stand by me | ナノ
グリモールド・プレイスの人々
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次の日、子ども達とレナは2階の客間に集まった。
今日はここのカーテンに蔓延るドクシー退治が居残り組みの仕事だ。


「ロン、この人は騎士団じゃないの?」


ハリーがレナを指して聞いた。


「三本の箒の人だよね?」
「うん。詳しくはわからないけど、“わけあり”なんだってダンブルドアが言ってた」
「なんでもルーピンがやらかしたらしく」
「責任を取って一緒に住んでいるらしい」
『待ってその言い方だと誤解される!』


ハリーの素朴な疑問に答える3兄弟の説明を、レナはあわてて止めた。
伸び耳とやらを使って盗み聞きしているらしい彼らの情報は、たまに変な風にねじまがっている。
鼻と口を布で覆い、噴射用ノズルがついた液体瓶を受け取りながらハリーは怪訝な顔つきでレナを見た。


「どういうこと?」
『……強制留学みたいな?』


レナは適当なことを言ってごまかした。
ダンブルドアがどう説明したのかわからない以上、レナが勝手に話すわけにはいかない。
国際法がなんとかと言っていたのだ。
うっかり余計なことをしゃべってリーマスが捕まるようなことがあっては大変だ。
だから、モリーが「おしゃべりは終わり!」と注意してくれたのは助かった。

途中で玄関のベルが鳴り、作業は中断された。
モリーの注意が逸れた隙に、フレッドとジョージがサッと近づいてくる。


「レナ、昨日はごめん」
「悪気はなかったんだ」


ひそひそ声で手招きした2人は、昨夜のできごとを謝った。
ハリーが騎士団に入る入らないで揉めたときのことだ。
フレッドとジョージが“騎士団に入れるのは学校を卒業した成人の魔法使いだけだ”という条件に反発し、とばっちりでレナも一緒に追い出されたのだ。
今朝はいつも通り一緒に朝食を作れたから問題ないのだが、2人は気にしているようだった。


「つい口がすべったんだ」
「情報提供者を失うのは僕たちにとっても痛手だ」
「わかるだろ?」
『まあ……』
「ということで、これはお詫びのしるしだ」


手渡されたのは、ひと口大のヌガーだった。
明らかに怪しいが、モリーが戻ってくる前に早くとせっつかれ、勢いで口にいれてしまう。
普通においしい。
が、直後に鼻の奥が熱くなった。


『何これ!?』
「鼻血ぬるぬるヌガー」
「心配ない」
「こっちを食べると止まる」
「おっと。今じゃなくて、休む許可をもらってから食べるんだ」


掃除は任せろ、休むふりをしてシリウスと遊んで来いと、部屋を追い出される。
要は偵察をして来いということだった。

「あいつららしいな」

ダラダラと鼻血を流すレナを見て、シリウスは愉快そうに笑った。

シリウスはあまり掃除に混ざろうとしない。
バックビークという大きな鳥の世話を理由に、3階の部屋にいることが多い。
アニメーガスの練習もこの部屋で行っているのだが、日に日にシリウスの元気がなくなっていっている様子が手に取るようにわかる。


『ハリーと一緒にいなくていいの?』
「ん?ああ、昼食のときにでも話すさ」


掃除中に話すとモリーが怒るからなと、シリウスは言い訳のようなことを言った。

* * *



シリウスの気分はハリーが来たことで持ち直すかに見えたが、そうでもなかった。
そのうち老婆の絵が叫びだすのを止めるとき以外、ほとんど部屋から出てこなくなってしまう。
レナはリーマスにシリウスの様子がおかしいと相談してみた。


「シリウスは先陣をきって敵に飛び込んでいくようなタイプだったから、家でじっとしていることがつらいんだ」
『外に出してあげられないの?』
「残念だけど」


リーマスは時計を持ち上げながら困ったように眉尻を下げた。
長期間任務で出かけていたリーマスは、手におえないと後回しにされていた時計の修理を頼まれたようだ。
人に向かってボルトを発射するという迷惑な癖がついた古時計を、様々な角度から見ている。


『ハリーの裁判も心配なのかな?』
「それもあるかも、しれないね」


直すのを妨害するかのようにボルトが発射され、リーマスがしゃがんで避ける。
飛んでいったボルトをレナが取りに行き、盤面を開けて中を調べているリーマスに渡した。


「今はまだハリーがいるからいい。もしハリーが学校に行くようになったら……と考えて、裁判での無罪放免を望みきれていない自分が嫌なんだろう」


修理しながら続けられる話を、レナは相槌を打ちながら聞いた。
なんとなくそうじゃないかと思っていたが、シリウスはこの家が嫌いで仕方がないのだ。
絵以外の家族が残っているわけでもないのに、鬱になるほど実家が嫌いというのは、レナにはよくわからない感覚だった。


「なるべくシリウスの話し相手になってあげてよ」


リーマスは凶暴な時計がただの置時計になったことを確認してから顔をあげ、レナの肩をポンポンと叩いた。


「傍にいてあげるだけでもだいぶ違うと思うから」
『わかった。任せて』


レナは胸を張って答えた。
料理をしたり掃除をしたりする以外は空気を求められてきたレナが、騎士団のためにできることが1つ増えた気がした。
何よりリーマスに親友のことを頼まれたということが嬉しかった。


「ただ、八つ当たりされるかもしれないから話題には気をつけてね」
『えっ』
「まあレナなら問題ないだろうけど」
『いやだからそれ違うからね?いじめられるのが好きとかわけわかんないこと広めないでね?』
「ん?私はそんなことを言ったつもりはないんだけどな」
『じゃあどういうつもり?』
「秘密」


時計を修理し始めたときと同じ表情で、「頼んだよ」とリーマスは言った。


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