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三角関係
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守護霊の話を聞いてから、レナの頭の中はリーマスとトンクスのことでいっぱいだった。

トンクスはすごくいい人だ。
それにとても優秀な魔女だ。
ドジで危なっかしい一面もあるが、そこは冷静で大人なリーマスが上手くカバーしてくれるだろう。
正直お似合いだと思う。

“好きな人が幸せになるように願う”というリーマスのアドバイスに従うなら、リーマスがトンクスと結ばれることがベストな気がした。


「元気がないね」


テーブルの角を挟んで座るリーマスが、探るような目を向けてきた。


『そんなことないよ』


レナからしてみれば、リーマスのほうがよっぽど元気がないように見える。
治りきっていない傷があちこちについていて痛々しいし、相変わらず思い悩んでいるような時もある。


「たいした怪我じゃない」


リーマスは左手の甲についた傷を隠すように右手を重ねた。
それから少し間を空けて、「仕事のことだけど」とため息をつくように言った。


「レナはもう少し危機感を持ったほうがいい。ダイアゴン横丁が危険なことくらいわかっているだろう?フレッドとジョージが常にそばにいる状況になるから許可したのに、勝手に移動までして――」
『ごめん……W.W.W.に戻るね』
「いや、好きにするといいと言ったのは私だ。ただ、私の心配をする前に自分の心配をするべきなんじゃないかなって」
『大丈夫。盾の帽子もあるし、ホグズミードにはトンクスもいるから』
「……そうか」
『強いし優しいし、私トンクス大好き』


レナは読んでいた本を閉じ、トンクスのいいところを片っ端からあげていった。
リーマスはあさっての方向を見ながら「そうだね」と頷き続けた。


『どうしてモリーに嘘をついたの?』


ひと通り話し終わり、レナは思いきってリーマスに聞いてみた。


『クリスマスパーティのとき。トンクスに会ってないって言ったよね』
「出欠とは関係のない話だったからだよ」
『どんな話をしたの?』
「ホグズミードの様子を聞いた。レナを任せられるか判断するためにね」


リーマスは努めて事務的に聞こえるように言った。
そして別の話題を探した。
しかしリーマスが次の話題を体要する前に、レナが口を開いた。


『そういえばあのとき、トンクスと話したんだけど、トンクスもリーマスが人狼の事を気にし過ぎだって言ってたよ』
「そう……それで私が馬鹿野郎になったのかい?」
『あれはごめんつい勢いで!』
「つい本音が?」
『違う違う!』


焦るレナを笑いながらも、リーマスの意識は別の場所にあった。
ホグズミードでトンクスと話してから、ずっと同じことばかり考えている。
ポケットに入った、地球儀と砂時計を組み合わせたような小さな魔法道具のことだ。


(確かに私は馬鹿野郎だよ)


シリウスが亡くなった日にした反省は、何も生かされていない。
好きだと言われたとき、スパイの任務が決まったとき、W.W.W.に行きたいと言われたとき――、本当は別の選択をとるべきだったのに。
自分可愛さを優先してきた結果、事態はどんどんと悪い方へ向かっている。

そこまでわかっていながら、自分から「帰れ」と言えないのだから、救いようがない。


「いいかい、レナ。一般的な魔法使いにとっての人狼というのは、君にとっての犬のようなものなんだ」


リーマスは大きく息を吐いた後、諭すように言った。


「レナは犬1匹1匹を見て危険かどうか判断しているわけじゃないだろう?それと同じだ。我々は“人狼”というくくりから逃げられない」


『そんなことない』と言うレナの声は擦れていた。
犬の話題で怯えさせるのは気が引けたが、リーマスは杖を振って自らのパトローナスを呼び出した。

* * *



リーマスの杖から出てきた銀色のもやは、最初はっきりした形をもっていなかった。
しかしレナが眺めているうちに、雲のような塊から4本足が伸び、尻尾が生え始める。

銀色の生物の正体がはっきりしてくるにつれ、レナは後に下がった。
ドアに背中がついたとき、リーマスの足元には変身後のシリウスによく似た動物がいた。


『り、リーマスの守護霊も変化したの?』
「元からこの姿だよ。普段はあいまいな形のまま使っているけどね。私はこれがあまり好きではないから」
『そ、それって――』
「狼だよ。犬ではない。噛むこともないから安全だ。そう言ったらレナは、これに近づけるかい?」


とても優しい言い方だった。
だから、近づいて撫でて、わかっていれば平気だよと言いたかった。
でも、できなかった。
レナの足は、完全にすくんでしまった。


「ほらね」


悲しそうな顔をするリーマスを見て、涙がポロポロとこぼれてきた。
リーマスは慌てて守護霊を消した。


「ごめん、やりすぎた」
『違っ、怖いんじゃ……くて……っ』


謝らないでほしい。
リーマスは何も悪くない。
そう言いたいのに、喉がつかえて声にならなかった。


『わ、私……ごめっ……』


レナが犬を怖がるたびに、リーマスが自分の境遇を思い起こしていたことも知らず、気にしすぎだなんて、よく言えたもんだ。
レナではリーマスを幸せにすることはできないのだ。

現実を突きつけられたレナを大きな絶望が襲った。
しかし、それと同時に、同じくらい強い気持ちが自分の中にあることに気づいた。


『トンクスなら大丈夫だよ』


涙を拭きながら、気づいたらそう言っていた。
リーマスは衝撃を受けたような顔をした。


『トンクスは怖がったりしない』
「……レナ」
『聞いちゃった。告白されたんでしょ?』
「断った」
『それも聞いた』
「それなら」
『どうしてトンクスじゃダメなの?トンクスは大人だし、トラウマもないし、リーマスを幸せにしてくれると思うよ』
「なんだっていいだろう。ほっといてくれ」
『ほっとけないよ!リーマスとトンクスには幸せになってほしいもん!トンクスなら……トンクスとなら、うまくいくと思う』
「君に私とトンクスのことでとやかく言われたくはない!」


徐々に声が大きくなってきていたリーマスは、ついに机にこぶしを叩きつけて怒鳴った。
こんな感情的なリーマスは初めて見る。
これ以上はやめたほうがいいと頭ではわかっていたが、止められなかった。


『応援するくらいいいじゃない!好きな人の幸せを願って何が悪いの!?』
「その幸せはレナの勝手な決め付けだ!」
『じゃあ教えてよ。リーマスにとっての幸せってなんなの?』
「そうだな、余計なおせっかいをされないことかな」
『何それ意味わかんない!』
「私はトンクスとの仲を発展させるつもりはないし、レナの助けも必要としていない。もっと言えば、この話をこれ以上続けたくないということだ」
『ごめんリーマス、でもね、』
「聞こえなかったの?レナとはもうこれ以上話したくない。出て行ってくれ!」
『――っリーマスの馬鹿!』


冷静さを欠いた状態なら本音を聞けるかもしれないというレナの期待は見事に砕け散った。
ただ怒らせるだけ怒らせ、拒絶させてしまった。
笑顔なんて程遠い。

レナは泣きながら部屋を飛び出した。


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