stand by me | ナノ
乙女心と秋の空
[1ページ/2ページ]

ハロウィーンの夜からどうも落ち着かない。
せっかく借りた“ホグワーツの歴史”の内容も頭に入ってこないし、天気も悪いし、気分は最悪だ。


「どうかしたんですかサクラ、難しい顔をして」
『あ、えと、この本難しいなって』
「その分勉強になりますよ」
『はーい』
「ルーピン先生のところには行けませんよ」
『わかってますー』


マクゴナガルはすべてお見通しだ。
リーマスはあれから体調が悪化したようで、今日はまた寝込んでいるらしい。
きっとちゃんと薬を飲んでいないからだ。
さっき生徒たちが代理の先生がひどかったと授業前に騒いでいたのが聞こえた。


『ねね、侵入者って見つかったの?』
「もうホグワーツにはいないでしょう。あの日の目撃情報も間違いだったのではないかという話になっています」
『本当?』
「嘘を言ってどうするのですか」
『ですよねー』


そう返事はしたものの、レナは疑っていた。
本当は侵入していた証拠があるに決まってる。
そうじゃなきゃ、こんなにピリピリしているはずがない。


「信用できないのであれば、その本を隅から隅までお読みなさい。私が嘘を言っていないと理解できるでしょう」
『……開心術使ってる?』


あまりにもマクゴナガルがずばずば当ててくるので、レナは初めてダンブルドアに会ったときのことを思い出した。
マクゴナガルは心外だという顔をした。


「あなたがわかりやすすぎるのですよ、サクラ。多少言葉がわからないときも、表情や口調でだいたい予想がつきます」
『えー!通じてないときもあるってこと!?』
「補うのに十分すぎる情報を与えてくれるということです。それから嘘をついているだろうということもだいたいわかります」
『マジっすか』
「ええ、わかりますとも。いまのは“本当に?”というような意味ですね?」
『はい……』


日本語で言ったのに。
マクゴナガル恐るべし。


「だてに長年教師をやっていませんよ」


自信たっぷりに言うマクゴナガルには後光がさして見えた。


『あ、そういえばルーピン先生もマクゴナガル先生の生徒だったんですよね?』
「そうですよ」
『昔から病気がちだったの?』
「……ええ。しかしとても優秀な生徒でした。監督生も務めあげたのですよ」
『へー!すごい!』


他人のことを言えなくくらい、マクゴナガルだってわかりやすい。
あからさまにリーマスの病気のことを避けようとしている。
その証拠に、聞いてもいないのにリーマスの学校生活のことをいろいろ語り始めた。
ありがたく全部聞いたけど。

問題児集団の一員だったことは意外だった。
あの顔の傷はその時のものなのだろうか。
いくらなんでもやんちゃしすぎじゃない?
それでいて監督生とは。
先生になっちゃうとは。
いろんな意味で、魔法界すごい。

* * *



次の日も土砂降りの雨だった。
風がうなり、雷鳴がとどろく。
楽しみにしていたクィディッチの試合の日にこれではマクゴナガルもさぞがっかりしているだろう。
と思いきや、朝から気合十分で、朝食後にマントを羽織ってリボンを締める様は、まるで戦にでも行くようだった。


『その格好、どこか出かけるの?』
「ええもちろん。今日はクィディッチの試合がありますからね」
『雨降ってるけど?』
「この時期はこれが普通ですよ。11月いっぱいは雨の日が続くでしょう」
『中止しないの?』
「なぜです」
『え!?』
「これしきの雨で中止する学校がどこにあるんです」


脱獄犯が侵入しても修学旅行気分、雷が鳴るほどの大雨でもスポーツ大会。
魔法学校の生徒、タフすぎか。
マクゴナガルも失礼ながらそれなりにお年をめされているように見える。
雨の中長時間外にいて大丈夫なのだろうか。

いろいろと心配になるが、マクゴナガルを見ているとそんなのは全部馬鹿げているように思えてくる。
もしかしたら魔法でなんとかなるのかもしれない、うん。


「いいですか、大人しくしているのですよ。絶対にこの部屋から出てはいけません。暖炉の使用もいけませんよ」
『わかってますって』
「短時間だから何もないとは思いますが、何かあればしもべ妖精をお呼びなさい。姿は見えなくとも、声を出せばすぐに駆けつけてあなたを手助けしてくれることでしょう」
『勝手におやつもらってもいいの?』
「仕方ありませんね。今日だけですよ」
『やった。あ、ここから試合が見れるような道具ないですか?』
「これでよければ、お貸ししましょう」


マクゴナガルは双眼鏡を取り出した。
何の変哲もない、ただのおしゃれな双眼鏡だ。
魔法界特有の何かを期待していただけに肩透かしをくらった気分だ。


「試合会場はあちら側です」


示された方向には、塔のような旗のようなものが何本か立っているように見えた。
そこに向かって歩いていく集団も見える。
傘が吹き飛ばされている。
本当に大丈夫なのか。


「絶対に勝ちますから、よく見ておくのですよ。いいですか、赤が私達のチームですからね」
『は、はあ』


いいですかと言われても。
私達のチームと言われても。

マクゴナガルの人の変わりようにはただただ驚くしかない。
リーマスといいマクゴナガルといい、ギャップがありすぎて心臓に悪い。
そりゃ大人なんだからいくら全寮制といってもオンオフの切り替えくらいするだろうけど。

てことはなんだ?
あの夜のリーマスはオフモードだったってこと?
侵入者があった夜に?
私だったから――?


『ないないないない!』
「どうかしました?」
『なんでもないです!あ、あの黒いのが敵チームですか?』
「まさか!あれはディメンターです!」
『めん……何?』
「今は説明している暇がありません」


これでも読んでおけと、マクゴナガルは分厚い本を渡した。
そして時計を見て時間が迫っていると言い、足早に出て行ってしまう。


『音も綴りもわからなかったら調べようがないんですけどー!』


マクゴナガルが消えたドアに向かってレナは叫んだ。

* * *



一応レナは本を開いてみたが、生物の名前ごとに章立てられている辞典のようで、挿絵もほとんどない。
目当てのものを探すのなんて無理に決まっていた。
早口だったし1回しか聞けなかったし、コメンテーターだかエンターティナーだかそんな感じの言葉だったという雰囲気しか覚えていない。

レナは10分も経たないうちに本を諦め、双眼鏡を持って窓際へ行った。
あの黒いものの正体よりも、マクゴナガルをあそこまで豹変させるクィディッチの試合のほうが気になる。


『……まあ、見えないよね』


雨が酷すぎる。
高速で移動する選手はとても無理だ。
それならば試合に熱狂するマクゴナガルでも見てみようと観客席に双眼鏡を向けると――


『え。なに、いまの……』


何か大きな黒い生き物が見えた。
人ではない。
空に浮かんでいるものほどの大きさはない。
一瞬しか見ていないというのに、背筋がぞわっとした。


『い、犬……?』


気になるが、とてももう一度探す気にはなれなかた。


←前へ [ 目次 ] 次へ→
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -