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クリスマス
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「ああそうだ」


休憩の度に犬ネタでレナをさんざんからかい、帰り際になったところで、リーマスがしばらくはレナのところを訪れるのが難しくなると言った。
レナが落胆の表情を隠し損ねたため、「ごめん」と謝られる。


「前回のクィディッチの日に選手が1人箒から落ちたんだけど――」
『あ、それマクゴナガル先生から聞いた!シーカーっていうエースの子だったんでしょ?ディメンターのせいだってすごく怒ってた』
「そうなんだ。名前はハリーだけどね。シーカーはポジションの名前だよ」
『ハリー・ポッター!』
「そう。よく知っているね」
『名前、よく聞くから』


おそらく生徒の中では今までに一番多く聞いた名前だ。
しかもそのほとんどが不幸話だ。
1人だけホグズミードに連れていってもらえなかったり、脱獄犯に命を狙われてみたり。
今度はディメンターに襲われて怪我をするとは。
同情せざるをえない。
彼には疫病神でもついているんだろうか。
そう呟いたら、グリムがついていると言われたのもハリーだという。
かわいそうすぎる。


『なんか事件ばっかりだけど、親が怒鳴り込んできたりしないの?』
「……ハリーは両親がいない」
『そうなんだ……』


どこまでかわいそうな子なんだ。
見知らぬ土地につれてこられただけの自分の状況なんてたいしたことじゃないように思えてくる。


『ハリーって普通の男の子に見えるのに、大変なんだね』
「そうだね。でも彼は強いよ」


リーマスはなぜか誇らしげに言った。
さっきアニメーガスの話をしていたときと同じような表情だ。


「ディメンターに負けないようになりたいと私に相談をしにきて、新学期になったら特別に対策授業をすることになったんだ」
『リーマスがやるの?』
「私はこれでも“闇の魔術に対する防衛術”の先生だからね。それに、彼には特別な思いもある。……ハリーは、親友の忘れ形見なんだ」
『ということは亡くなったハリーの両親ってリーマスの……』
「私の学生時代からの親友だ」
『そうなんだ。ごめん、変なこと聞いて』
「いいよ。私が話したいから話したんだ」


あまりそういうことを軽々しく言わないでほしい。
平然としているから他意はないのだろうが、変に期待をしてしまう。

こちらの人達はこれが普通なのか、リーマスがそういう人なのか、レナ相手だからそういう態度をとってくれるのか――。
こちらの常識はレナの常識と違うということは日々感じているが、どこまでが一般的なものなのか、いまだによくわからない。

逆にリーマスはこちらの話を聞いていて感覚の違いに戸惑うことはなさそうだ。
あまりそういった様子は見られない。
となるとレナだけがあれこれ考えているのは、ただの人生経験の差なのかと思わざるをえない。
大人の余裕を見せ付けられているようで、悔しかった。


「まあそういうわけで、新学期が始まってもしばらくは忙しくなりそうなんだ。ごめんね」
『わかった。大丈夫』


レナは余裕ぶって答えた。
しかし、レナが不満に思っていることが伝わったのか、リーマスは「その代わり、クリスマス休暇は遊べるよ」と微笑んだ。


『帰省とかしないの?』
「独り身だからね。話し相手がいてくれると退屈しないですむ」


もう騙されないぞと誓ったばかりのはずなのに、決意は簡単に揺らいだ。
レナがいては十分に休めないだろうに、1人になるレナを気遣ってくれる。
意地悪なのに優しくて、なんか調子が狂う。


「マクゴナガル先生は忙しいし、ダンブルドア校長はもっとだ。私では不満かもしれないけど――」
『そんなことない!』


即答してから、レナは下を向いた。
気を使わせてばかりでは申し訳ないし、やっぱり悔しい。
子ども扱いはされたくなかった。


『そんなことない、けど、1人でも大丈夫』
「私は大丈夫じゃないかもしれないな。毎日1人で残った仕事を片付けていたらまた体調を崩してしまうかもしれない」
『その言い方はずるいよ』


最後だけ日本語で言った。
伝わってほしいような、ほしくないような、複雑な気分だった。

* * *



結局冬休みは日中をリーマスのところで、夜をマクゴナガルのところで過ごすことになった。
立て続けに起こった事件のせいでマクゴナガルもいろいろと忙しいらしい。
クリスマスの日、マクゴナガルは大広間に食事に行ったが、リーマスは部屋に残った。
やってきたレナに向かって「仮病だよ」と悪戯っぽく言う。

この日のリーマスは上機嫌で、顔色もよかった。
ハロウィーンの日も元気だったから、イベント好きなのかもしれない。
意外とかわいいところがある。
なんて思っていたら、リーマスがおもむろに包みを出した。


「はい、プレゼント」
『え?え?いいの!?』
「高価なものはあげられないけど、最初にこの部屋に来たときに珍しそうに見ていたからどうかなと思って。メモできるものがあるといろいろ便利だろう?」


リーマスがくれたのは、羽ペンとインク瓶だった。
プレゼント自体も嬉しいが、羽ペンに興味を示していたことや、手紙を書けないと言ったことを覚えていてくれたことも嬉しい。


『ありがとう!練習する!』


クリスマスにプレゼント交換だなんて、なんだか恋人同士みたいだ――じゃなくて。


『どうしよう。私、何も準備してない』
「レナ、君が気にする必要はない。頑張っているから、応援したくなっただけだよ」
『でも……』


何かあげたい。
そう思ったが、自分は何も持っていない。
身ひとつで飛んできたため、自由にできるものといえば制服と携帯電話と――あとは櫛とかピンとかハンカチとか、卒業おめでとう造花くらいだ。
何か料理や小物を作ってあげられるような才能もない。


『あ、じゃあ、肩叩き券とか!』


苦し紛れに言って、すぐに後悔した。
小学生の親へのプレゼントじゃあるまいし、肩叩き券って!
ネタにしかならない!
笑われる!
そう思ったのだが、リーマスは笑わず、きょとんとしていた。


「タタタタ……?」
『あ、えーとー』


英語でなんて言うんだと考え、そもそもこっちにはそういう文化がないかもしれないと思い至る。
骨折が1日で治せるんだから、肩こりなんて一瞬のうちに治せそうだ。


『マッサージ、って言えばわかるかな?』
「ああ」
『それを、好きなときにやってもらえる券。お願いチケットみたいな感じ』
「へえ、おもしろいね」
『あ、いや、別にマッサージが得意なわけでもないんだけどね』


ちょっと口が滑っただけだ。
できたら忘れてほしい。
他に何かいいものはないかと再考したが、リーマスは肩たたき券が気に入ってしまったようだった。


「カタタタタンだっけ?」
『肩、叩き、券』
「カタ、タタキ、ケン」
『そう』
「知らないものだからもらってみたいな。カタタタケン」


どうしよう。
カタコトで言うリーマスがすごいかわいい。
しかも言えてない。

あげよう。
もうこれはあげるしかない。
そして毎回口に出してもらおう。


『待ってて。いま作るから』


紙を1枚もらい、プレゼントされたばかりの羽ペンを使い、レナは10年ぶりになる肩たたき券作成を開始した。


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