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選択のとき(後編)
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家の話はどうなったんだろうとレナが思ったとき、タイミングよくダンブルドアがやってきた。


「ここにこうして3人集まるのはあのとき以来じゃの」


久しぶりに親戚の子どもが訪ねてきたかのような表情でダンブルドアは言った。
心なしかリーマスの顔がこわばって見える。


「まずはじめに、よくない知らせがある。朝食の席で、セブルスが“ついうっかり”口を滑らせてしもうたのじゃ」


何をとは言わなかったが、リーマスは見当がついているようだった。
まぶたがピクッと反応している。
おそらく昨晩のことだろうなとレナも思った。


「仕方のないことです。それに、私は既に出て行くつもりでした。彼の“うっかり”は、生徒達に真実を知るきっかけを与えただけにすぎません」


言いふらすなんてひどい!と言おうとしていたレナは、リーマスの大人な対応を見て口を閉じた。
本当なら、あの人の方こそ教師に向いていないと抗議したい。

いくらレナが不審人物だったからといって、突然ロープでしばり、夜の森をつれまわし、一切話を聞かず、転んでも無視だなんて、なかなかできることじゃない。
あげく、勝手な判断で他の生徒に秘密をバラすなんて、レナの常識では考えられなかった。
いくらここが常識外れの魔法学校だったとしても、だ。


「どうしてもかの?」
「はい。どうしても、です」


口を引き結んで怒りを押さえ込んでいるレナの脇で、ダンブルドアとリーマスが話を続けた。


「では、あの話は――」
「そちらは、なかったことに」
「ふむ……レナも納得したうえでかの?」
「レナは関係ありません。私の問題です」


突然出てきた自分の名前に驚いてレナは2人の顔を見た。
リーマスが視線を避けるように窓際へ移動し、外の様子を窺う。
ダンブルドアもそれに倣って窓の外を見始めたので、何かあるのかと思ったレナは暖炉横の窓へ向かった。


(何を見てるんだろ?)


外には青空と緑の芝生が広がっているだけだ。
昨日ハリーとハーマイオニーを見かけたあたりに、木陰で休んでいる生徒の姿が見える。
少し離れた場所には、試験が終わった嬉しさを爆発させて遊んでいる生徒もいる。
しかしそれ以外に変わった様子はない。
3人がそれぞれ別の窓から無言で外を眺めるという不思議な状況は、少なくとも数分は続いた。


『私がどうかしたの?』


沈黙に耐えられなくなったレナが口を開いた。
ダンブルドアは視線をレナに移したが、リーマスは窓の外を見続けている。


『もしかして、ここにいられなくなるって話?』
「そうじゃ。マクゴナガル先生から聞いておるかの?」
『リーマスが学校を辞めるなら、戻れる日までリーマスの家で待つ可能性があるって――』
「馬鹿げた話だ。気にすることはない」


レナの話を遮り、リーマスが言った。
穏やかな口調だったが、強い意思が込められていた。


「私のようなものと暮らしたらどんなに苦労するか……レナはもっと安全で信頼のおける誰かに預けるべきです」
『えっ、知らない人はやだよ』
「レナの世界は偏っている。もっと広く、こちらの世界を知るべきだ」


大丈夫、君なら誰とでもうまくやれるよと振り返って言うリーマスは微笑んでいたが、レナには厄介払いをしたがっているように見えた。


(そりゃ確かに私は厄介者だろうけど……)


1年半もの間、赤の他人の面倒を見なきゃいけないだなんて迷惑以外の何物でもない。
だけど、それならそうだとはっきり言ってほしい。
嫌だと言われれば、諦めがつく。
それなのに、レナのためにと言うのは、ずるいと思った。


「それに君は女の子だ。何かあってからでは――」
『何かある可能性が、あるの?』
「いや、それは……」
『リーマスいくつ?私18よ?一緒に住んでたって、親子にしか見えないでしょ?』


自分で言っておきながら、胸が痛むのを感じた。
しかし、無理やり気づかないふりをする。

レナは必死だった。
野宿の可能性がチラついていたせいでもあるが、それ以上に、このチャンスを逃したらもう2度とリーマスと会えない気がしたからだ。


『満月の日が気になるなら、その日だけ外に出る』
「1人で外に?それこそ危険だ」
『じゃあ宿に』
「恥ずかしい話だが、君を毎月外泊させてあげられるようなお金を私は持っていない」
『私が自分でバイトしてお金を稼ぐ。生活費も入れるから!』
「どこで?どうやって?」
『それは……できそうなのを探す。コンビニとファミレスと郵便配達ならやったことあるからなんとかなると思う。迷惑かけないようにする。……だから、見捨てないで』
「見捨てるつもりはないよ。でも……」
『お願い!』


レナは頭を下げた。
顔は見えなくても、リーマスが困惑しているのがわかった。


(やっぱり困るよね。迷惑かけないなんて無理だよね……)

「無理だと思ったときにわしに連絡をすればよい」


埒があかない会話に、ダンブルドアが救いの手を差し伸べた。


「今決めたからといって、ずっとリーマスの家に居なければならないというわけではない。別のところに移動をしたいと思ったら、そのとき移動をすればいいんじゃ」
「しかし、ダンブルドア、他人との係わり合いは最小限にとどめたほうがいいのではありませんか?」
「リーマス、さっきと言ってることが違うの」
「それは――……」
「ほほっ。なに、ここはイギリスじゃ。魔法界に限定すれば危険はほとんどなかろう」


ダンブルドアはウインクをした。
これがまた胡散臭いことこの上ない。
しかし今だけは、この胡散臭さにもすがりたい。

「念のためマグル界には行かないほうがいいじゃろう。うっかり何かの写真に載る可能性もある」
『載ると何かまずいの?』
「同じ時間に同じ人物が2箇所に存在することになってしまうからの。時の絡みは複雑なんじゃよ」


似た人なんていくらでもいる。
写真に載るくらいいいのではと思ったが、レナはとりあえず頷いておいた。


「ホグズミードあたりで人手を欲していないか聞いてみるとしよう」
「ダンブルドア、私はまだ――」
「おお、そうじゃった。すまんの。もうてっきり君は了承していてレナのことを気にしているのかと思うとった」


悪戯めいた青い目に捉えられたリーマスは、ため息をついた。
いっきに老け込んだような顔を窓に向け、目を閉じる。


「わかりました。ひとまず、1ヶ月だけ」


リーマスの顔には戸惑いや恐れ、それから気のせいでなければ期待――様々な感情が浮かんでいるように見えた。


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