stand by me | ナノ
グリモールド・プレイスの人々
[2ページ/3ページ]

キッチンに残ったレナは、1人で夕食の準備を進めながら会議の様子を盗み見た。
今日の作戦に参加しなかった人達も集まり、情報を交換し合っている。
その中には去年レナを縄でしばって引きずり回したスネイプもいた。

なぜだかよくわからないがレナは目の仇にされているらしく、毎回必ず睨まれる。
そして何かしら嫌味を言われる。


(今日も不機嫌そうだなー)


スネイプが騎士団員だと知ったとき、レナは驚いたが、それ以上に喜んだ。
また脱狼薬を作ってもらえると思ったからだ。
しかし拒否されてしまった。
長々とした嫌味と悪口つきで、敵陣にも潜入しているからそんな暇はないとかそんな感じのことを偉そうに言われた。

騎士団にいるんだから味方なんだろうが、スネイプには正義の味方っぽさが一切ない。
むしろ雰囲気はマッド-アイに負けず劣らず敵っぽい。
スパイにはうってつけだ。


「まだいたのか」


食器を出しにダイニングに行ったら、目ざとく見つけられた。
気のせいでなければ舌打ちもされた気がする。


「魔法もろくに扱えない素性の知れない者を年齢だけで成人扱いして中に入れるとは危機管理がなっていないのではないかマッド-アイ」
「それについては前に1度話しただろうが。脳みそ腐ってんのか」
「我輩はマッド-アイに聞いたのだブラック。名前を聞き間違えるとは貴様のほうこそ腐っているのではないか?屋敷と一緒に自分の脳みそも掃除してみたらどうなのだ」
「んだと?」
「いちいち突っかかるなブラック。スネイプもだ。サクラの件はダンブルドアから聞いている通りだ」

(うわ。やっちゃった)


この争いは1度始まるとなかなか終わらない。
マッド-アイの制止もむなしく、既に2人のスイッチは入ってしまっている。


「余計な厄介ごとを持ってきてくれたものだ。くれぐれも外に出ようなどと思わぬようたっぷりと掃除の楽しさを教えてやれ。まあ捕まったところで言葉もろくに話せないようでは拷問練習のおもちゃ程度にしかならないだろうが――」
「セブルス、冗談でもやめてくれ」
「ルーピン、何か勘違いしているのではないか?」


懇願するように口を挟んだリーマスに向かってスネイプはニヤリと口元を歪めた。


「何かあったときに真っ先に動くのは我輩なのだ。そして最も危険な位置にいるのも我輩だ。安全な家であぐらをかいているブラックとは違う。危険因子を事前に指摘し排除するよう要請するのは全うな意見だと思わんか?」
「てめえ、いいかげんにしろよ!」
「よさんか2人とも!」


マッド-アイが怒鳴り、レナも厨房に引っ込んでいるよう言われる。


(そうだ、空気になってなきゃなんだった)


いろいろと言いたいこともあるが、とにかく迷惑をかけることだけは避けたい。
この場にいて話を聞けるだけでもいいことだと子ども達に何度言われたことか。
レナは頷いて食器の準備を諦めて夕飯の仕度に戻り、会議は再開された。


「彼はいつでもああなんだ。気にすることはない」


話し合いが終わり、数人が帰り始めてからリーマスが寄ってきた。


「でももし気になるようだったら、モリーに任せて部屋にいてもいいんだよ」
『大丈夫。少しくらいは手伝いをしたいし、あの人は早口すぎて何を言ってるかよくわかんないんだよね』
「あはは!せっかくの演説が台無しだね」


トンクスが軽快に笑い、それにつられて何人かが笑った。


「シリウスもレナを見習って聞き流せるようになったらどう?」
「あいにく私には全部聞こえてしまうのでね」
「さあさあ、もめるのはおしまい。片付けて」


モリーが手を叩き、子ども達を呼びに出て行った。

* * *



武器だなんだと言っていた重苦しい雰囲気が一変し、ダイニングルームは一気に明るくなる。
やってきた子供たちは、モリーの指示で食器類のを並べたり、貯蔵室からの食べ物を運んだりし始めた。


「なるほどなるほど」
「これらを全部運べばいいわけだな」


厨房内に入ってきた同じ顔の2人が、コンロや台の上を見てニヤリとした。
嫌な予感がした。


『待って』


杖を取り出したので声をかけたが遅かった。
今の今まで火にかかっていた大鍋。
バタービールが入った鉄製の広口ジャー。
ナイフがついたままのパン切り板――。
さまざまなものが、いっぺんにテーブルめがけて飛んでいった。


「フレッド、ジョージ!おやめっ、普通に運びなさい!」


モリーの悲鳴でテーブルにいた3人が振り返り、いっせいに飛び退いた。
パン切りナイフはシリウスがいた場所に突き刺さり、鍋やジャーがテーブルの上を滑っていく。


『あああ夕飯がー!』
「セーフ」
「でもないな」


焦げ跡を残しながら滑っていたシチューはテーブルの端で止まったが、バタービールは止まりきれずにガシャンと落ちて辺りに中身を飛び散らせた。
モリーはカンカンだ。


「まったくもう!魔法を使ってもいいからって、なんでもかんでもいちいち杖を振る必要はないの!」
「僕たち、ちょいと時間を節約しようとしたんだよ」


反省した様子もなく「なあ」「ねえ」と言い合う2人はロンの双子の兄だ。
しょっちゅうモリーに怒られているが、ムードメーカー的存在で、子ども達は彼らの冗談や悪戯でよく笑っている。
ナイフやフォークを準備しているジニーはロンの妹で、さっきまで会議に参加していたビルという長髪のイケメンも兄弟らしい。
賑やかな大家族に囲まれていると、家が恋しくなってくる。


(贅沢言っちゃいけないけど)


ギリギリで難を逃れたシチューをテーブルの真ん中に戻し、器によそりながらレナは思った。
長期のホームステイだと思えば、こんなに楽しい環境はない。
魔法を学べて、ホストファミリーは面白くて、ちょっとのスリルがあって――これはシリウスがいいことだと言っていた――帰るのがもったいなくなるくらいだ。


(引っ越してよかったかも)


リーマスと話す機会は減ってしまったが、新たな一面も見れたし、他の人とも仲良くなれた。
移動を告げられた日は嫌で仕方がなかったが、今となっては感謝をしている。

レナは『今日もチョコ持ってたんだって?』と言いながらリーマスにシチューを渡した。


←前へ [ 目次 ] 次へ→
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -