短編 | ナノ 秘密の代償2*
スネイプ
 突き抜けるような青空。悠々と流れる白い雲。新緑の匂いを運ぶ爽やかな風。


『んーっ、絶好の悪戯日和ね!』


 私は大きく伸びをした。こんなに良い天気なのだから、どうせなら外でやれる悪戯がいい。遠くでクィディッチの練習をしているフレッドとジョージに声援を送ってやろうかと木に登り、空に杖を向けたところで、少し先の茂みに見慣れた黒い塊があるのを見つけた。


『あれ?スネイプ?』


 疑問系なのも無理はない。だって、五月晴れの空の下のスネイプだなんて、ハニーデュークススネイプ並に似合わない。


『何やってるんだろ』


 よせばいいのに、私は木から飛び降り、スネイプが見えた方へと歩き出した。

* * *

 最初に見えたのは、2本の黒い足だった。足音を立てないようにそっと近づいてみると、スネイプは緑一杯の地面にうつ伏せで寝転がっていた。草を採集するにしてもおかしな格好だ。何をやっているんだこの人はと首を伸ばした私は、スネイプの手の先にある、これまた黒い小さな塊を見て息をのんだ。

 猫だ。まんまるおめめの子猫が、スネイプに喉元を擦られ、ゴロゴロと可愛い声を上げている。

 かわいい。すごく可愛い。触りたくなる気持ちは分かる。だが、それをしているのがスネイプとなるとまた話は別だ。あの陰険根暗教授が、青空の下で子猫と戯れているだなんて!これはいい悪戯のネタを発見した。写真をとってばら撒こう。都合の良いことに、私は今カメラを持っているのだ!


『あ』


 猫が逃げた。ということは……。


「ミョウジ」


 むくっと黒い塊が起き上がり、ねっとり髪の毛の向こう側からスネイプ教授がお目見えした。ジロリと睨まれ、私はカメラを後ろ手に隠して1歩下がった。


『あ、あーら、スネイプ教授、奇遇ですね!』
「まったく進歩が見られんな――来い!」
『嫌――っ!』


 これはあれだ。いつぞやのホグズミードの再来だ。悔しいがスネイプの言うとおり、私はまったく進歩していないようだ。むしろ退化しているのかもしれない。逃げる間もなく私はスネイプに捕まった。


「貴様のせいで猫が逃げたではないか」
『まだ撮ってな――え?』


 写真を撮ろうとしたことじゃなく、猫が逃げたのが問題なの?そんなことで私は罰則を受けなきゃいけないの!?


「つけたまえ」
『へ?』
「責任をとれ」


 私は目を疑った。スネイプの懐から出てきたのは、杖ではなく、黒い三角形が2つついた弓なりの――いわゆる、“猫耳カチューシャ”というやつだった。

 なんでスネイプがこんなもん持ってるんだ。ていうか持ち歩くな!猫と戯れつつ、自分もつけるつもりだったのか!?


「早くしたまえ」


 私の混乱する頭の中など無視して、スネイプは猫耳片手に迫った。


「それともやはり口止め料がほしいかね?」
『猫耳がいいです!』


 “やはり”ってなんだ!誰も口止め料なんて望んでないって!ていうか校庭の片隅で堂々と生徒に迫るな!仮にも教師でしょうよ!

 ひったくるようにしてスネイプの手からカチューシャを奪い、私は黒いふさふさした耳を装着した。鏡を見ながら位置を調節し、自分の耳が隠れるように髪の毛を流し、せっかくだから尻尾もつけてやる。

 どうだこれでもう何も文句はあるまい。ふんぞり返ってスネイプを見ると、スネイプは予想に反して、満足気に口角を上げていた。


「なかなか良いな――……かわいい」


 スネイプの口から出た言葉に、私は硬直した。あのスネイプが“かわいい”だなんて!明日はきっとディメンターが降ってくるに違いない。人類滅亡の危機だ。


「鳴いてみろ」
『は!?』
「鳴け」
『……み、みゃあ』


 スネイプが口の端をひくひくさせた。棒読みだったから、真面目にやれと怒られるのかと思った。のに、スネイプは突然私を抱きしめた。


『ちょっと!ここ、校庭!』
「問題ではない」
『大問題だって!』
「では我輩の部屋に行くかね」


 ニヤリと笑ったスネイプに身の危険を感じ、私は勢いよく首を横に振った。以前ホグズミードで無理やり生徒の唇を奪った男だ。部屋になんか行ったら、何をしでかすか分からない。


「さて、」


 スネイプが突然ごろんと横になった。何が“さて”だ。意味不明にも程がある。


「ナマエ、早くしろ」


 何を?猫耳なら既につけてますけど?あ、逃げるなら今のうちにってこと?絶対に違うだろうが、せっかくだから逃げてあげようかと1歩下がる私に、スネイプは盛大に舌打ちをした。それから、めんどくさそうに片腕を横に伸ばした。


「……来い」


 どうやら猫の代わりに一緒に寝ろということらしい。細いスネイプの腕では寝心地が悪そうだったが、頭を乗せてみるとそうでもなかった。

 しばらく流れる雲を見ていると、どこからかフレッドとジョージの声が聞こえた。練習が終わったらしい。猫耳をつけてスネイプに腕枕をされているところを2人に見られたら、からかわれるどころじゃすまない。

 身を起こそうとしたが、スネイプがそれを許さなかった。腕を曲げて私を抱き寄せ、耳が生えているあたりに顔をうずめる。


『スネイプ教授って、甘党なだけじゃなくて甘えたなの?』
「何か問題があるかね」
『――別に』


 また1つ、フレッドとジョージに言えないネタが増えてしまった。だからといって、やられっぱなしの私ではない。手ぶらではフレジョのところに帰れないのだよ!


『教授、せっかくなので交換しましょう』
「なんだと?」
『甘えたいなら、逆の立場のがいいって!』


 私は猫耳を外してスネイプにつけ、ニヤリと笑ってすばやくカメラのシャッターを切った。
秘密の代償2 Fin.

GW(リク消化)企画
・可愛いスネイプ・甘えるスネイプ・デレデレなスネイプ・とにかく甘いのを…
+ネコ耳
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