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告白
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結局、その日は寝ることができなかった。
朝になり、朝食のために食堂へやってきたリーマスへの挨拶も、ぎこちないものになってしまう。
リーマスはレナの様子がおかしいことにすぐに気づいた。


「顔色が良くないみたいだけど、もしかして寝られなかったの?」
『だ、大丈夫!』
「言ってくれればよかったのに」
『あ、えと、部屋にいなかったみたいで……』
「ああごめん。スネイプと話をしていたんだ」
『そっか。大変だね』


昨日とはまた違った意味で気まずくて、レナの視線は自然と下を向いた。
おかげでテーブルに置かれた朝刊の中のダンブルドアと何度も目があった。


「今日も一緒に寝るかい?」
『へっ!?なんで!?』
「誰かと一緒だと落ち着くだろう?この前はそれですぐに寝れたじゃないか」
『あれはあれであれでしょ!』
「どれがどれ?」


レナの気も知らず、リーマスは「効果抜群だと思うんだけどなあ」と間延びした声で言ってきた。
これは相手にされていないどころか、本気にすらされていないのではないかという気がしてきた。


(年齢のせいなのかな……)


昨夜のリーマスのセリフがレナの頭をよぎる。
あれはおそらく、トンクスのことだろう。
騎士団で立派に働いているトンクスですら若すぎるというのなら、レナなんて子ども同然だ。

それにしては言動が、と異論を唱えたいところだが、イギリスの愛情表現事情はよく知らないし、モリーやシリウスの言動を思い返せば、リーマスの言動を思わせぶりとも責められない。
それに、親子にしか見えないんだからと言ってリーマスの家に転がり込んだのだから、今さら大人として見てほしいというもむしが良すぎる。


「……レナ、すごく言いにくいんだけど、言ってもいいかな?」
『な、何?』
「コーヒーに入れてるの、メイプルシロップだよ。ミルクは隣」
『あああっよそ見してたせいで!気づいてたなら入れる前に言ってよ!』
「もしかしたら砂糖代わりかもしれないじゃないか」
『こんなにたくさん入れないから!』
「そうだね、だから聞いてみた」


動揺しまくりのレナに対して、リーマスはあまりにもいつも通りだった。
慌てふためくレナを見て笑いながら「私もやってみようかな」とからかうようなことを言っている。


「昨日はジャムを大量に塗っていたし、甘党になったのかと思ったよ」
『違うってわかって言ってるでしょ』
「どうかな」


肯定と何ら変わりない返事をしたリーマスは、レナにニコニコと笑いかけながら自分のコーヒーにシロップを入れ始めた。
聞かれていたことを知らないから当然なのかもしれないが、ここまで何事もなかったかのように振舞われると、昨晩の出来事は夢だったのかと思えてくる。


(ポーカーフェイスめ……)


シリウスの件にしたってそうだ。
結局レナの前では涙を見せていない。
今までも、態度に出さなかっただけで、いろいろなことがあったのだろう。
そう考えたら、急に“年の差”というものの厄介さを感じた。


「大丈夫?」
『ダメ。甘すぎて吐きそう』
「ははっ、……大丈夫じゃなさそうだね」


後半、リーマスの声のトーンが変わった。
前髪の隙間からチラリとリーマスを盗み見ると、カップを片手に眉を下げていた。


「今日はゆっくり休んでいるといいよ」
『大丈夫だよ』
「無理をしなくていい。元気になったらまた後で話そう。そうだな……目を見て話せるくらい、気持ちが落ち着いてからかな」
『……ごめん』
「レナが謝る必要はないよ。無理もないことだ。……ああ、確かにこれは甘すぎるね」


リーマスはカップを口につけたまま苦笑いした。


(もうっ、なんなの!)


からかっていたかと思えば、急に真面目な顔で心配してきて。
全部わかっているかのようなことを言いながらコーヒーの話に戻して。
リーマスが何をしたいんだかさっぱりわからない。
1つ1つに過剰に反応して失態を演じているレナがピエロのようだ。

他人で遊んじゃいけませんと教えてこなかったのかと八つ当たりぎみに新聞を睨むが、ダンブルドアはハリーの肩を抱き奥へと消えてしまった。

* * *



夜の部の会議が終わるのを待って、レナはリーマスの部屋に向かった。
家具らしい家具はベッドと机しかなく、机の上に散らばる本が、部屋に閉じこもっている間はずっと読書をしていたことを物語っている。


「座って」


リーマスが穏やかに言った。
「こっち」と言ってベッドを叩かれたため、レナは机に向かいかけていた足の向きを変え、緊張しながらリーマスの横に座った。
すると、リーマスは困ったように眉を下げた。


(えっ、ここじゃないの?近すぎた?)


自分で場所を指定したんじゃんと思いながら、慌てて腰を浮かせる。
が、立ち上がるよりも先にリーマスに腕を捕まれた。


「逃げなくてもいいじゃないか」
『意味わかんないんですけどー!?』


あまりにリーマスの言動がちぐはぐすぎて、つい日本語で叫んだ。
リーマスは驚いたあと、「ごめん」と言って手を離した。
ショックを受けているように見えたため、レナも慌てて英語で弁解した。


『ごめん、逃げたんじゃなくて、座っちゃいけなかったのかと思ったの』
「座って、って言ったのに?」
『困った顔してたから』
「気のせいだよ」


笑いながら肩をすくめるリーマスの眉は、まだ下がったままだった。


『私がリーマスから逃げるわけないじゃん』
「どうかな。私はレナにあまりにたくさんのことを隠している。真実を知ったときに、私から離れたいと思ったとしても不思議じゃない」


何の話だろう、と思った。
リーマスの秘密主義は今に始まった話ではないし、逃げるなら腹黒さを知ったときにとっくに逃げている。
またからかわれているのかもしれないと邪推したが、リーマスの元気のなさは演技には見えなかった。


「2つ、重要な話がある」


リーマスは深刻そのものといった表情で言った。


「1つは――これはついさっき決まったことなんだけど――ここから出なければならなくなったんだ」
『どうして?メンバーが増えたから?』
「ここが、ブラック家の建物だからだよ。もしこの屋敷に特別な呪文がかかっているとしたら、所有権がベラトリックス・レストレンジの手に渡ることになる可能性もあるとダンブルドアは考えている」


言葉を濁しているが、シリウスが死んでしまったからだということは理解できた。
ベラトリックス・レストレンジという名前を言ったとき、リーマスの拳が握られたのをレナは見た。
レナが伸びきったカーディガンの袖を摘むと、リーマスの大きな手のひらが重ねられ、レナを安心させるようにポンポンと叩かれた。


「だからまずは、荷物をまとめなければならないね」


リーマスは微笑み、ベッドの下からトランクを引っ張り出した。
杖を振れば一瞬で済むはずなのに、わざわざ机に向かい、乱雑に置かれた本を大きさ順に重ね、きれいな山を作ってトランクの中にしまっている。
続けて服や靴など、少ない荷物が詰め込まれていく様子を、レナは黙って見ていた。
俯いて作業をしているせいか、リーマスの顔色はあまりよくないように見えた。


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