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選択のとき(前編)
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スネイプはレナとロンを保健室のような場所に置き去りにし、すぐにどこかへ行ってしまった。
レナはまた縛られた。
しかし、長いエプロンドレスのようなものを着て頭巾を被った女性がすぐに外してくれた。
校医のポンフリーだと名乗ったその女性は、見知らぬレナに不審な目を向けつつも、手厚い治療をしてくれた。

しばらくして気を失ったハリーとハーマイオニーが担ぎ込まれ、夜の保健室のベッドがたちまち占領されていった。
意識があり、ケガも軽症だったレナは放置され、せわしなく動き回る校医の姿をぼーっと眺めることくらいしかやることがなくなる。

窓に目を向ければ、嫌でも月の光が目に入る。
リーマスは無事だろうかと、巨大な犬に追われていった姿を思い出す。


(シリウスはグリムのアニメーガスだったのかな?)


黒い犬がリーマスに飛び掛ったとき、シリウスの姿はなかった。
ハリーはその犬に向かってシリウスと呼びかけていた。
アニメーガスなら、死神犬のような能力はないからひとまず呪い殺される心配はない。


(そっか。グリムってただの伝承か)


ようやく落ち着いて物事を考えられるようになってきたレナは、以前聞いたリーマスのセリフを思い出した。
そして、自分が置かれている状況も数時間ぶりに思い出す。


(見つかっちゃった……どうなるんだろう……)


静かな時間はあまり長くは続かなかった。
複数人が言い合う声と、足音が近づいてくる。
ロンの足を包帯でぐるぐる巻きにしていたポンフリーは、顔を上げてため息をつきながら入り口を睨んだ。

ドアが開けられ、まず目に入ったのは興奮冷めやらぬスネイプだった。
そのすぐ後にダンブルドア、さらに後方にマクゴナガルと続いている。
マクゴナガルは寝巻きのままだ。


「お静かに願えますか?」


ポンフリーがイライラを隠すことなく言った。
ダンブルドアは「すまぬマダム」と言ったが、スネイプは話すのをやめなかった。


「我輩はしかとこの目で見たのです。ルーピンがブラックを手引きしていたのは間違いありません」
「しかしセブルスそれは不可能じゃ。ハロウィーンの日にブラックが現われたとき、ルーピン先生は我々と共に食事を取っておった。人目を盗んで招き入れることなどできんよ」
「他の者にやらせたのです。服従の呪文でもかけたのでしょう、その証拠に――この者を見つけました。ルーピンの部屋で、隠れていたのです」


スネイプはベッドの間を歩いてきて、レナの前までくると、腕を掴んで無理やりベッドから引っ張り出した。


『……すみません』


ダンブルドアの前に突き出されたレナは、自分の不注意を詫びた。
もちろん勝手にリーマスの部屋に行き、事情を知らない人に見つかってしまったことに対してだったが、スネイプは別の意味にとったようだった。
レナの謝罪を聞き、口元を吊り上げる。


「この通り自分の罪を認めております。しかるに――」
「その子は無関係じゃよ、セブルス」


ダンブルドアはレナがいることに驚くこともなく、「放しておやり」と優しくスネイプに言った。
その態度に驚いたスネイプがダンブルドアに探るような目を向ける。


「この者がどこの誰かご存知で?」
「もちろんじゃ。その子にリーマスの部屋にいるよう言ったのはわしじゃからの」


スネイプは怪訝な表情を浮かべ、レナは驚きで目を瞬かせた。
ダンブルドアは、スネイプがレナに不審な点がないか――あってほしいような目つきで――じろじろ調べている隙に、レナにウインクをしたのだ。


「別件のやっかいごとで一時保護しておったんじゃ。今回の件には関与しておらん」
「しかしこやつはルーピンの部屋で双眼鏡を持ち暴れ柳までの道を監視しておったのですぞ。連行している間も絶えずルーピンの名前を出し助けるよう懇願していた。昨日今日の仲ではない」
「助ける……?確かかの?」
「ダンブルドア、あなたは私の話を信用なさらないのですか?」
「そうではない。言語の壁による齟齬がないよう確認が必要なだけじゃ。――どうなんじゃレナ、君は見張っておったのか?」


ダンブルドアは日本語でレナに問いかけた。
レナは窓からハリーとハーマイオニーの姿が見えたこと、その後グリムを見たこと、誰かに知らせなきゃと夢中だったことなど、連れ出されてから屋敷で見たことも含め、覚えている限りのことを説明した。
知らない言語で話すレナとダンブルドアを、スネイプはおもしろくなさそうな表情で見つめていた。


「ふむ。なるほど」


ダンブルドアは頷き、マクゴナガルにレナを連れていって部屋で待たせるよう指示を出した。
納得がいかないらしいスネイプは怒ったが、これ以上言い合いをするなら出て行ってくれとマダム・ポンフリーに言われ、全員まとめて保健室の外に追い出される。


「レナについての詳しい話はあとじゃ。わしは大臣を迎えに行かねばならん。セブルス、君も一緒に来て状況を説明してくれるの?」
「もちろんです」
「ではマクゴナガル先生はレナを頼む」
「わかりました」
「しかしこやつは――」


スネイプはまだ何かを言おうとしていたが、ダンブルドアはそれを許さず、玄関ホールに向かってさっさと歩き始めた。
マクゴナガルとレナはその場に残る。
スネイプはレナを睨みつけ、舌打ちをした後にローブを翻して足早にダンブルドアを追った。

* * *



『ごめんなさい……』


マクゴナガルの部屋に戻ってから、レナは改めて詫びた。
状況を聞かれ、今度は英語でハリー達のピンチだと思ったとスネイプに見つかるまでの経緯を説明する。
ずいぶんと簡潔な説明になってしまったが、マクゴナガルはわかってくれたようだった。
ため息をつきつつも「不運が重なったのなら仕方ないでしょう」と言ってくれた。


『リーマスは?大丈夫なの?』


ダンブルドアに聞きそびれてしまったが、あれ以来ずっとリーマスの姿が見えない。
人間にはいつ戻れるのか、怪我をしていないか、心配は尽きない。


「大丈夫です。ただ――」
『ただ?』
「この学校にはいられなくなるかもしれません」


非常に残念そうに言うマクゴナガルの顔色はよくなかった。
レナも自分の顔から血の気が引くのを感じた。
「もしかしたら、あなたも」という言葉が、さらに追いうちをかける。


『私のせい?私が見つかったから、リーマスは辞めさせられちゃうの?』
「いいえ、あなたのせいではありません」


きっぱりと否定され、ほっとする。
しかし同時に、それじゃあなぜ学校にいられなくなるんだという疑問が出てきた。
問題がある洋箪笥を授業で使い、それを隠蔽していたことが原因ではないとすると、このタイミングで解雇の話がでる理由がわからない。


『ブラックとピーター?』


よくわからないが、脱獄とか殺人とかが絡んでいるなら、問題視されるのも頷ける。
ただ、あくまで親友のことだ。
リーマスが直接関わったわけではないなら、辞める程のことではないと思う。


『それとも狼に変身したから?』
「いずれにせよ、ルーピン先生の進退は、ルーピン先生自身が決めることです」


マクゴナガルは否定しなかった。
レナに座るよう言い、珍しく紅茶を淹れてくれる。
ミルクがたっぷり入った暖かい紅茶は、リーマスの部屋で飲むものと全然味が違った。


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