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誕生日
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大事件だ。
三本の箒に行くと、既にリーマスがいた。

レナは最悪の状態を想像して青ざめたが、どうやら客にもリーマスにも気取られていないようだった。
きっとロスメルタがうまく会話を誘導してくれたのだろう。
ありがたい。
ほんと素敵。
それでもやっぱり気は抜けなくて、家に帰ってくる頃にはいつもの3倍は疲れていた。


「ありがとう。いい誕生日プレゼントだったよ」
『え?ああ、うん……』


そういえばプレゼントのつもりで来たんだったなと、レナはソファに寝転がりながら出掛けにリーマスが言っていたことを思い出した。
そして、眉根をよせた。
リーマスはしっかり代金を支払っていたような気がする。


(まさか観賞物扱い?)


サーカスや舞台を見るように、レナの仕事姿を出し物として見ていたのだろうか。
確かに今日はリーマスのせいで何度かドジをやらかしたし、リーマスはときどき肩を震わせているようだったけど。


(ひどくない?ひどいよね!?)


レナは一言言ってやろうと顔の向きを変えた。
が、なんだか嬉しそうに――楽しそうではなく、嬉しそうに――していたので、文句を言う気が失せてしまった。


「どうしたの?」
『いや……プレゼント渡してないじゃんと思って』


レナは体を起こした。
縮小魔法でポケットに入れてきた箱を元の大きさに戻し、リーマスに手渡す。


「もうもらったのに」
『じゃあこれはただの私の買い物ってことで』


中身はティーセットだ。
ペアはちょっと重たいかもしれないという心配もあったが、マグカップしかない家に住人分のティーカップを買ったと思えば重さも軽減される。
結果オーライだとレナが1人で納得している脇で、リーマスが中身を確認して「せっかくだからさっそく使おうか」と微笑んだ。

* * *



真新しいカップで飲む紅茶はなんだかいつもと違う感じがした。
もちろん中身はいつものインスタントなのだが、少しだけ特別な気持ちになれる。


「レナの誕生日はいつ?」


カップを眺めていたリーマスがおもむろに聞いた。
レナは1ヵ月後と答えたあと、雷に打たれたようになった。


『あああああそっか!』
「どうしたんだい?」
『私もう成人してたんだ!』
「え?」


きょとんとするリーマスのことなどおかまいなしに、レナは興奮した。
なんでもっと早く気づかなかったんだろうと思った。

レナが家にいるからという理由で、リーマスは満月の度にどこかに出かけていた。
宿に行くといっても、危険だからといって許してくれなかった。

でも、シフトを変えて夜通し三本の箒で働けるとなれば話は変わる。
レナは安全を気にすることなく家を出られるから、リーマスは満月のたびにどこかへ出かける必要がなくなる。


『私、18歳だったの』
「う、うん」
『卒業して、1ヵ月後には19歳』
「うん」
『こっちに来た卒業の日からもう1年半は経ってるでしょ?だからとっくに成人してたってこと!』
「うん……?」


日本の成人は20歳なのだと説明したが、リーマスは状況がよく飲み込めていないようだった。


『つまり、お酒が飲めるってことなの!』
「そんなにお酒が飲みたかったの?」


リーマスの頭上に疑問符が浮かんでいるのが見える。
うまく伝えられないのがもどかしい。
はやる気持ちを抑え、深呼吸をし、レナは最も重要なことを告げた。


『夜まで働けるようになるから、満月の日に家に戻ってこなくてもよくなるの。だからリーマスが家にいられるよ』
「……気持ちは嬉しいけど、そこまでしてくれなくていいよ」


リーマスは乗り気ではなかった。
そればかりか、表情がみるみるうちに暗くなっていく。
予想外の反応を見せられ、レナはマダム・ロスメルタの大人の恋愛講座(レナが勝手に命名)の話を思い出した。


(あああ言い方間違えたかもー)


同じ内容でも、言い方ひとつで印象は変わるのだとロスメルタは言った。
押し付けがましい言い方や、プライドを傷つけかねない言い方はNGだったと今さらながら気づく。
特にリーマスの場合は、コンプレックスが強い分、変に考えてしまう可能性が高い。
もしかしたら、レナがこの家にいたくないと思っていると勝手に思い始めているのかもしれないと思った。


(もう言っちゃったあとだけど、修正きくのかな?)


うまくやれる自信はなかったが、このままでは誤解されかねない。
レナは言い直すことにした。


『確かにリーマスの言うとおり、みんなと飲み交わしながら働いてみたかったってのもあるんだけどね』
「みんなって、お客さん?」
『うん。ロスメルタさんはいつもお酒で付き合ってるんだけど、私はいつもジュースで、子どもだなって馬鹿にされるんだ』
「無理して大人ぶる必要ないと思うけどな」
『いいでしょ?ねえお願い!リーマスがいる日はリーマスと一緒に夕飯食べたいし、誕生日プレゼントだと思って!』
「……仕方ないな。レナがそうしたいなら、いいよ」


どうしてもとねだると、リーマスは眉を下げたままだったが、OKしてくれた。


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