三大魔法学校対抗試合の最終戦で、死者が出た。
そして、ヴォルデモートが復活した。
7月を間近に控えた空は青く澄み、高く上った太陽がジリジリと石壁を焼く。
窓を開けて風を通していないと汗が出てくるような天候なのに、鳥肌が立ち、寒気がした。
来訪者との会が外に漏れないように窓を閉めきってもそれは変わらず、むしろ部屋の温度が下がった気さえする。
「それで、ダンブルドアはどうするって?」
「騎士団を再結成する」
リーマスの問いかけに、来訪者、シリウス・ブラックは答えた。
予想通りの返答に、ごくりと喉がなる。
戦いはもはや避けられない。
そればかりか、魔法省がヴォルデモートの復活を認めないという、こちらには不利な状況で始まるようだ。
シリウスが昨晩のできごとを話している間、リーマスの目つきはどんどん鋭くなっていった。
「やるだろう?」
「もちろんやるよ。やらないわけがない」
「だよな。詳しいことは追って連絡が来る。だからそれまでここに置いてほしい」
「それは構わないけど……」
リーマスはアルバイトに行っていて今は家にいない人物のことを考えた。
「いくつか頼みがある」
真剣な表情のリーマスに、シリウスは内容を聞く前から「もちろん」と答えた。
家に帰ってきたレナは、知らない男がいたことで驚いた。
さらにそれがシリウス・ブラックだと知って声を失う。
しばらく家で匿うことになることを伝えると、青ざめてわなわなと震えだした。
しかし、すぐに打ち解けたようで、次の日には仲良くアニメーガスの本を一緒に見ながら話をするようになっていた。
「よし、私が手本を見せてやろう」
『手本!?いい、いい、それはいいって、やめてえええええっ』
シリウスが変身し、レナは悲鳴をあげた。
本を投げ出してリーマスのところにかけてきて、抱きついて背後に回る。
「……シリウス」
リーマスはため息をつき、黒くて大きな尻尾を振る親友に向かってため息をついた。
「レナの前で犬にならないでくれって、言ったじゃないか」
「ああそうだった。悪いリーマス、忘れてた」
「謝るならレナに」
「レナ、すまなかった。実際にやって見せるのが早いと思ったんだが、もうやらない」
人の姿に戻ったシリウスがもう変身しないと言うが、レナはリーマスから離れない。
仲直りと約束のしるしにとシリウスが手を出しても、警戒心丸出しの表情でリーマスの脇の下から顔をのぞかせるだけだ。
行き場をなくした手を自分の頭にまわし、シリウスは肩をすくめて笑った。
「どうやら私は嫌われてしまったようだ」
「そんなことないよ。好き嫌いの話じゃないみたいだからね」
何かを日本語でぶつぶつ言っているレナの肩に手をまわしながらリーマスも笑い返す。
外で起きていることを忘れてしまうような平和なひとときだ。
「レナ、シリウスは独学でアニメーガスを会得したんだ。うちにいる間に、教えてもらえることは教えてもらっておいたほうがいい」
「おいおいリーマス、それじゃ使い捨てみたいじゃないか」
「そういうつもりじゃないよ」
「そういうつもりであってたまるか」
笑いあう2人を見て、レナはわずかに警戒心を解いた。
片手でリーマスの服を掴んだまま、もう片方の手を恐る恐るシリウスに伸ばし、握手をする。
昼間は真剣な顔を突き合わせて今後の対策を話していることをレナは知らないし、知る必要もない。
しかし、隠し通すことは難しい。
握手をする2人を見ながら、どうするのが1番いいのだろうかとリーマスは密かに頭を悩ませた。
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