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再会[IF]
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※シリウス生存IF。魔法省執務室シーンより。本編と矛盾が出るのでご注意ください。


数年ぶりの再会を果たしたレナは、今の状況をどう捉えるべきなのか決めかねていた。

尋問をすると言ったわりには座った場所は高級そうな革張りのソファだし、記録用であろう書類はたったいま燃え盛る暖炉の中へと消えていった。
だから尋問は冗談なのかと思ったが、笑顔のリーマスはどうも本気らしく、レナが正面に座るのを待っている。

5年分――正確には4年だが――の報告はいいとして、氏名と年齢と住所まで聞くのはどうなんだ。
言いたいことは一杯あったが、結局はリーマスの言うとおりにすることに決めた。


『え、ええと……名前はサクラレナで、年は……数え年だとたぶん26、かな?』
「たぶん?」
『いったり来たりでぐっちゃぐっちゃなのっ。書類的には23』


自分だってわけがわからないのだと言うと、リーマスは「確かにややこしい」と言って笑った。


『住所はどっちのを言えばいい?』
「2つ以上あるのかい?」
『日本の実家と、これから住むイギリスのと……』
「なんだって?」


リーマスが予想以上の驚きを示してくれたので、レナは得意気に日本に戻ってからの出来事を話した。


「杖なしで魔法を使ったの?」
『そう。まさか枝で発動するとは思わなかったからびっくり。それでね、なんかお偉いさんに知られちゃったみたいで、夜に手紙が届いて大騒ぎだったの』
「そりゃまあ、そうだろうね」
『うちの両親ってば、7歳のときに魔法学校から来た招待状を捨ててたんだよ!ひどくない?』
「うーん、マグルにとっては魔法なんて信じられないものだろうからね……仕方がない部分もあるんじゃないかな」
『理由が“通学方法がめんどくさい”でも!?』


いま思い出しても腹が立つ。
そんな理由で魔法を学ぶ機会を失っていただなんて、恨んでも恨みきれない。
どうして日本の魔法学校は島にあるんだ、そんな不便な場所にあるのになんで1年生から寮じゃないんだと、手続きにやってきた魔法使いに食ってかかり、あやうく『魔法を学んでたらもっと役に立てたのに!』と口走るところだった。


「え……それじゃ、大騒ぎしたのって、レナ?」
『そうだよ!当然!』
「ははは、それは大変だっただろう」
『どういう意味よ』
「ん、そのあとどうしたのかなって。魔法学校には通えないだろう?」
『……そう。普通に大学に行ったよ』


なんだかごまかされたような気がしたが、レナは続けて大学時代の話をした。
正式に魔女として認められたレナは、大学に通いながらトラウマの治療をする一方で、新聞やテレビを通してイギリスの情勢を知った。

アルバイトをしてお金を貯めつつ、魔法界のことも調べられるようになると、苦労して魔法使い専用の通訳という職を手に入れた。
大学の卒業が3月で、こちらの仕事始めが9月だから、それまでの間は新生活の準備や研修をして過ごすことになる。
しかし、イギリスに来たら、何よりも先にやりたいことがあった。


『リーマスを捜さなきゃって思ったの』


レナは言い、その時のことを思い出した。

* * *



レナは必要な手続きがすべて終わると、新居の片付けもそこそこに買ってきた地図帳を開いた。
雑誌並みの厚みを前に、思わずため息が出る。


『仕事が始まる前に見つかるかな』


まさかイギリスに来てから躓くとは思ってもみなかった。
というより、そこまでちゃんと考えていなかった。
ただ漠然と、イギリスに来ればリーマスに会える気がしていた。


『ああもう私の馬鹿ー』


リーマスの家の場所がわからないことに今さら気づくなんて間抜けすぎる。
家からホグズミードまでなら1人で移動をしたことがあるが、地名を覚えようだなんてそのときは思わなかった。
おかげで住所どころかどの地方にあるのかすらわからない。
地図帳をパラパラとめくり、聞き覚えのある地名が出てくることを願ったが、そんなものが都合よく目に飛び込んでくるはずもなく、あっという間に裏表紙に到達する。


『やっぱり魔法省に聞くのが早いか』


変に勘繰られるのが嫌だという理由で避けていたが、マグルとの接触を絶たれていたレナが、マグルの地図で知っている場所を見つけられる可能性は限りなく低い。
ホグズミードは怪しまれるだろうか、引っ越してきたばかりの日本人ならダイアゴン横丁が無難だろうかと考えながら、ロンドンのページを開く。
魔法省への行き方を確認していたレナは、とある地名を見つけて紙面をなぞっていた指の動きを止めた。


『……グリモールド・プレイスって、あのグリモールド・プレイス?』


キングズ・クロス駅から少し離れた場所にあった印字に、目が釘付けになる。
魔法使いからも隠れていた騎士団の本部が見つかるわけがないと、早々に候補から外した場所だったから驚いた。

ただの偶然の一致だとは思い切れず、レナはパソコンを開いた。
地図を表示させ、ドキドキしながら拡大していく。
11番地と13番地の表記はあるのに、その間が存在しない。
航空写真に切り替えたときの周囲の様子も、なんとなくそれっぽい。
レナは地図を片手に家を飛び出した。

* * *



そこには、見覚えのある風景が広がっていた。
建物の外観の記憶はないが、窓から見た公園のことならよく覚えている。
間違いないと確信したレナは、ゴクリと喉を鳴らし、12番地のベルを押した。


(……誰もいないのかな)


何度押しても、いくら待っても、人が出てくる気配はない。
時間が経つにつれ、不安が足元からじわじわと上がってくる。
それは、ホグズミードやダイアゴン横丁の場所を聞くのを躊躇させていたもう1つの理由と同じものだった。


『安全になったからもう使ってないだけだよね?』


レナは誰にともなく聞き、自分で頷いてドアを開けた。
暗い屋内は埃っぽく、最近誰かが出入りをした様子はない。
ホグワーツとつながっているポートキーか、暖炉脇の煙突飛行粉が残っていればと考え、家の中を探ろうとしたそのときだった。
ドアがバタンと閉じ、けたたましい警報音が鳴り響いた。


『えっ、何なに!?』


ブラック夫人の叫び声に負けず劣らずの大きな音に、レナはパニックになった。
外に逃げようにも、ドアは開かない。
窓から出ようと玄関ホールを走りだしたところで、バチンバチンと独特の音がして警報音が消え、前後から杖を突きつけられた。
騎士団の誰かであることを期待したが、どちらも見たことがない若い男だった。


『いやあの決して怪しいものではなくてですね』


しどろもどろに話しながら、怪しい者以外の何者でもないなと思った。
日本人だし、杖を持っていないし、事情は説明できないし――。
レナは観念して両手を上げ、2人に捕まった。

* * *



連れてこられた場所が魔法省だったことに、ひとまずレナは安堵した。
グリモールド・プレイスが敵の手に渡っていて、現れた2人が死喰い人の残党であるという可能性を思いついてしまい、恐ろしくなっていたところだった。

そして、ほっとしたらほっとしたで、最初の問題に戻った。
あの場にいたことをどう説明しようという問題だ。
困り果てたレナは、だんまりを貫くという強硬手段に出た。


「杖を持っていないようだが、マグルか?」
「まさか。マグルが入れるわけない」
「魔女だとしても関係者以外入れないだろう」
「侵入者避け呪文が正常に働いていなかったという可能性もある」
「ばーか、警報はあっただろう。正常じゃなかったとしたら、マグル避け呪文のほうだ」
「どっちも一緒だろ?」


レナがただのマグルの観光者だと思っているからなのか、侵入者の前だというのに2人のおしゃべりは止まらない。
おかげで2人が闇払い見習いであることや、あの場で罠を張っていたこと、今の魔法大臣がキングズリーであることまで知ることができた。


(そっか、キングズリーが大臣なんだった)


一度新聞で見ていたはずなのに、すっかり忘れていた。
事情を知っている彼なら、直接リーマスの居場所を聞いても問題ないだろう。
レナは新人2人に、『実は大臣の愛人なんです』と言ってみた。

* * *



「お前達、仮にも闇払いだろう。簡単に相手の言うことを信じるな」


魔法大臣の執務室に連れて行かれ、待たされること数十分。
やってきたキングズリー・シャックルボルトは、書類を受け取りながら新人2人をたしなめた。

浮き足立っていた2人は意気消沈し、「暗殺目的だったらどうする」ともっともなことを言われて身を小さくした。


「だがまあ、今回は正しい判断だった」
「えっ、じゃあ本当に愛人なんですか?」
「そんなわけないだろう。彼女は――いいか、これはトップシークレットだ。秘密を守れると誓えるか?」


神妙な面持ちで告げるキングズリーに、2人は「はい!」と元気な返事をした。


「彼女は、かつてあの場所に閉じ込めていた日本人だ。ある日忽然と姿を消したんだが……戻ってきたのは好都合だ。よくやった」
「は、はい!」
「君はリーマスを連れてきてくれ。至急だ。それから君は、人払いを」


テキパキと出されていく指示に、レナは大きく反応した。
ドアが閉まるのと同時に、『リーマスがここにいるの!?』とキングズリーに詰め寄った。


「ああ。よくやってくれている」
『よ、よかった……無事なんですね』
「何も聞いていないのか?」
『そうなんです。家の住所もわからなくて、グリモールド・プレイスに……そういえば私のこと言っちゃって大丈夫なんですか?あの2人、口軽そうですよ』
「ああ、秘密保持に関しては少々問題が有りそうだな。が、深読みもできないだろうから大丈夫だろう」


キングズリーは受け取った書類に軽く目を通しながら、魔法戦争の結末や、現在のリーマスの仕事などについて教えてくれた。
他の騎士団のメンバーはどうなったんだろうと気になり始めたとき、ドアがノックされた。


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