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別れ(前編)
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シリウスの体を張った仲直り作戦は、残念ながらあまり成果を得られなかった。
4月になっても、リーマスは相変わらず1人で部屋にいることが多かった。
一応あからさまに避けられることは減り、誕生日にアニメーガスの本ももらったが、嘘をついていることもあって、急かされているように感じてしまう。


『ねー、どうすればいいと思う?プレイボーイさーん』


レナは読んでいた本を投げ出してシリウスに話しかけた。
シリウスはハリーが暖炉に顔を出した日から、ずっとそわそわしている。
呼ばれればいつでもホグズミードに出かける気なのだろう。
というか、呼んでほしくてたまらないといった様子だ。
毎日髭を剃っているし、お酒も控えている。
行くとしたら変身してになるので、レナは気が気じゃない。


「アニメーガスを完成させる。満月のデートに誘う。これからも一緒にいたいって言う」
『無ー理ー。強制送還される可能性が高いもんー』
「多少のリスクは背負え」
『そういわずに。安全に平和に非日常的に仲良くなれるアドバイスをお願いします』
「それを私に求めるのは間違っているな。私は危険のない人生なんてつまらないと考えるタイプの人間だ。そしてそれは恋愛においても同じだ」
『……シリウスの彼女になったらいろいろ大変そう』
「ああ、だから私には恋人ができないんだろうな」


友人としては申し分ないどころか感動するくらい熱い男だとこの前の一件でわかったが、恋人となると話は別だ。
シリウスと同じくらいアグレッシブな人じゃないと務まらないだろう。
普通の人なら胃に穴が空くこと間違いなしだ。


「非日常といえば、レナはストックホルム症候群というものを知っているか?」
『知らない。何それ』
「誘拐された人が監禁されているうちに犯人を好きになるってやつだ。極限状態がそう錯覚させるんだと」
『へえ』
「どう思う?」
『どうって……まあ、ありえない話ではないんじゃない?好きっていう感情は、それぞれが置かれた環境の中で起こるものでしょ』


学校だったり、塾だったり、バイト先だったり、人は限られた世界の中で誰かを好きになる。
外の世界にいる人のことなんて知りようがないんだから当然だ。
レナだって、ロッカーの事件がなければリーマスを知ることすらなかった。
それを突き詰めていけば、2人しかいない世界なら、相手を好きになることもあるかもしれない。


『ていうかなんでそんなこと聞くの?まさかシリウス、監禁生活で私のことを好きになった?今のが遠まわしの告白?』
「バカ言うな。もしそうならかいがいしく相談に乗ったりするかよ。私ならもっと近道を行くね」
『近道って?直球勝負?』
「“さっさと諦めろ、目の前にもっといい男がいるだろう”」
『う、うわあ』


さすがプレイボーイ。
自分に自信がある方は言うことが違っていらっしゃる。
このくらい自信を持ちたいものだ。


「……今のはたとえ話だ」
『うん。わかってる――って!』


シリウスの視線がレナの頭上を越えているような気がしたので、不思議に思ったレナは振り返った。
そして顔を引きつらせた。


『り、リーマス、いつからそこに』
「いま来たところだよ。モリーから今日はミートパイを持って行くから夕飯の準備はいらないって連絡があったから伝えようと思って」
『そ、そっか。わかった。ありがとう』
「楽しくやってるみたいだね」


リーマスは微笑んでいる。
が、なぜかちょっと怖い。
目が笑ってないように見える。
まずい。
真面目に練習をしていないことがバレた。


「順調かい?」
『えっと……』
「夏休みくらいには月夜の散歩ができそうだな」
『ちょっとシリウス、なに勝手に――』
「行かないよ」
「まあそう言うな。久しぶりに童心に返る機会が我々にあってもいいだろう」
『我々?ってことはシリウスも行くの!?無理無理、絶対無理!』
「レナはデートがいいらしい」
『そういう意味じゃなくって――』
「私は誰も連れて行かないし、君達2人はここから出られない。だからこの話はもうしないこと。いいね?」


最後のいいね?は確実にレナに向けられた。
以前のような関係に戻りたいと思ったが、これはなんか違う。
戻りすぎだ。
というか今までで1番迫力がある気がする。

ここはひとつ、明るく『言われなくてもしないよー』とでも言って、雰囲気を和らげなければなるまい。
いや、それよりもアニメーガスの練習をさぼっていた言い訳をするほうが先だろうか。


(あ、こうやって焦らせて遊んでるのかな?)


淡い期待を抱くが、リーマスは怒った表情のままだった。
寝不足なのかクマが出来てるし安定の顔色の悪さだしで、怖さ倍増だ。


「いいね?レナ」
『わかりました。もうしません』


散歩の話を出したのはシリウスだ。
自分は悪くない。
そう思っていても、レナはしかられた子どものような返答をするしかなかった。


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