをよこした。


『私、アニメーガスになるのを目標にしようと思うんだ』


チョコを受け取ったレナは、むすっとしながらも話を続けた。
笑われたのは癪だが、リーマスが楽しそうならいいと思うことにする。
決して餌付けされているわけではない。


『何がいいかな?やっぱり鳥かな?』
「いいと思うけど、どうして鳥?」
『箒に乗れなくても空飛べるから』
「箒はもう諦めたのかい?」
『乗りたいけど、部屋の中じゃ練習できないんだもん。ねえ、リーマスは何になりたい?』
「そうだなあ……考えたこともなかったなあ」


リーマスは淹れたての紅茶を口に運びながら考えた。
考えている、のだと思う。
琥珀色の液面を見ながら動かなくなってしまった。


『犬以外でお願いね』
「はは、レナは本当に犬が嫌いなんだね」
『嫌いというか無理なの――あ』


犬、という単語で、レナは気になっていたことを思い出した。


『そういえば、ホグワーツで犬飼ってる人いる?』
「ペットとして持ち込めるのはフクロウと猫とひきがえるだけだよ。どうしてだい?」
『この前のクィディッチの日に大きな黒い犬を見た気がして』
「どこで?」


リーマスの目が険しくなった。
不思議に思いながら、レナはマクゴナガルに借りた双眼鏡で試合を見ていたときに観客席の1番上にいた気がするのだと教える。
リーマスはますます険しい顔になった。


「それ、マクゴナガル先生に言った?」
『ううん。なんかあの日はすごくピリピリしてて怖かったから言ってない。言った方がよかった?』
「いや……言わなくて正解だよ。これからも内緒にしておいた方がいい」


ただの犬の話なのに、なぜか深刻そうだ。
レナが『どうして?』と聞いても『見間違いかもしれない』と言っても答えてくれない。
難しい顔でまた何か考え込んでいるようだった。


『リーマス?犬がいると何かまずいの?マクゴナガル先生も犬嫌いなの?』
「あ、ああ……」


リーマスは紅茶を飲みきり、それから言葉を選ぶようにして話し始めた。


「占い学の授業でグリムがついていると言われた生徒がいてね、それからちょっとした騒ぎになって――」
『グリム?童話?』
「ただの伝説上の生き物だよ。黒くて大きな犬の形をしていて、見た者は必ず死ぬと言われているから死神犬とも呼ばれてる」
『し、死神……』


かわいそうに。
そんなものがついていると言われたらそれだけでもう死にたい気分になる。
というか見てしまった。
死ぬ。


「マクゴナガル先生はもともと占いを信じない方だし、言われた生徒がグリフィンドール生だったからお怒りでね。もしそんなものを見たと言ったら――大丈夫だよ、黒い犬を見たからって死んだりしない」
『でも、犬だし……既に死にそう……もうダメかも』
「ははは、レナは単純だね」


真っ青になるレナを見て、リーマスが笑った。


「伝承なんて大抵はそういう思い込みが原因だよ」
『じゃあわざわざ言わないで!』
「ごめんごめん、面白いくらいに顔色が変わるからさ」
『遊ばないでよ!変に焦っちゃったじゃん!』
「純粋でかわいいと思うよ」
『だーかーらーーー!』


遊ばれている。
そうレナは確信した。
リーマスのほうがよっぽど顔色が悪いくせに、表情だけ嘘のように生き生きしている。
さっきまでの真面目な雰囲気が嘘のようだ。


『……まさか演技?』
「ん?なんのこと?」
『うわー騙されたー!』
「ひどいなあ。嘘は言ってないのに」


ひどいと言いつつもリーマスは笑顔だ。
からかっているときが1番楽しそうだなんて、やっぱりリーマスは侮れない。


「さて、そろそろ残りの仕事を片付けなきゃ」


「いい気分転換になったよ」というリーマスの言葉を聞き、もう二度といい人認定してやるものかとレナは心の中で誓った。


←前へ [ 目次 ] 次へ→
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -