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乙女心と秋の空
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週があけて月曜日になっても、雨が止む気配はなかった。
時折顔をのぞかせる太陽も、1時間もすれば雲に隠れてしまう。
リーマスはまだ具合が悪そうで、目の下にクマができている。
それでもいつも通りレナに微笑みかけた。


『寝れてないの?』
「大丈夫だよ」
『そうは見えないけど……薬は?』
「しばらく飲まなくていいんだ。嘘じゃない」


疑いの目を向けるレナに、リーマスは必要な時期になったら必要な量をセブルスが作って持ってきてくれるのだと説明した。


『毎日飲めばいいのに』
「どんな薬も、飲みすぎはよくないだろう?」
『うん。まあ、あの薬、体に悪そうだもんね』


毒と言われたほうがしっくりくるくらいだ。
ハロウィーンの日に見た薬を思い出してレナは思った。

そして同時に、考えないようにしていたことを思い出してしまった。
もしかしたら、夜に無理やり薬を飲ませたのが良くなかったのかもしれない。


『毎日来なくてもいいよ?』


気づいたらそう口に出していた。


「急にどうしたんだい?もう先生は必要なくなった?」
『疲れてるのに大変でしょう?』
「そんなことはない。それに、私には君をこちらに呼んでしまった責任がある」
『不可抗力じゃん。リーマスは悪くないよ』


責任を感じているから、仕方なくなんだ。
そう思ったら、なんだか悲しくなった。

きっとあの日の行動も、仕方なくなんだ。
手を繋いだことはもちろん、部屋での行動も、ああすればレナが言うこと聞くと思ったから。

大人なんだし先生なんだから、きっとマクゴナガルのように子どもの扱いには慣れている。
もしかしたら、そうするようダンブルドアに指示されたのかもしれない。

ひどい。
大人はこれだから嫌いだ。
何気ない行動に、こっちがどれだけ動揺すると思ってるんだ。


『本もだいたい読めるようになってきたし、マクゴナガル先生も時間があるときに教えてくれるし、大丈夫』
「そっか」


リーマスが少し寂しそうに見えるのは、きっとそうであってほしいと自分が思っているからだろう。
全部演技かもしれないと思うと、せっかくリーマスが来てくれたというのに、楽しめなくなってしまった。


『しばらくは自分で頑張ってみる』
「偉いね。それじゃ私が授業で使っている本も1冊貸してあげるよ」
『ありがとう』
「わからなかったら何でも聞いて」
『部屋から出られないけどね』
「ではやはり私がたまに来るよ。マクゴナガル先生への用事ついでならいいだろう?」
『突然来られても……あ、じゃあ、晴れの日の次の日に来て。それなら心の準備ができるから』
「この時期はしばらくずっと雨だよ?」
『マクゴナガル先生から聞いたから知ってる。だからたぶんちょうどいいくらいだよ』


レナは無理に笑顔を作った。
ついうっかり口走った“心の準備”という言葉を突っ込まれなくてよかった。
よかったはずなのに、気にしてほしかったという気持ちもどこかにあった。
だけどリーマスは「わかった」と一言返事をしただけだった。

* * *



誤算だった。
イギリスを舐めていた。
雨が多いと言っても、日本の梅雨みたいなものだろうと思っていた。
“梅雨の晴れ間”なるものが1週間に1回くらいあるだろうと。

しかし実際は、イギリスだからなのかホグワーツだからなのか今年が異常気象なのか知らないが、見事に毎日雨だった。
常にどんよりと重たく冷たい空気で、午前中に太陽が見えても午後にはパラパラと雨が降り始める。
まさかまるまる1ヶ月、“今日は晴れだった”と言える日が1度も訪れないとは思わなかった。
そしてリーマスがレナとの約束を守り、1度も来ないとも思わなかった。


『なんで来てくれないの!雨の馬鹿―!』


自分が言い出したことなのに、レナは雨に八つ当たりをした。
気分はどんどん憂鬱になっていき、楽しかったはずの魔法も、気を紛らわせるだけのものになりつつある。

しもべ妖精は頼めばなんでも必要なものを持ってきてくれるが、話し相手にはなってくれない。
そもそも姿すらほとんど見せてくれない。
彼らはいかに主人に存在を悟らせずに手伝えるかを大事にしているらしい。


『あーもう、ほんとばかー。私のばかー』


なんであんなことを言ってしまったんだろうと後悔した。
1人で勉強していてもつまらなくて、長いこと忘れていた帰りたいという気持ちも復活してきた。
今どういう状況なのか、ダンブルドアに聞いてみようか――
そう思ったが、手紙を書こうにも筆記用具がない。
羽ペンをマクゴナガルに借りてみるものの、とても文字を書けたものじゃなかった。


『あーあ……』


大げさなため息をついて、窓の外を見る。
昨日と同じ、灰色の世界が広がっている。
雨と、黒い浮遊体――ディメンターというらしい――しか見えない。


『あいつらが全部悪い』


雨が止まないのも、リーマスが来ないのも、レナが憂鬱なのも、全部ディメンターのせいだ。
不幸の塊め。

幸せな気分を吸い取るという説明はよく当たっていると思う。
だって、楽しかったほんの少し前のことすら忘れつつあるのだから。
おまけに自分が厄介者だったということを思い出した。

親切にされることに慣れすぎて忘れていた。
みんなそれぞれ学校の先生という仕事があるんだということを。

しかもやっかいな事件まで抱えて。
レナに構っている暇なんてないんだ。
自分の鈍感さこそ恐るべし、だ。

一度暗くなった気分はなかなか元に戻らず、天気と同様灰色の日々が続いた。

* * *



ようやく晴れと呼べる晴れが訪れたのは、月が変わって1週間が経った頃だった。
不思議なもので、天気が回復するとレナの気分まで晴れ晴れしたものになる。
リーマスをこちらに来させるのは悪いと思っていたはずなのに、また会えるという嬉しさのほうが上回り、次の日が楽しみで仕方なくなった。
魔法も、1ヶ月で覚えたことを見てほしい聞いてほしいという気分になった。
それなのに、次の日、リーマスはまた寝込んだ。


『もー、なんなのー』


ため息をつきながら窓の外を見上げると、きれいな満月が雲ひとつない夜空に浮かんでいた。


『会いたいな……』


自分の気分を左右しているのはディメンターでも天気でもない。
原因はもっと別のところにある。
それを見て見ぬふりをするためにレナはベッドに入り、頭まで布団をかけて丸くなった。


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