短編 | ナノ 本の虫
セブルス
『私、生まれ変わったら本になる』
「……は?」


 突然の告白に、向かい合わせに座っていたセブルスが眉をひそめた。そりゃそうだ。生まれ変わるも何も、本は生き物じゃない。


「図書館が寒すぎて頭が凍結したのか?」
『失礼ね』
「君はすでに本の虫だろ」


 確かにナマエは毎日図書館にいる。だけどそれを知っているということは、セブルスも毎日図書館にいるということだ。だから他人のことをどうこう言える立場じゃないはず。なのにセブルスはふてくされたナマエの視線から逃げるように本に目を戻し、小馬鹿にするように鼻を鳴らしている。


『虫じゃなくて、本がいいのよ』


 嘲笑とはいえ口角が上がったセブルスの表情が見られたナマエは頬を緩め、読んでいた本を横に置いて机にぐでっと突っ伏した。本になったら、毎日ずっと一緒にいられるのに。


「……何か言ったか?」
『なんでもない』


 ナマエはニコっと笑い、赤と金のマフラーを口元まで引き上た。

 毎日図書館に通っているのは、本ではなくセブルスが好きだからだ。ここなら、寮を気にすることなく話すことができる。なんて言ったら、セブルスはきっと軽蔑するだろう。だから本心はとてもじゃないけど言えない。


『グリフィンドール生のくせにね』


 勇気がある者が入るって言ったのは誰なんだか。
 完全無視をされたナマエは、頬を腕につけたままため息をついた。支離滅裂だし、話しかけても本に夢中なのはいつものことだし、気にしなーいと自分に言い聞かせる。

 実際は無視しているわけではなく、驚きの表情を浮かべたセブルスがナマエのほうを凝視していたが、机に伏しているナマエは気づかなかった。

(あー、もういっそ今すぐにでもセブが読んでる本と変わりたい!)

 吸い込まれそうな黒い瞳で見つめられたい。細い指で触れられたい……と、頬を机につけたまま、自分の吐く白い息をぼーっと見ている。
 そのうち席を立ったセブルスがナマエの隣の席に来て、大きくため息を吐き、勢いよくマフラーよく引っ張った。


『ぐぇっっっちょ、ちょっと!』


 急に締め上げられたナマエは、かわいげの欠片もない声を出してしまったことを恥じながらセブルスの手を払おうとした。が、なす術もなく、そのままずるずると外まで引っ張り出される。


『何なに?私何かした!?』
「うるさい。脳みそ溶かしにいくぞ」
『え?せ、セブルス!待って!死ぬから!!』


 早足で歩くセブルスに小走りでついていかないと、本当に絞め殺されない勢いだ。本を読む邪魔をしたからにしてはひどい仕打ちだ。


『やめてよ。何なの急に!』
「そればこっちのセリフだ!」


 玄関ホールまで来たところで、ようやくセブルスはナマエのマフラーから手を離した。しかし歩く速度は変わらない。ナマエはスタスタと歩くセブルスを追いかけながら、ぼそぼそと発せられる言葉を拾わなければいけなかった。


「何が本になりたいだ」
『え?』


 まさかそっちに突っかかってくるとは思ってもみなかった。理由を教えるわけにもいかず、『気にしないで』とだけ答える。


『特に意味はないの』
「わざわざ本にならなくたって、一緒にいられる方法があるだろ」
『……え?』
「僕の恋人になればいい」


 思いがけない突然の告白にナマエは驚きのあまり動けなくなった。
 歩き続けるセブルスとの距離が、徐々に広がっていく。5歩分の距離ができたところで、セブルスは足を止めた。


『セブルス……耳、真っ赤』


 振り返ろうとしないセブルスの横顔を見て、ナマエは破顔した。


『意外と照れ屋なんだね』
「――他に言うことはないのかっ!」
『じゃあ……恋人らしく、マフラーじゃなくて手を引いて』


 やっとのことで出たセリフに、セブルスが固まった。どうやら思った以上に照れ屋らしい。


『セブルス』
「今度はなんだよ!」
『大好き』


 見かねたナマエは後ろから駆け寄り、セブルスの左手を取ってそのまま前へ駆けた。かじかんでいたはずの手は、強く握りしめられ、心地よいぬくもりを伝えていた。



あなたの好みになりたくて Fin.
↓おまけ


『開心術使ったの?』
「そんなことをするわけないだろ。僕を何だと思ってるんだ」
『じゃあ、なんで私がセブルスと一緒にいたいって思ってるってわかったの?』
「自分で言っていたじゃないか」
『え……何を?』
「本になればずっと僕と一緒にいられるとか、図書館に通ってるのは僕に会うためだとか……ああ、好きだからだっても言っていたな。あとは、見つめられたいとか触れ――」
『わあああああぁぁぁっっ』
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