stand by me | ナノ
W.W.W.
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数日に1回の割合で出かけていくリーマスは、毎回げっそりやつれて戻ってきた。
家にいるとき以外は何も食べていないんじゃないかと思えるほどで、光が当たれば目立つ程度だった白髪も、鳶色の髪の中でずいぶんと主張するようになってきている。
レナは裂けたローブを縫いながら、血がついていないことを念入りに確かめた。


『リーマス、このローブってお気に入り?』
「いや、まだ着れるから着ているだけだよ」
『じゃあさ、これ着てみない?フレッドとジョージが開発した“盾のマント”。もらったはのいいけど店で着るには邪魔だし、かといって外に出ることもないし、持て余してたんだよね』
「それが木の枝や岩へのひっかかりも防いでくれるならいいかもしれないね」
『それはどうだろ……とりあえず着てみて』


半ば強引にリーマスに羽織らせ、丈が圧倒的に足りないことに気づく。
リーマスは「そりゃそうだ」と笑ってマントをたたみ、ふくろう便を取りに行った。


「ハリーの誕生日パーティをやるらしい」


戻ってきたリーマスは、手紙をレナに見せた。
差出人はモリーで、ハリーを励ますためにも暇ならぜひ来てほしいと書かれている。
「どうする?」と聞かれたレナは、『行きたい!』と即答した。

* * *



少しでもリーマスの気晴らしになればと思っての返事だったが、パーティはあまり楽しい空気ではなかった。
しかも、そういう空気を作ったのは他でもないリーマスだった。

モリーにバースデーケーキを取り分けてもらいながら、およそ誕生日パーティにふさわしくない、騎士団の会議みたいな内容の話をしだしたのだ。
吸魂鬼の襲撃事件や誰かの死体が見つかったという話に、バースデーケーキを切り分けていたモリーが顔をしかめている。


「何かもっと別なことを話したほうが――」
『そうだよ。例えば……ほら、ハリーのお父さんが16歳だった頃の話とか』
「フローリアン・フォーテスキューのことを聞きましたか?」


レナはモリーに同意したが、ほぼ同時に発言したビルの言葉にかき消されてしまった。
ビルの隣には婚約者のとびきり美人なフランス人女性のフラーがいて、ビルのグラスにワインを注いでいる。
最近婚約したらしいこの美男美女カップルは、隣に並んでいるだけでキラキラ輝いて見える。
だからなのか、テーブルにいた人たちは全員ビルの方を見た。


「僕に、いつもタダでアイスクリームをくれた人だ」


主役用の席に座っていたハリーが身を乗り出した。

会話の中でダイアゴン横丁にあるアイスクリーム屋だと知り、レナは身構え、周囲の反応を窺った。
モリーがどんどん不機嫌になっているのは明らかなのに、誰も会話を止めようとしない。
そればかりか、アーサーやジニーなど、その場にいた人が次々と会話に混ざっていく。


「ダイアゴン横丁といえば、オリバンダーもいなくなったようだ」
「杖作りの?」
「そうだ。争った跡がないから、自分で出て行ったのか誘拐されたのか、誰にもわからない」
「それじゃ、杖は――杖のほしい人はどうなるの?」
「他のメーカーで間に合わせるだろう。しかし、もし敵がオリバンダーを手中にしたとなると、我々にとってはあまり好ましくない状況だ。オリバンダーは最高だったからね」


リーマスが言うのを聞き、これは自分にとっても好ましくない状況だぞとレナは思った。
ダイアゴン横丁の住人が次々と消えているという話になれば、W.W.W.に行くのを禁止されかねない。
レナはなるべく自分に注目されないように、身を小さくしてケーキを食べることに集中した。

* * *



その後もしばらく危険な世界情勢の話が続いたが、レナが恐れた事態にはならなかった。
それはきっと自分達と商品が信頼されているからに違いないと、フレッドとジョージは大いに盛り上がった。
本人の許可もなしに、盾シリーズの商品には“闇の魔術に対する防衛術で1番人気のアノ教師のお墨付き!”という謳い文句が付け加えられる。


『これって虚偽広告になるんじゃないの?』
「実際に効果があって人気もあるんだ。問題ない」
「虚偽広告っていうのは、ああいうのを言うんだ」


フレッドは、澄ました顔で、通りにあるボロボロの屋台を指差した。

いつの間にかそこにいた露天商は、毎日怪しげな護符を売っている。
背後にある髪の長い魔女の手配書が、今にも飛び出してきそうなほど叫び狂っているため、誰も近寄ろうとしない。

当然、売れているところも見たことがない。
だからなのか、日々広告が過激になっている。
今の紹介文は窓から見えるだけでも“これで死喰い人ともおさらば!”“闇の魔法使いが半径1km以内に近づけなくなる!”となっている。


『あれは宣伝どうこうの前にいろいろ問題があると思うけど』
「まあ、彼はベラトリックス・レストレンジのファンなんだろうさ」
「ノクターン横丁まで50mの地点でうしろに死喰い人を背負いながらアレを言ってるんだ。なかなかのセンスだと思うぜ」


2人はニヤニヤしながら言った後、気を取り直すように手を叩いた。


「さあ、これから1週間はとびきり忙しいぞ」
「特に週末が山場だ」


棚という棚に商品がぎゅうぎゅう詰めにされた店内で、フレッドとジョージがこぶしをつき合せた。
レナも促されるまま同じポーズをとり、ダンブルドアの真似だという、「わっしょい」だか「どっこいしょ」だかよくわからない掛け声を復唱させられた。


「いやあ、レナが出勤できる日でよかった」
「ああ、7月末にルーピンが帰ってきたときはひやひやしたよ」
『まるでリーマスがいないほうがいいみたいな言い方しないでよ』


レナは2人を睨んだが、すぐに2人の言い分もわかった。
開店30分もしないうちに店内は人でごった返し、土曜の昼にもなると、自由に歩き回ることすら困難なほどに混雑した。
新入生らしき小さい子たちはカウンター前を陣取るし、お菓子をその場で試し食いしようとする客はでてくるしで、忙しいなんてもんじゃない。

ウィーズリー家が団体でやってきたのは、そんなときだった。
ハリーたちがいなくなったとモリーが騒ぎ始いだことで、噂を聞きつけた人までもがW.W.W.にやってきて、一時は入場規制をしなければならないほどの混乱になる。
もうハリーはいないと言っても野次馬はあとを絶たず、ハリーが買ったものと同じものが欲しいという注文の仕方をする客まで出てくる始末だ。

ハリー効果が収まってからも、フレッドとジョージが多方面に新商品の宣伝をしたおかげで店には常に問い合わせが多数舞い込み、客が少ない日も大忙しだった。
夏休みが終わればひと段落するだろうというレナの予想は大きく外れ、気づけば雪の季節になっていた。


「フレッド、レナ、ちょっとこれを見てくれ」


店じまいの準備をしているときに、ジョージが巻紙をかついでバックヤードから出てきた。
するするとはしごを降りてきたフレッドは、紫色の紙を見てすぐにピンときたらしく、「新しいポスターか」と言って紙の両端を持って広げた。
中から出てきた写真を見て、レナは口をあんぐり開けた。
そこには、ピグミーパフに頬ずりされているレナがでかでかと写っていた。


「いい感じだろ」
『いっ、いつの間に』
「最近レジ前で来て引き返す客が多いんだ」
「しかも女性客ばっかり」
「みんな窓際へ行って」
「同じものを手にして戻る」
『それってもしかして……』
「そう――ピグミーパフと惚れ薬だ」


フレッドとジョージは同時に、レナの肩に乗るピンクの毛玉を指差した。
つい勢いで買った惚れ薬の使い道に困ったレナが、思いつきで1滴与えてみた結果、この絶妙な懐き具合になった。
その後も気が向いたときに与えているが、その都度「どうしてそんなに懐いているんだ」と質問されるくらいには大好評だった。


『歩く広告塔がレジにいるんだから、ポスターはいらなくない?』
「そのことなんだが」
「レナの腕を見越して、頼みがある」


2人はグリモールド・プレイスでレナを拉致したときと同じ顔をしていた。


「俺たちの野望は、ゾンゴを出し抜くことなんだ」
「その第一歩として、ホグズミードで委託販売をしたいと思ってる。例えば、三本の箒とか」
『それを私にやってほしいってこと?』
「さすが」
「話が早い」


フレッドはどこかから巻紙を呼び寄せ、レナの前で広げた。
契約書のようだった。
マダム・ロスメルタと、双子の署名がされている。
本文に目を通したレナは、何度も読み返し、頭をかいた。


『ごめん、これ、場所賃の代わりに私が無償労働するっていう風に読めるんだけど』
「あってる」
「完璧だ」
『いやいやいやいや』
「朝ごはんの借りを忘れたわけじゃないだろう?」


ジョージがレナ本人ですら忘れていたことを持ち出し、断れない空気を作った。


「三本の箒で働きながら、我々の商品をちょこっと宣伝してもらうだけでいい」
「もちろん売り上げは全部レナのものだ」
『出来高制なの!?』
「やりがいあるだろ?」
「ひとまずホグワーツ生向けのズル休みスナックボックスと、安定の盾シリーズあたりからで様子を見ようと思う」
『ま、ま、待って!』


レナは、どんどん話を進める双子をつかんだ。


『私は外に出ちゃいけないって知ってるでしょ!?』
「マグルに見られないようにだろ?」
「ホグズミードにマグルはいない」
『でも、そういう約束だし、リーマスに許可とらないと』
「もともと三本の箒が候補に挙がってたんだ。怒られるわけない」
『えっ、そうなの!?』
「聞いてないのか?」
「まあそういうことだ」


信頼されている自分達に任せろと言いながら、2人はレナの腕をつかみ、指に赤インクをつけ、羊皮紙を強引に押し付けた。


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