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誕生日
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(嘘をついているって知ったら、怒るだろうな)


次の満月の晩、リーマスは膝を抱えて丸くなりながらため息をついた。
薄いカーテンを通して漏れてくる月の光が、リーマスと化け物の影を結びつける。
それを見ながら惨めな気持ちになれるのは、自我を保っているからに他ならない。


(薬を飲んでいない状態で家にいたら部屋がめちゃくちゃになっちゃうじゃないか……馬鹿だな)


レナのためにも距離を置いたほうがいいと思ったのはいつのことだったか。
今ではもうすっかりレナのいる生活に慣れてしまっている。
ジェームズ達が死んでから長いこと、誰かが側にいるという状況はなかった。
だから、毎日誰かと笑い合える日々は貴重で、いつの間にか手放しがたいものになっていた。


(もし戻る前にアニメーガスが完成したら――いや)


満月の日も三本の箒に行くことなく、一緒にいてくれるのだろうかという考えを、頭を振って消す。
今だって、一緒にいようと思えばいられる。
自分がそれを拒んでいるだけだ。
レナが今、三本の箒で誰とどんな話をして飲み明かしているのかは極力考えないようにした。


(早く朝にならないかな)


満月の日は、余計なことばかり考えてしまう。
独りで待つ朝は、途方もなく遠い存在に感じられる。
薄暗い部屋にぼんやりと浮かぶ黒い大きな影を見つめながら、リーマスは低くて小さな唸り声をあげた。

* * *



1週間後、リーマスはレナに本を贈った。
物は持ち帰れないが知識なら持ち帰れるだろうと言うと、レナは心底嬉しそうにした。
ピョンピョン飛びはねながらお礼を繰り返すレナを見ながら、本を選んでよかったとリーマスは思った。
そこまで私のことを考えてくれるなんてとレナは感激しているが、何か残したいと思ったのはリーマス自身の都合だった。


『えっ、すごい!これアニメーガスの本じゃん!さすが先生!』
「私はもう先生じゃないよ」
『そんなの関係ないって。リーマスもやっぱりすごい人だったんだね』
「やっぱりって?」
『あ、いや、ええと、アニメーガスの本はあんまりないんだってマクゴナガル先生が言ってたの。普通の人はなかなか手に入れられないって』
「ああ。そうかもしれないね。私もその本のことは知らなかった。シリウスに聞いたんだ」
『そっか。シリウスもアニメーガスだもんね。……シリウスは元気かな?』


シリウスのアニメーガス姿が大きな犬だということを思い出したのか、レナは途中でわずかに顔を引きつらせた。
意地悪してみたくなる顔だ。


「ずっと犬の姿で潜伏しているみたいだ」
『へえ』


思ったとおり、ぎこちない笑いが返ってきた。
精一杯強がろうとしているようだが、長くは続かない。
最終的に目を泳がせながら『ここに来ないよね?』と聞くもんだから、我慢しきれずに笑ってしまった。


「ホグズミードには行ったみたいだよ。会わなかった?」
『え?いつ?郵便局?三本の箒?また来るの!?』
「3月の最初の土曜って言っていたから、私が三本の箒に行った数日前じゃないかな?もしかしたら今もいるかもしれない」
『ま、マジで……?』
「ははっ、さすがに店には入らないから心配いらないよ」


本をぎゅっと抱きしめながらキョロキョロし始めたレナに言いながら、シリウスから届いた手紙のことを思い返した。
ハリーのまわりでいろいろ起こっていると、深刻な状況が書かれていた。
ダンブルドアはハリーのことで手一杯だろうし、ワールドカップの件を考えると魔法省も信用ならない。
できれば家から出したくないというのが本音だ。


「――でも、周辺はうろうろするかもしれない」
『えええええっ!ダメって伝えて!』


闇の印を説明してもまったく動じていなかったレナが、蒼白い顔をしてうろたえている。
絶大なトラウマ効果だ。
リーマスは親友が変身対象に犬を選んでくれたことに感謝した。


「無理してホグズミードに行く必要はないんだ。家にいればいい。犬に会う心配もないし安全だ」
『う……で、でも、お店には来ないんだよね?』
「レナはどうしても仕事をしたい理由があるのかい?」
『どうしてもじゃないけど、勉強になるから……あ!前にリーマスが言ってた煙突移動は?』
「煙突飛行ネットワーク?」
『うん!もう遅いかな?』
「どうだろう。ダンブルドアに相談してみるよ」


リーマスは重い腰をあげて手紙を書き、明日の出勤時に送ってほしいとレナに渡した。

きな臭くなってきていることを考えると、レナを1人で外に出すのは得策ではない。
そう言い訳し、仕事は必要ないんじゃないかという旨もこっそり載せた。


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