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選択のとき(前編)
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うっすら色づいた東の空の端が、ちょうど同じ様な色をしている。
早く夜が明ければいいのにとレナは思った。


「あなたは自分のことを考えねばなりませんよ、サクラ」
『私の、こと……』


そういえばそろそろ1年が経つなとレナは思った。
確か、1年が終わればタイムターナーが戻ってくると言っていた。


(こんな中途半端なところで帰らなきゃいけないなんて……)


帰宅を待ち望んでいたはずだった。
魔法で遊ぶのは、帰るまでの暇つぶし。
帰りたいという気持ちは今でも変わらない。

ただ、これではあまりにも歯切れの悪い終わり方だ。
アニメーガスの練習も始まったばかりだし、リーマスがどうなるかわからない。
なにより見つかるという大失態を犯してしまった。
ずっと匿い、面倒を見てくれていたというのに、最後に迷惑をかけて終わるだなんて申し訳なさすぎる。


『私、まだ――』
「今まで黙っていましたが、あなたはあと1年半、こちらにいなければならないのです」


恩を返すまでは帰れないと言おうとしたレナに告げられたのは、思いもよらないことだった。


『1年半……?時計が返ってこないの?』
「いいえ、タイムターナーは関係ありません」


マクゴナガルはレナと同じくらい申し訳なさそうに、そして哀れむ表情でレナを見た。
そしてわからないことがあればあとでダンブルドアが日本語で説明をすると前置きをした上で、事情を説明してくれた。
他の人と会話をした後だと、マクゴナガルがレナのレベルに合わせてくれているのだということがよくわかる。
早口のスネイプだけではなく、ハリー達よりもずっと聞き取りやすい。
が、正直内容はさっぱりわからなかった。
たぶん、日本語で聞いてもわからないだろう。
過去とか未来とか、とにかくややこしい話だった。


『とりあえず、1996年3月10日になれば戻れる、と』
「そうです」


その日は卒業式の日だから、もうとっくに過ぎているはずなのだが、たぶんその辺の事情はややこしい説明の中にあったのだろうと思い、レナはつっこむのを控えた。
まだもう少し居られるということがわかっただけでもいい。


「このまま隣に部屋を増やして住んでもらうか、いっそ留学生ということで入学してもらうかと、ダンブルドアと相談をしていたのですが――」
『留学生?ここに!?したい!』
「――そうも言っていられなくなりました」
『え』


レナはここまできてようやくマクゴナガルの表情の意味がわかった。
スネイプやハリー達に見つかってしまったため、レナは学校にいられなくなるのだ。
自分で進退を決められるらしいリーマスとは違い、おそらく強制的に。
「まだ望みはあります」というマクゴナガルの言い方が、既に望が薄いことを示していた。


『てことは……私、あと1年半……野宿、ですか?』


それはさすがに勘弁してほしい。
いくらなんでも無理だ。
帰る日になる前に死んでしまう。


『困る!だって私、来たくてこっち来たわけじゃないし!事故だし!そこはしっかり責任を取ってもらわないと!』
「ええそうです。その通りです。ダンブルドアが責任を持ってあなたの住む場所を準備してくださるでしょう」
『住む場所……どこに?1人で?』
「そこで、提案があります」


マクゴナガルは深呼吸をし、夜が明けようとしている窓の外を見た。
月はもうだいぶ薄くなり、青紫色の空に溶けかけている。
月が見えなくなれば元の姿に戻れるのだろうかと、暗闇に消えていったリーマスのことを考えた。


「ルーピン先生はおそらく教師を辞めたいと申し出るでしょう。もちろんダンブルドアはルーピン先生に来年以降も続けてもらえるよう説得するつもりです。しかし、もし――」
『もし……?』
「もし、ルーピン先生が学校を出て行くことになったら――もし、あなた方がよければ……」
『……ルーピン先生と住むの?』
「あくまで1つの可能性です」


急なことだったからまだ十分に話をしていないため、留学できる可能性も残っているとマクゴナガルは言った。
何よりリーマスが辞職をせずにすめばこの話はなかったことになる。
他にもレナを任せられる信頼のおける魔法使いはたくさんいるとも言った。
マクゴナガルは「あくまで可能性の1つだ」と何度も念押ししてきた。


「可能性の1つとして、選択肢の1つとして、あなたの意見を聞いておきます。――あなたもルーピン先生も学校を去らなければならなくなった場合、ルーピン先生の家で“その時”を待つことは可能ですか?」


予想外の提案だった。
こんなことってあるのだろうか。
責任を取ってくれとは言ったが、そこまでは求めていない。
野宿は嫌だし、1人暮らしや別の人に引き取られるのは心細いが、だからといって、家に住まわせろだなんて図々しいことまで言うつもりはなかった。
だいたい、いきなり同棲みたいなことをしろと言われても困る。
何がというわけではないが、心の準備というものが必要だ。


「どうですか?急かすようで悪いとは思いますが、近日中に決めねばなりません」
『えっと……』


もちろん留学できることが1番いい。
しかし、もし学校を追い出されることになったら――。
もし、リーマスがいいと言ってくれるなら――。


『……大丈夫、です』


鼓動が早くなるのを感じながら、レナはゆっくりと頷いた。


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