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引越し
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逃げるようにやってきた三本の箒で、ロスメルタは何も聞かずにいつも通りレナを迎えてくれた。

身支度を整えたところで、リーマスの声が聞こえてくる。
しかし顔を覗かせても姿は見えない。
ロスメルタの前には銀色に光る半透明の塊があって、リーマスの声はその生物から発せられているようだった。

そういえばスネイプも同じような銀色の光を出してダンブルドアに伝言を送ったとかなんとか言っていた。
これはリーマスのパトローナスなのだろう。
生物の形になりきっていない守護霊は「自分の言い方が悪くてレナを傷つけてしまった」「落ち着いてから改めて説明をするから勝手な話だが1日延期させてほしい」というようなことを言っている。
ずいぶんと力のない声だ。


(悪いと思うなら白紙に戻してくれればいいのに)


レナはイライラすると同時に悲しくなった。
リーマスはレナと話し合う気などない。
どうやったら説得できるかだけを考えている。
シリウスが来てからの楽しかった10日間はいったいなんだったんだろうと思えてくる。


(リーマスはもともとそういう人か……)


リーマスは昔から話をはぐらかすのが得意で、笑顔の裏で何を考えているかわからない人だった。
1年間一緒に過ごしたのに、何も進歩がない。
隠し事をされていると気づくことすらできなかった。


「レナ」


樽に座ってうなだれているレナの元にロスメルタがやってきた。
守護霊は戻っていったようだった。


「今日は働かなくていいですわ」
『えっ、働きます、帰りたくないです!』
「その顔で接客は無理よ」


厳しめに言われ、ますますうなだれる。
公私の切り替えもできないなんて情けない。
これでは子ども扱いされて当然だと思った。


「帰したりなどしませんわ。急な話だったから、あいさつもできないと思っていたもの。喧嘩をしてくれたことに感謝ね」
『ロスメルタさん……ありがとう、ございます……』


ロスメルタの言葉に甘え、レナは客として1日を過ごした。
以前リーマスが座っていた席に座り、やってきた常連と話しながらたまに片付けの手伝いをする。
今日で最後になるかもしれないと知ると、みんな驚いた。


『急でしょ?勝手に決めてひどいと思わない!?』


送別会はいつしか一方的な愚痴大会になり、夜になって蜂蜜酒を飲み始めると勢いはますます加速した。
最初こそ相手をしてくれていた客も、同じことを繰り返し始めたレナが面倒になり、最終的にはロスメルタに丸投げされる。
情けなくて情けなくて、レナはぐずぐずと泣いた。


『ご迷惑おかけしてすみません……こんなんだから子ども扱いされるんですよね……』
「そんなことないですわ」
『でもいきなり仕事はやめろだのシリウスの家に行けだの、ひどくないですか?』
「そうですわね」
『結構いろいろ頑張ったのに、結局リーマスは私の保護者でしかなくて――いやそれは別にいいんだけど、……よくないけど……』


ろれつが回っていない口で言いながら、窓の外を見る。
うっすらと明るくなり始めているような気もするが、まだ反射で室内が映るくらいには暗い。


(そういえばシリウスはリーマスと一緒にいるのかな)


うろ覚えではあるが、“アニメーガスになれば満月の日に人狼と一緒にいられる”というような話をしていたような気がする。
あの場で会話を止めたということは、レナが鳥になれたとしても一緒にいることを認めないということなのだろう。
楽しそうに思い出語りをしていたリーマスの姿を思い出し、シリウスにすら嫉妬する。


『友人くらいにはなりたかったけど、なんかそれも無理っぽいし、仲良く暮らしていられればいいかなと思ったけど、出て行けって言われるし……』
「それだけの事情があるのよ。きちんと話をすればわかりあえるはずですわ」
『話してくれないの!ていうか私、あと数ヵ月後には戻らなきゃいけないんですよ!それまで一緒にいたいって思ってもいいじゃないですかあああ』


わっと机に伏したレナの背中を、ロスメルタが撫でる。
客はもうほとんどいない。
店じまいの時間が――朝が、近づいている。


『帰りたくない……』


帰ったら、追い出される。
帰らないとリーマスに会えないが、帰ったらリーマスと会えなくなる。

レナはその場で頭を机につけ、ぎゅっと目をつぶった。


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