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背伸びしたいお年頃
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ロスメルタは客が少ないときは熱心にいろいろなアドバイスをくれた。
というか、客がいても客を巻き込みながら会話をするため、レナが誰かにお熱だという噂が常連の間で広まり、恥ずかしくて仕方がない。
いい虫除けにもなるというロスメルタの言うとおり変に絡まれることは減ったが、恋愛がらみでいじられるくらいなら絡まれたほうがマシだ。
もしリーマスが何かの用事でホグズミードに来たらと考えると恐ろしい。


「なんだい、彼氏へのプレゼントかい?」
『違いますー!』


クリスマスの日、朝一番にリーマスへのプレゼントとしてカーディガンを買いにいったレナを、洋服屋の店主がからかう。
どうやらあちこちで話のネタにしている人がいるらしく、レナは郵便局でも「休んでもよかったんじゃよ」とニヤニヤ笑われた。

三本の箒に行ったら行ったで常連客にこんなところにいていいのか、今からでも誘ってみるべきだといらぬ世話を受ける。
振られたなら相手をしてやると悪ノリをする客も出てきたので、ホグワーツからの追加注文の納品ついでに早上がりしていいと言われたのは幸いだった。

レナは縮小魔法をかけた酒樽を持ってホグワーツに向かい、圧倒的な飾りつけに度肝を抜かされた。
氷の城を連想させられる大広間は、いままで見てきたどんな写真や映画の世界よりもきらびやかで美しかった。
壁は輝く霜で覆われ、テーブルもシャンデリアも柱も氷でできているのに、まったく寒くない。
まさに魔法の世界そのものだ。


「おおご苦労。ロスメルタから聞いておる。楽しくやっているようじゃの」


パーティ会場の美しさに見入っていたレナの元に、ダンブルドアがやってきた。
今日は全身真っ白に銀縁の飾りという、また一段とファンタジー色の濃い格好をしている。


『おかげさまで。いい場所を紹介して下さりありがとうございました』
「ほほっ、英語もだいぶ上手くなったようじゃな」
「あらサクラ、来ていたのですね」
『マクゴナガル先生!お久しぶりです。いま、追加注文を届けにきたところなんです』


マクゴナガルもダンブルドアに負けず劣らずのファンタジー衣装だ。
酔っているのか、顔がほのかに赤い。
いつもの厳格な雰囲気はなく、柔和な笑みをレナに向けた。


「少し見ない間に大人っぽくなりましたね」
『本当?』
「ええ、見違えました」


化粧をしてみるもんだとレナは思った。
リーマスも褒めてくれたが、マクゴナガルが言うと信憑性がぐっとあがる。


「ルーピン先生とは上手くやれていますか?不便はないですか?」
『大丈夫、楽しくやってます』


数ヶ月ぶりの再会は、模様替えをするのに変身術が役に立ったことや、贈った帽子の話、三大魔法学校対抗試合の話で盛り上がった。
せっかくだから少し見て行くようにとダンブルドアに言われたので、レナは好意に甘えてゆっくり遠回りをしながら大広間を出た。


「あ、ねえ、君さ――」


名残惜しいがリーマスも家で待っているころだしそろそろ外へ――と思ったところで呼び止められた。
ハリーとロンだった。
ロンがハリーを肘でつつきながら「ほらな」と言っている。
すごい量のフリルが袖や襟元についたドレスローブを着ているロンは、機嫌が悪いようだった。


「あの日、叫びの屋敷にいた人だろう?三本の箒の人だったの?」
『あー……ええと、いろいろあって』
「ルーピンとはどういう関係?」
『えっと……お世話になっている方というかなんというか――』
「もしかして、恋人……?」
「馬鹿言うなよハリー」


悪気のないロンの言葉がグサッと刺さった。
見た目をちょっと変えたくらいで大人になった気分になっていた自分が急に恥ずかしくなる。


「世話になってるって言ってるんだから、あれだよ、ハリーとあのマグルの、ええと――」
「ダーズリー?」
「うん、そう。そんな関係だろ?」
「ロン、この人はダーズリー家のことも僕のことも知らないよ」
「ハリーを知らない人がいるかよ。ねえ」
『うん。まあ、そんな感じ』


適当に答え、レナは仕事があるからと言って逃げるようにその場をあとにした。

* * *



轍に足をとられながら雪道を帰る間、ロンの声が頭から離れなかった。


『……なんで』


涙が出てきていることに気づき、レナは足を止めた。
子ども扱いされたくなかったのは、馬鹿にされたくなかったからだ。
もう子どもじゃないと言い張りたい年頃だからだ。
リーマスのことは好きだけど、別に恋人になりたいわけじゃない。


『戻るまでの間、一緒にいるだけだし……』


日本に戻らないという選択肢はない。
きっとそれはリーマスが許さない。
レナもリーマスのために残りたいと考えるほど真剣ではない。
そうだと思っていたから、馬鹿言うなよと言われて涙が出てきたことに驚いた。


『ほんと、馬鹿言うなよ』


レナは自分に言い聞かせるように独り言を続けた。
リーマスはレナに楽しい思い出を残そうとしてくれている。
だから、レナもリーマスに楽しく過ごしてもらいたい。

――どうもしないかな。迷惑はかけたくないからね。ただその人が笑顔でいられるよう願ったことはあるかもしれない。

マイナス思考全開だと馬鹿にしたアドバイスは、今の自分にとってもっともいいアドバイスだったようだ。


『それがいいよね、リーマス』


レナは涙をぬぐい、配達が終わったことをロスメルタに告げてからプレゼントを握り締めて家に戻った。


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