stand by me | ナノ
背伸びしたいお年頃
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「へえ、ハリーが」


家に帰ってから昼間の話をすると、リーマスは喜んだ。
もうすっかり教師としての道徳は失っているらしい。
ハリーの行為を勇敢で冒険心に溢れていると評価した。


「父親譲りなんだね。私達もよくやったよ」
『え、お忍びデート?』
「ははっ、違うよ。まあ、お忍びという点では合っているけど」


リーマスは懐かしむような表情になり、昔語りを始めた。
シリウス達との思い出が、リーマスの中で最も大切な宝物であるかのような話し方だった。


『デートはしなかったの?』
「シリウス達と夜のお忍びデートなら毎月してたよ」
『そうじゃなくて、女の子と。それともまさかシリウスが彼女なの?』
「彼女より大切な存在だよ」


適当に茶化された気がしたので冗談のつもりで言ったのに、さらにその上をいく冗談で返された。
去年のセクハラもどきといい、今回といい、誤解を生むような発言は控えていただきたい。
というかわざとレナが会話を続けにくくなる言い方をしているとしか思えない。


(続けるけどね)

『彼女はいたの?』
「いたように見えるかい?」
『うん。見える。リーマス優しいもん』

(表面上は、だけど)

「優しいだけの男は“いい人”止まりにしかなれないんだよ」
『優しいだけじゃないじゃん。マクゴナガル先生に聞いたんだけど、監督生だったんでしょ?』


さすがに意地悪で腹黒いよと言うのははばかれた。
代わりに有名人で人気者だったらしいじゃないとつけ加える。
リーマスは言外に含まれた言葉に気づいたらしく、軽く肩をすくめた。


「特別なことではないよ。ジェームズやシリウスのほうがよっぽどモテた」
『へー』
「それに、私は誰かとまともな恋愛ができるような体じゃない」


“ほうが”ということはリーマスも少なからずモテたという意味に取れる。
そう突っ込もうとしたが、リーマスが眉を下げてしまったので言える雰囲気ではなくなってしまった。


『そうは見えないけど……』
「レナのように言ってくれる人はごくわずかだよ。たいていは狼人間だと知っただけで距離を取る」
『変なの』
「普通だよ」
『変だよ』


「種族が違う者を厭うのは仕方のないことだ」というリーマスの言い分もわかる。
おそらく日本で普通の生活を送っているときに突然狼人間なるものが現われていたら、自分も距離を置いていたと思う。

だけどここは魔法界で、いろんな種族が混在しているということは三本の箒にいればよくわかる。
それなのにどうして狼人間だけが、とは常々思っていた。


『私も未来の日本から来ましたって知られたらやっぱり引かれるのかな?』
「どうして?」
『だって種族どころじゃなく変じゃん』
「大丈夫だよ。危険があるわけじゃないからね」
『じゃあリーマスも大丈夫だよ。危険ないから』
「あったじゃないか」
『うーん、でもあれは事故でしょ?』


ちゃんと他の人に迷惑がかからないように満月の日はどこかに行っているみたいだし、気をつけていれば問題ない。
それよりも普段ふとした拍子に表れる腹黒い一面の方がよっぽど危険だと言ってあげる人はいないんだろうか。


(いないか)


私だって言えない、とレナは心の中で呟いた。


「レナは?」
『私の場合はタイムスリップだから予言とかし始めたら危険なのかな?』
「そうじゃなくて、彼氏。日本の学校で、いたの?」
『あー……うん。いたこともあるかもしれない』
「へえ、どんな人だったんだい?」
『同じクラスの――って私のことはいいの!』
「自分だけ聞いておいてずるいなあ」
『リーマスまともに答えてないじゃんっ』
「覚えていないんだから仕方がないよね」


はははと笑ってごまかされた。
あれだけ詳しく思い出語りをしたのだから、覚えていないはずがない。
でも、それ以上追及しようとは思わなかった。
リーマスがどんな恋愛をしてきたのかは気になるが、先ほどの思い出のように幸せそうな顔で語られるのもなんか嫌だ。


『ねえ、リーマスは好きな人ができたらどうする?てかどうしてた?』
「どうもしないかな。迷惑はかけたくないからね。ただその人が笑顔でいられるよう願ったことはあるかもしれない」
『何そのマイナス思考全開のよくわからないアドバイス』
「アドバイスがほしかったの?好きな人でもできた?」
『えっ、いや、そういうわけじゃない、けど』
「うーん、そうだなあ……」


リーマスは考えるそぶりをしながらレナをじっと見た。
なんでこっちを見るんだ。
考え事をするときって普通は上とか下とかを見るんじゃないの。
変に意識するから、ほんとやめてほしい。


「レナなら、そのままで十分魅力的だよ」


目を見たままニコッと微笑まれ、レナは『答えになってない!』と言うのがやっとだった。

* * *



12月に入ると数日もしないうちにホグズミード村は白に覆われた。
フクロウが翼に雪を乗せて戻ってくるため、郵便局内がびちゃびちゃになる。
それをきれいにする作業に追われ、レナは新聞を持ったまま三本の箒に向かった。

新聞の話題は第一の課題からダンスパーティの話に移ったが、相変わらずメインは“ハリー・ポッター”だった。
代表選手はパーティの最初にペアダンスを踊るしきたりになっているせいか、ハリーの色恋沙汰が取り上げられることも多くなっていた。
ハーマイオニーとのことが書かれている時もある。

いくら有名な人だろうと、まだ学生なのにこんなことを全国紙に載せられて、プライバシーの権利はどうなっているんだと聞きたくなる。
透明マントを被らないとデートすらできないなんてハリーがかわそうだ。


「なんだレナ、クリスマスパーティに興味があるのか?」


新聞を見ていたレナに、酔っ払いが話しかけてきた。
天気が悪いと客の入りも悪くなるが、長居をする人が増える。
雑用が減り、接客に入ることが多くなっていたレナは、常連には名前を覚えられるくらいにはなっていた。


「それは生徒限定だぞ」
『知ってるー。どんな風なのかなと思っただけ』
「それなら俺の家のパーティに来るか?」
『気が向いたらね』


ここ数ヶ月で会話の幅が広がったこともあり、絡まれることも増えた。
だいたいは日本語を混ぜて適当に返事をしていればそのうち飽きられるので、レナはいつも適当に返事をしていた。


「ホグワーツのように大きくはないが、20人は入るダンスホールがあるぞ。なんなら貸し切りにしてやってもいい」
『すごいね。でも、私踊れないからいいや』
「なんだそんな心配か、俺が手取り足取り教えてやるよ」
『いや、別に踊りたいわけでは――』
「遠慮するなって」
「あら、あなたダンスが得意でしたの?」


強引に事を進めようとする酔っ払いの対応に困っていたところへ、ロスメルタが助け舟を出した。
いまの今までレナに絡んでいた客は、コロッと態度を変えてロスメルタに甘えるような声を出した。


「そうなんだ。ロスメルタ、君もどうだい?」
「嬉しいお誘いですこと。でも残念ね。私もレナも、クリスマスはホグワーツにお酒を届けなきゃいけないんですの」
「そんなものすぐ終わるだろう?」
「だといいですわね」


ロスメルタはダンブルドアに蜂蜜酒を800樽注文されたのだと言った。
もちろん嘘だ。
1桁多い。
そんなに在庫はないし、800樽も運び込んでいたら朝になってしまう。
しかし酔っていて正常な判断ができない男は「そりゃすごい」と手を叩いて店中に触れ回った。


「となるとクリスマスは店を開けないのかい?」
「あなたが店に来てくれるかもしれないのに、閉めるなんてことできませんわ」
「もちろん来るよ、ロスメルタ」


さすがロスメルタだ。
酔っ払いの扱いも手馴れている。
ダンスパーティの誘いを断られたこともすっかり忘れ、デレデレした顔でウイスキーを飲み始めた男を見ながらレナは感心した。


(いいなあ)


ロスメルタは女のレナから見ても魅力的な女性だった。
見た目も話し方も物腰も色っぽい。
それでいていやらしさはなく、店主としての判断力や決断力も持ち合わせている。
優しいし頼りになるし、つい甘えたくなる。
大人の女性というのはこういう人のことをいうんだろうなとレナは思った。


『どうしたらロスメルタさんみたいになれますか?』


気がついたらレナは聞いていた。


「あら。誰か振り向かせたい人でもいるのかしら」
『振り向かせたいというか、子ども扱いされたくないと言うか……』
「リーマス・ルーピン?」
『まあ……そんなところです』
「素直な子は嫌いじゃないわ」


特別よと言ってウインクする仕草すら色っぽくてうらやましい。
これこそウインクだ。
ダンブルドアとは違う。
きっとこのウインクにノックアウトされた客も多いだろう。
こんな素敵なウインクができるようになれば、リーマスにいいように遊ばれなくなるかもしれない。
目指せ大人の女性。
目指せリーマスをノックアウト、だ。


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