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再会[IF]
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『というわけで、今に至るわけです』
「なるほどね」


全てを話し終えると、リーマスはレナをじっと見つめたまま動かなくなった。
久しぶりの沈黙が気まずい。
イギリスに引っ越してきた話は言わないほうがよかっただろうか、リーマスのためっぽく聞こえて重かっただろうかとあれこれ考えているうちに、視線が自然と薬指へと向く。
そこに指輪がないことにほっとしたとき、リーマスがおもむろに隣に移動してきた。


「おかえり、レナ」


ギシッとソファが軋んだ直後、レナはリーマスの腕の中にいた。


『た、た、ただいま……』
「待っていたよ。あれから2年、とても長く感じた……もう会えないだろうと思っていたから、来てくれて嬉しいよ」
『来るって約束したじゃん』
「そうだね。でも戦いが終わって1年も経ったから……」
『大学を卒業してからって言ったのはリーマスでしょ』
「ああ、そうか。日本の学校事情までは考えていなかった」


早まらなくてよかったとリーマスが笑った。
どういうことなのか聞くレナに、リーマスが照れながら日本に行こうか迷っていたのだと説明する。
それは、レナの4年間の我慢や不安を吹き飛ばすだけの効果があった。
レナはリーマスの背に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。


『リーマス、好き。大好き。迷惑じゃなかったら、またそばにいさせて』
「それは……」
『ダメなの?もしかして結婚していたり彼女がいたりする?』
「いないよ。いるわけがない」
『だったら――』
「レナ、気持ちは嬉しいけど、君は私なんかを相手にするべきじゃない」


リーマスはレナの肩に手を置き、レナを離そうとした。
しかしレナは腕に力を込めて首を振った。


『4年も待ってやっと会えたのに、そんなこと言わないで。リーマスを支えるにはまだまだ不十分だってわかってるけど、足りない部分はこれから頑張るから!』
「レナは何も悪くないよ。足りないのは私の健全さと、社会的立場と、若さだ」
『そんなの全部いらない。それに、狼人間の立場だってよくなってきてるんでしょ』
「私が魔法使いとして生き、好待遇を受けることをよく思わない同胞もいる。それに、偏見は根強く残っている。私といれば、レナまで同じ目で見られることになってしまう」
『平気だよ。私はマゾヒストらしいし』
「私が平気じゃ――なんだって?」


レナは声が裏返ったリーマスをクスクス笑い、少し体を離してから困惑するリーマスを上目遣いで見た。


『自分で言うのもなんだけど、逆境には強いタイプだと思うの。というか、リーマスがそばにいてくれたら、なんだってできる気がする』
「だからって」
『だからリーマスは私のことなんて考えずに好きにしていいの』
「レナ、軽々しくそんなことを言うもんじゃない」
『私のことを変に気遣うリーマスより、そういうリーマスのほうが好き。だからお願い、そうして』
「……まいったな」


眉を下げながら頬をかくリーマスに、レナはにっこり笑った。


『どう?マダム・ロスメルタ直伝のテクニック、効果抜群でしょ』
「――そうだね。無理して背伸びをしているところとか、あっさりネタばらしをしちゃうあたりがレナらしくてかわいくて、効果抜群だよ」
『え、待ってそれはなんかちょっと違う』
「ははっ、そういうレナのほうが私は好きだよ」


好き、という単語に反応して顔を赤くしたレナをリーマスは笑い、「そうそれ」と言ってキスをした。
突然の出来事にレナは固まり、リーマスは肩を震わせた。


「この程度のことでそんな反応をするのに、好きにしていいなんてよく言うよ」
『こ、これはあまりにも急だったから!平気なことには変わりないもん!』
「はいはい」
『笑わないでよ!乙女心を弄ぶなんてさいてー!』
「本気なら問題ないだろう?」
『それは――はい。問題ない、のかな……?』


完全にリーマスのペースに持っていかれ、どうしてこうなったとレナは心の中で1人反省会を始めた。
結果オーライなのだろうかと頭を抱えるレナの隣で、リーマスが銀色の靄を杖から出してどこかへ走らせる。
視線は橙色に染まり始めた窓の外へと向いていた。


「今日は家に帰らなくても平気かい?」
『えぇ!?』
「満月だから、よければ一緒にと思ったんだけど……無理なら夕飯だけでもどうかな?」
『え、あ、うん。そういう意味なら朝まで大丈夫』
「どういう意味ならダメなの?」
『わかって言ってるくせに!』

(は、早まったかもしれない……!)


面白がっていることが丸わかりのリーマスを前に、レナは数分前の自分の発言を後悔した。
大人の女性の色気でノックアウトするはずが、大人の余裕によって見事にカウンターを決められた。
というか、あの発言で好きなようにからかわれるようになるだなんて、ロスメルタも思ってもみなかっただろう。
既にリーマスから前言撤回を許さない空気が漂っていることからも、リーマスのいじわるが加速するであろうと考えると恐ろしい。


「ああ、来たようだ」


ノックの音がしてドアを向かうリーマスを見て、レナは首をかしげた。
確かこの場所は人払いをしていたはずだ。
忘れ物をしたキングズリーが戻ってきたのだろうか――。
何気なくドアに目をやったレナは、現れた男の姿に驚き目を見開いた。

* * *



「よおレナ、ずいぶんきれいになったな」


吼えるような声も、プレイボーイな発言も、ニヒルな笑みも変わっていない。
シリウスは再会のハグをのために軽く腕を広げたが、レナは石にされたように固まった。


「ん?お邪魔だったかな?そういうことなら後日出直すが」
「シリウス、そういう気遣いはいらない。レナだって君とも話したいだろう」
「どうかな。レナ、いいことを教えてやる。リーマスのやつ、部屋にレナのポスターを貼ってるんだ」
「あれは君が勝手に永久粘着呪文で貼ったんじゃないか」
「でもそのままにしている」
「君も母親の肖像画をそのままにしているよね」
「一緒にするな。俺はリーマスのためを思ってだな――っと、どうした?」
『し、シリウス、生きて――』


それ以上は声にならなかった。
涙が止まらなくなり、手で口を覆う。
シリウスが生きていて、リーマスとたわいない会話で笑いあっている――。
たったそれだけのことが、こんなにすばらしいことだとは思わなかった。
飛びつくレナに、シリウスは「大げさだな」と笑った。


「出直すべきは私のようだね?」
「どうしてそうなるんだ。おいレナ、そろそろ離せ。リーマスが嫉妬してる」


不穏な空気を察知したシリウスが慌ててレナを引き離しにかかったが、レナは離さなかった。


『だってシリウスが生きてる!』
「死んでると思ったのか。聞き捨てならないな」
『死んだじゃん!』
「生きてるだろ」
『い、生きてるうう』


レナはシリウスに縋って大泣きした。
リーマスの笑顔が引きつっていることに気づいたシリウスは、最終手段としてアニメーガスになることを選んだ。
が、それでもレナは離れなかった。

驚き立ち尽くすリーマスに、レナがトラウマを克服したことを告げる。
リーマスの顔からついに笑顔が消え、焦ったシリウスが元に戻って事情の説明を求めた。
レナは、シリウスが死んだ日のことと、トラウマを克服しようと決めるに至った経緯を説明した。

* * *



2人とも驚きはしたが、シリウスの死に関してはあまり実感はないようだった。
それよりもレナが言った『シリウスが死んだせいでリーマスが独りになっちゃったんだから』というセリフのほうに反応した。


「俺はリーマスの幸せのためのおまけか」
『そういうわけじゃないけど』
「そうであってたまるか」


シリウスはニヤリとし、ほえるように笑った。
そしていい加減に戻れと、リーマスにレナを押し付ける。


「ほら早く戻って夕食だ。じきに陽が落ちる。空腹で散歩に行くとムシやらネズミやらを食べる羽目になるぞ」
『食事の前にそういうこと言わないで!』
「おっと失礼。ほらリーマスも。いつまでも拗ねてるな」
「拗ねてなんかいないよ」


そう言いつつも、レナの肩をつかむリーマスの力は妙に強い。
冷や汗を流しながらレナはグリモールド・プレイスが無人だったわけを尋ねて話題を逸らし、今にも「連れて行かないよ」と言い出しそうなリーマスを持ち上げながら夕飯を食べた。

変身したリーマスとシリウスの頭上をレナが飛び回るのはそれから数時間後。
満月に向かい、3匹は歌うような鳴き声でアンサンブルを奏でた。


fin.
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