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誕生日
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「ダメって言われるとやりたくなるよね」


カウンター席に座ったリーマスが声をかけると、ロスメルタは「監督生らしからぬ発言ね」と笑った。
午前中ということもあって、客はまだ少ない。
情け容赦のない強風がガタガタと窓を揺らす音を打ち消すために、ロスメルタがレコードをかけ始めた。


「あと1年なのね」
「そうなんだ。寂しくなるよ」
「私もかわいくて優秀な働き手を失うのは痛手ですわ」
「レナはうまくやれてる?」
「もちろんですわ。私が仕込んだんだもの」


いろいろとね、とロスメルタがウインクをした。


「どう?あの子、ずいぶんと大人っぽくなったでしょう?」
「そうだね」


笑顔で答えてからリーマスは静かに目を伏せた。
1年後に日本に帰るとして、見た目の変化は問題にならないのだろうかと最近思うようになった。

ダンブルドアが年の話をしていたことから考えても、レナの中の時間は進んでいる。
毎日一緒にいるためほとんど変わりないように見えるが、あの年頃の2年というのは大きいはずだ。


「あら、あなたは幼いレナのほうが好みだったかしら?」
「いや、そういうわけではないよ」


黙り込んだリーマスを見てロスメルタが意外そうな声をあげるので、リーマスは変な疑惑を持たれてはかなわないと笑いながら否定した。


「なんだレナの話か?」
「もしかしてお前さんが噂の人かい」


リーマスとロスメルタの会話を聞きつけ、テーブル席にいた2人組が身を乗り出した。
もじゃもじゃの髭の男と、背の高いとんがり帽子をかぶった恰幅のいい男が、興味津々といった様子でリーマスを見ている。


「予想以上に年が離れているみたいだな」
「ああ、ひと回り以上違うだろう」


なんの話だろうと首を傾げるリーマスに、髭の男が「あんたレナの彼氏じゃないのか」と告げる。
風にやられたのか、アルコールのせいなのか、鼻から頬にかけてが真っ赤になっている。


「年上だからつりあうように頑張っているって話だったんだが」
「落としたい相手がいるんじゃなかったか?」
「そうだったか?まあ細かいことはよくわからんが、誰かにお熱だってこった」
「で、お前さんはレナの――」
「私はただの保護者だ」


ジロジロと品定めするように見てくる男たちにリーマスが笑顔で答える。
男たちはなんだやっぱり違うかとゲラゲラと笑った。
弧を描いていたリーマスの口元がピクッと動いたのを見て、ロスメルタが小声で「虫除けにそういうことにしているのよ」と囁いた。


「なるほどね」


リーマスは気のない返事をしながらテーブル席に背を向けた。
男たちはまだ笑っている。
バタービールのジョッキを軽く揺らすと、底から細かい気泡があがってきて、シュワシュワと小さな音を立てた。


「それなら“そうだ”って返事しておけばよかったかな?」
「そうですわね」


生まれては消え、それでも徐々にたまっていく泡を見つめているリーマスに、ロスメルタは微笑んだ。


「よっぱらいの言うことなんて気にする必要ないですわ」
「はは、気にしているわけじゃないよ」


リーマスはジョッキから目を離し、泡を口の中に流し込んだ。

* * *



ランチタイムが近づくと、客がだんだん増えてきた。
ロスメルタが忙しそうにあちこちのテーブルを動き回るようになってきたので、リーマスはレコードの音に耳を傾け、先ほどの会話について考えた。


(うわさの人……か)


以前なら自分のことだろうと思えただろう。
今でもそうではないかと思っている。

ただ、クリスマスの日に様子がおかしかったのが気になっていた。
何かあったのは一目瞭然の顔をしていたのに、リーマスが聞いても何もないの一点張りだった。


(誰かいい人でも見つけたのかな)


三本の箒で働いていればいろんな人に出会うし、レナと年齢が近いホグワーツの学生も休暇でやってくる。
物怖じしない性格のレナのことだ、会話さえできるようになれば誰とでもうまくやっていけるだろう。


(世界を広げろなんて言うんじゃなかったな)


自分がけしかけておいて、実際にレナが他の人に興味を示し始めたらおもしろくないだなんて、虫のいい話だ。
誕生日にかこつけて様子を見に職場におしかけるような過保護っぷりにも我ながら呆れる。
これでは子離れできていない親のようだ。
もしくは、嫉妬をするような――。


(まいったな)


リーマスは空になったジョッキを見ながら、乱れた心を落ち着かせるように大きく息を吐いた。


「レナは何時に来るんだっけ?」
「もうじき来ると思いますわ。最近は郵便局が忙しいらしくて。――ほら、風でフクロウが飛ばされてしまうでしょう?」
「ああ、そういえば苦情が多くて大変だって言っていた」


変なことを考え始める前に早く来てくれないかなと願いつつ、2杯目を注文する。
『すみません遅くなりました!』とレナが駆け込んできたのは、それから20分が経ってからだった。


風に煽られ、ぼさぼさになった髪を撫でつけるレナは、リーマスに気づくことなくカウンターの奥へ消えた。
そして着替えて戻ってきて、口をあんぐりあけた。


『ななななんでリーマスがここにいるの!?』
「来るって言ったじゃないか」
『ダメって言ったじゃん!』
「そうだっけ?」


でももう来ちゃったとリーマスが肩をすくめると、レナはわかりやすく青ざめた。
慌てふためきながら皿洗いを開始し、蛇口に手をぶつけたり同じものを2度洗ったりしている。
こらえきれずにリーマスが小さく噴き出すと、今度は赤くなって睨みつけてきた。
終始リーマスのほうをチラチラ見ながら仕事をしているレナは、ずいぶん客と打ち解けているようだが、特別誰かと親しげにしている様子は見られない。


(ほっとしている場合じゃないんだけどね)


複雑な気分になりながらも、リーマスはレナと客のやりとりを見ながら帰宅時間になるまで居座った。


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