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ファンタ爺
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『……はぃ?』


思わず変な声が出た。
ちょっと寝て起きたら半年経っていましただなんて、それこそファンタジーの世界だ。
レナは部屋の中を見渡し、カレンダーを探した。
何に使うのかわからない奇妙なものはいくつかあるが、日付がわかりそうなものはない。

――と、その瞬間、ポケットに入れた携帯電話の存在を思い出した。
あれなら確実な日付がわかる。
というか助けが呼べる。
110番くらいなら、画面をみなくたって押せるんだから。


『9月3日に卒業式をする地域なんて私の記憶にはないんですけど』


相手の注意を逸らすためにレナは話を続け、そっとポケットに手を入れた。
つながりさえすれば、こちらの状況を察して助けにきてくれるだろう。
ダンブルドア達に電話からの声が聞こえないよう、レナは声を大きくした。


『ここはどこ?私はどこに誘拐されたの?さっきも言ったけど、建物名じゃなくて、住所よ住所』
「イギリスじゃ。住所はない。というか秘密じゃ」
『イギリス!?』


レナはガタンと音を立てて立ち上がった。
その弾みで携帯電話を握った手がポケットから出てしまったが、通報したことをダンブルドア達に知られることはなかった。
代わりに、真っ黒な画面が、ロッカーに隠れる際に電源を切っていのだということをレナに思い出させた。


「どうやら詳しく説明をせんといかんようじゃ」


ダンブルドアはゆっくりと息を吐きながら言った。

* * *



ダンブルドアは魔法界とホグワーツについて1つ1つ説明した。
レナには半分も理解できなかったが、いま起きていることは夢ではないということだけははっきりと理解した。
窓の外の空が青から橙色に変化するのと対照的に、レナの顔はどんどん青ざめていく。


『つまり、あのロッカーは、そのポートキーというやつだったということ?』
「おそらくそうじゃろう。誰かの悪戯か回収忘れか……」
『悪戯ってレベルじゃない!』
「その通りじゃ。時間までいじられているとなるとこれは魔法省に報告せねばならぬほどの事案じゃ」
『私、戻れるんだよね……?』
「もちろんじゃ。今説明した通り、問題が全て解決したら元の場所、元の時間に必ず戻すと約束しよう」
『でも、そのときまでは――ううん、今現在も、私の両親や友達は私がいなくなったと思って心配しているんでしょう?』
「その件についてはわしが何とかしよう。学校の備品に不備があったことに気づけなかったわしの責任じゃ」


ダンブルドアはサポートできることは全てサポートするから戻るときまで魔法界を楽しんでくれとまで言った。


『楽しむって言ったって、家にも戻れないのに……』
「衣食住はわしが責任を持って保障しよう。時間もお金もかからない留学だと思えば魅力的じゃないかの?」
『な、なるほど』


我ながら現金なもので、帰宅が保障されているのであればダンブルドアの提案も悪くないと思った。
なんといったって魔法学校だ。
興味が湧かないわけがない。
どうせ魔法省とやらへの報告が終わったら戻れるのだから、長くとも数日だろう――
そう、このときは楽観視していた。

* * *



「――リーマス」


ダンブルドアはずっと壁際で成り行きを見ていたリーマスに向かって呼びかけた。


「彼女はただの被害者のようじゃ。落ち着くまでホグワーツにいてもらうことにした」
「生徒が不安がりませんか?」
「もちろん、内密に、じゃ」
「ということはどこか1室を彼女に与えるということですか?言葉も満足にわからないようですしこの状況で1人にするのは危険かと思います」


危険、という単語が聞こえてきて、レナは身を強張らせた。
そういえば最初に“やっかいごとがある”と言っていた気がする。
それから侵入者がどうとか言っていた。
この学校は危険人物に狙われているとでもいうのか。


「それもそうじゃの。君のところは――」
「無理です」


リーマスが“ノー”と即答した。
危険なことを反対してくれているのであればありがたい。
最初はそう思ったのだが、どうやらそうではなく、レナをどこに住まわせるか話しているらしい。
わかる言葉を繋ぎ合わせていくと、外に出すわけにはいかないがここはダメだ、毎月あの日が問題だ――ということになった。

毎月の“あの日”が何を指すのかわからないが、レナの想像通りだとしたら、男性2人が相談すべきことではない。
そりゃ問題になるかもしれないが、なんというか、とっても余計なお世話だ。
セクハラで訴えてやる。

* * *



『……あの人、信用していいの?』


話を終えてダンブルドアが出て行ったあと、レナはリーマスに向かって英語で話しかけた。
意味が伝わったようで、リーマスは頷いた。


「彼は偉大な魔法使いだ。私が知る限り、イギリスで最も信用できる人物だよ」
『リーマスも魔法使い?』
「そうだよ。――君は?」
『違う。初めて見た』
「そうか。驚いただろう」
『もちろん。……私はここに住むの?』
「違うよ。今ダンブルドアがマクゴナガル先生を呼びに行っている。彼女も素晴らしい魔女だ。君は安全だよ」
『魔女……』


一瞬頭をよぎった女装男の記憶を無理やり消し、どうかまともな人が来てくれますようにとレナは願った。
少しずつ、ほんの少しずつだが、これからどんな生活が待っているのか楽しみになってきていた。


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