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狼おじさん疑惑
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(さっぱりわからない……)


レナはため息をつき、机の上に突っ伏した。
他に何か情報はあっただろうかといろいろ考え、ふと以前のやり取りを思い出す。
レナがここに来た日、ダンブルドアとリーマスがしていた会話だ。
ほとんど聞き取れなかったし、あまり覚えていないけど、毎月“あの日”が問題だと言ったのは、リーマスの病気のことを指していたのかもしれない。
となると“定期的にやってくる発作のようなもの”というのは合ってそうだ。

リーマスは決まって毎月上旬に体調を崩しているような気がする。
リーマスが来なくて退屈していた日は、ぼーっと外を眺める時間が多くなっていたが、だいたい満月だったような気がするから、1ヶ月周期で症状が出るのは間違いなさそうだ。


『……満月?狼?』


狼男、という言葉がレナの頭に浮かんだ。
満月の光を浴びると狼に変身する、おとぎ話に出てくるあれだ。
もちろんレナは見たことはないが、エルフや河童が存在する世界なら狼男がいてもおかしくない。


『まさかね……』


はやる気持ちを抑え、変身術の本を閉じ、代わりに以前借りた本をめくり、狼人間のページを探す。
リーマスに当てはまるようなことはあまりない、けど。
心当たりがある内容も書かれていた。


『……マジで?』


そういえばあのハロウィーンの日の昼間、リーマスは狼の話をしていた気がする。
ボガートの話から、狼が嫌いかと聞かれ、満月の日は狂暴になるから外に出るなと言われた。
なんて答えたっけ。
犬に似てるなら嫌いだと言った気がする。


『傷つけた……かな?』


本に書かれていることが本当なら、偏見に曝されて生きてきたのだと思う。
レナのトラウマも、ある意味強力な偏見だ。
それに、真面目な話をしてくれていたことに気づかずセクハラだなんだと騒ぎ立ててしまった。
――いやあれはリーマスが悪い。
紛らわしい。
うん。
へんな風にごまかすから、事情なんて知らずに先日は狼おじさんなどと呼んでしまった。


『どうしよう……』


リーマスが狼男だったとして、今まで通りに付き合えるだろうかとレナは考えた。
薬を飲むことで人を襲わなくなるなら害はない。
外出もしないなら、レナが会うのは人間の“リーマス”だけだ。
リーマスは意地悪だけどいい人だし、そういう種族なら仕方ないし、気にしなければいつも通りだ。

でも、もし、満月の日に面と向かって会えるかと聞かれたら、自信はない。
リーマスがボガートを見て間違えたくらいなんだから、きっとリーマスの狼姿は犬に似ている。
見たら、逃げてしまうかもしれない。
リーマスだとわかっていても、たぶん、無理だ。


『あー、もうーなんで狼なのー!』


化け猫なら平気なのに。
いやだめだ猫だと鳥になったときに食べられてしまう。
狼はどうだろう。
肉食?
鳥食べる?
きっと食べるよね。
鶏肉おいしいもんね。
クリスマスに食べたチキンは絶品だった……。

レナは現実逃避をし始めた。

* * *



イースター休暇は終わりが近づいていたが、レナはまだ何も言い出せずにいた。
自分の考えが合っているかどうか確かめたい気持ちよりも、肯定されたときにどうしていいかわからないという気持ちの方が大きかった。
リーマスを傷つけないような反応ができる自信がない。


「さっきから唸ってるけど、どうしたの?何かわからないことでもあった?」
『あ、いや、えーと……』


いつの間にかリーマスが隣に来ていた。
本を覗き込もうとしたので、あわてて閉じる。
リーマスの目鼻立ちと比べるために人狼の見分け方のページを開いていただなんて知られるわけにはいかない。


『この本に書いてあることって本当なの?』
「具体的に言うと、どのへん?」
『あ、えと……か、河童とか。なんか私の知ってる河童と違うんだけど……あ、いや、私も河童見たことがあるわけじゃないんだけどね。詳しいわけでもないんだけどね』
「ふうん」


リーマスは気のない返事をした。
疑われている、と思った。
自分で言うのもなんだが、今の嘘は下手すぎたと思う。
河童になってこれっぽっちも興味がないのがバレバレだっただろう。


(どうしよう……)


リーマスを納得させられるだけの嘘が思いつかず、レナは背もたれによりかかって天井を仰いだ。
青い折鶴が目に入り、そのままの体勢でリーマスのほうを見る。


『先月のホグズミード休暇の日のことなんだけど……』
「ん?」


リーマスの反応が普通に戻る。
これは本当に気になっていたことだったので、せっかくだから聞いてみようと、レナは体勢を戻した。


『私、寝てた……?』
「ああ……私が途中所用で抜けて、長時間帰ってこなかったから待ちくたびれたんだろう」
『そっか……』
「覚えてないのかい?」
『うん。気づいたらマクゴナガル先生の部屋でぼーっとしてた』
「疲れが貯まってるんじゃない?」
『そんなことないと思うんだけどなあ』
「でも目の下にうっすら隈があるよ。ちゃんと寝れてる?」
『それリーマスに言われたくない』


うっすらどころか化粧でも消せないくらいの隈を指差す。
リーマスは「仕事が溜まっていてね」と苦笑いをした。


『マッサージしようか?血行がよくなるだけでも違うかもよ』
「大丈夫だよ。慣れてるから」
『慣れちゃいけないと思うよ……』


マクゴナガルの生活を見ていなければ、ホグワーツをブラック企業だと思っただろう。
たぶん、リーマスは体調不良と地図に夢中なことが原因で睡眠不足なんだ。


「それに、カタタタキケンもうないし」
『あるじゃん。上に』
「あれはダメ」
『なんで!?』
「お気に入りだから」


リーマスは微笑み、「使えないから新しく使う用を作ってよ」と言った。
観賞用と使用用が欲しいとか、どこのコレクターだ。
そのうち保存用まで要求してきそうだ。


『えと、3つも作った私が言うのもなんだけど、普通クリスマスプレゼントは1人1個だよ……?』
「ここはホグワーツだからレナの普通は通じないよ」
『いやいやホグワーツでもプレゼントの追加要求が普通なわけないでしょ!?』
「普通かもしれない」
『嘘だー!』
「うん、嘘」
『……』


ジトッと見る表情がおかしかったのか、リーマスは笑った


「気に入ったのは本当だよ。だからあれで十分なんだ」
『はいはい』
「それに、券がなくても頼んだらやってくれるだろう?」
『そのセリフを聞かなきゃやってたかもね』
「そうか。失敗したな」


リーマスは残念そうな顔をして自分で肩をもみ始めた。
見ないふりをしていると、わざとらしく「疲れた」「肩凝ったな」と言ってくる。
結局根負けして、レナはリーマスの肩を叩き始めた。


『あ、そうだ。マクゴナガル先生がね、アニメーガス教えてくれるって!』
「へえ、すごいじゃないか」
『粘った甲斐があったよー』
「何に変身するか決めたの?やっぱり鳥?」
『うんうん。オオルリ』
「……オオルリ?」
『知らない?青い鳥』


もしかしたらイギリスにはいない鳥なのかもしれない。
反応がなくなったリーマスの顔をのぞき込むと、何か考え込むような表情でまばたきひとつせずにどこか遠くを見ていた。


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