短編 | ナノ 天使と悪魔*
スネイプ
 ホグワーツにナマエが入学して1年。娘を娘として扱えないつらい日々がようやく終わった。ようやく親子水入らずの生活ができると喜んでいたのもつかの間、新たな問題が浮上した。


「ルーピンが赴任するだと……?」


 学校から送られてきたふくろう便に目を通したスネイプは、羊皮紙を丸め、暖炉に放り込んだ。冗談じゃない。ただでさえナマエを家から出したくないというのに、人狼がいる前へ愛娘を出すなど狂気の沙汰としか思えない。スネイプはナマエを呼んで膝に乗せた。


「ナマエ、今年は学校を休みなさい」
『えー!やだやだ!なんで!?』
「今年のホグワーツは危険だ」
『またそれ?去年も秘密の部屋がどうのって言って、休学させようとしたのに!』
「仕方の無いことだ」
『でも、ドラコ先輩が言っていた通り、スリザリンの人は誰も襲われなかったじゃない』
「それは結果論にすぎぬ。それに、今回は寮は関係ない」


 ぷうっと膨れるナマエの頬を指で押して、たまった空気を吐き出させる。すると今度は、唇を尖らせて文字通りぶーぶー言った。


『嫌よ。学校に行くわ!』
「そう駄々をこねるな。魔法なら我輩がすべて教えてやると言っているであろう。どうしてそこまでホグワーツにこだわるのだね」
『だって、ホグワーツに行けば毎日パパに会えるじゃない!』
「我輩に会うために……?」
『もちろんよ!学校ではパパって呼べないのが残念だけど……でも、またお留守番生活に戻るのは嫌!危険でもパパの傍にいたいのっ』


 満面の笑みで答え、抱きついてこられてはかなわない。スネイプはにやけ顔でため息をつき、くれぐれも新しく来る先生に気をつけるようにと何度も念押しした。

* * *

 ナマエがドキドキしながら迎えた新学期。新しく赴任した先生は、R・J・ルーピンという闇の魔術に対する防衛術の先生で、優しそうな笑顔が印象的な人だった。とても危険な人には見えないし、授業も面白く、あっという間に生徒達の信頼を集めた。


『ドラコ先輩、パンジー先輩。ルーピン先生って、先輩たちの授業でも普通にいい先生ですか?』
「大したことないわよ。ねえ、ドラコ」
「ああ。くだらない授業だ。でもなんで急にそんなこと聞くんだ?」
『パ――スネイプ先生が、ルーピン先生は危険だから気をつけろって言っていたから、なんでかなって思って』
「スネイプ先生が?」


 ドラコは目を丸くして、パンジーと顔を見合わせた。何かまずいことを言ってしまっただろうか?親子関係がばれたらどうしよう――と、ナマエの背中に冷たい汗が伝う。


「僕らは何も聞いていない。いったいいつ聞いたんだ?」
『夏休み――が、終わってすぐ、かな?』
「すぐって……まだ1週間しかたっていないぞ?前々から思っていたんだが、ナマエとスネイプ先生って――」
『あー、そうだ!宿題やらなきゃ!』


 ナマエは食べかけの昼食をそのままに、『図書館、図書館』と言いながら走り去った。右手と右足が一緒に出ている様子を見て「ホントかわいいよな」と言いながらナマエが座っていた席にザビニがやってきた。

 ドラコ達の1つ下の学年のナマエは、小さな姿とその言動のかわいらしさから、スリザリンのマスコットキャラ的存在に扱われていた。


「そうだマルフォイ、あのうわさ聞いたか?」
「うわさ?」
「ああ、ナマエとスネイプ先生のうわさだ」
「まさかデキてるとか言うんじゃないだろうな?」
「まさか!違うよ。いや、でもある意味正しいか……」
「もったいぶらないで教えろ」
「いいか?あくまでうわさだぞ?――あの2人……」


 ザビニは十分に間をとって、周りにいるスリザリン生の注意をひきつけてから、小声で「親子、らしい」と囁いた。


「は?誰と誰がなんだって?」
「だから、ナマエはスネイプ先生の娘らしい」
「……」


 一瞬の沈黙の後、スリザリンのテーブルに大爆笑が起きた。


「やめろよザビニ、冗談きついぜ!」
「もっとマシな嘘はなかったのか!?」
「嘘や冗談にしか聞こえんのか?」
「だってナマエとスネイプじゃ、天使と悪魔だろ!」
「ほう。悪魔とは、我輩もなかなかの称号をいただいているようですな」
「褒め言葉では――って、」
「す、スネイプ先生!?」


 いつの間に来たのか、盛り上がる生徒達の脇に、こめかみをヒクヒクと痙攣させてスネイプが立っていた。シン……と絶対零度の空気が流れる。


「我輩とナマエは似ていないと?」

(そりゃあ似ていませんとも!)

 その場にいた全員が心の中で同じことを思った。ドラコが勇気を出して「聞き間違いでは?」と口を開いた。


「僕ら、後輩のかわいさを語っていただけです」
「ふん、ナマエがかわいいことなど、今さらわざわざ語るまでもあるまい」

(うわぁぁぁぁっ、スネイプ教授の口から“かわいい”なんて言葉がでるなんて!!)

「誰か手を出そうとしている愚か者がいるならば――」
「いませんいません!」
「何?ではナマエには魅力がないと?」
「とんでもない!!」

(どうしろっていうんだ!)

 どっちに転んでも不機嫌オーラを撒き散らすスネイプを前に、スリザリン生は蛇に睨まれた蛙状態で動けなくなった。男子生徒だけではなく、女子生徒まで巻き込まれている。

 他寮の生徒から好奇の視線があつまっていることに気づいたスネイプは、盛大に舌打ちをした。すると、巻き込まれてはたまるものかと、そそくさと生徒達が帰り始め、大広間にはスリザリン生だけが取り残された。


「セブルス、事情はよくわからないけど、そのくらいにしてあげたら?」


 見かねたルーピンがスネイプの肩を叩くのを見て、ルーピンを嫌っていたはずの生徒たちまで心の中で神!助けて下さい!と叫んだ。


「“我輩の”寮の話に首をつっこむなルーピン。部外者の貴様は黙っていろ」
「次、“私の”授業の子達もいるんだ」


 ルーピンの言葉に、3年生が一斉に頷く。スネイプはドラコ達に視線を走らせ、「では我輩の寮の生徒は遅れて行く」とルーピンに言った。もはやこれまでかと磔の呪いを覚悟したそのとき、パタパタと大広間に駆け戻ってくる足音がした。


「ナマエっ!」
『わ!――あ、あれ、どうしたのみんな?もしかして何か集まりあった?』


 神は使い物にならなかった!頼む天使っ!とスリザリン生は必死に祈った。


「ナマエ、どうしたの?」
『わ、忘れ物をしちゃって……』


 ニコニコと人当たりのいい笑顔を向けるルーピンを警戒するように、ナマエは悪魔の形相のスネイプのローブに隠れた。

(怖がる対象を間違えてるだろ!!)

 もはやツッコミを口に出さないようにするのも限界だった。余計なことを言ってこれ以上スネイプを刺激しないよう、誰もが腹にぐっと力を込めた。「忘れ物ってこれかな?」と言って机に置いてある本をルーピンが手に取り、ナマエが小さな声で頷く。ルーピンが「どうぞ」と本を差し出しても、ナマエは手を出さずに、スネイプの顔と本を交互に見た。スネイプはルーピンの手から本をひったくり、ナマエに渡した。驚くべきことに、ずいぶんと表情が柔らかくなっている。


『スネイプ先生、あの……お願いがあるの……』
「言ってみたまえ」
『次の時間、薬草学がお休みになったんです。だから、先生の部屋に行ってもいい?』
「ああ。構わない」
「え。セブルス、授業は?」
「ない」


 6年生の集団がぐっと歯を食いしばったことで、その場にいる誰もがスネイプは午後も授業があるのに、自習にするつもりなのではないかと思った。

(いや、でもまさかあのスネイプ先生が……)

「フリント、生ける屍の水薬に関するレポートを提出するよう伝えておけ」

(授業をサボる気満々だ!)

 やれやれ、と肩をすくめて出て行ったルーピンに続き、スネイプも唖然とする生徒達を無視して、ナマエと話しながら出口へ向かった。


「なんの本を読んでいたんだ?」
『装飾魔法についてです!』
「装飾?寮の部屋の飾りつけが気に入らんのか?」
『部屋はもう完成したの』
「そうか。さすが我輩のむ――生徒だ」
『へへっ、ありがとうございます!スネイプ先生の部屋もフリフリつけていい?』
「なっ……それは……」
『真っ黒だし殺風景だし、かわいくないんだもん』
「…………」


 バタンと大広間の扉が閉まる直前、スネイプが「少しだぞ」と言ったのが聞こえ、残された生徒達は一斉に叫んだ。


「先生、お気を確かに!」


 この際ナマエとスネイプの関係が恋人だろうが親子だろうが関係ない。いちゃついているとしか思えない言動は気のせいだと思い込むことにする。明らかな差別にも目を瞑ろう。だが、スリザリンの寮監として、超えてはいけない一線というものがある。


「フリフリはダメだ!」


 自分達の寮監の部屋がレースで飾られているのを想像し、全員が頭を抱えた。
Fin.

[3つのお題企画]
@パパ
Aフリフリ
Bルーピン
詳細:ヒロインはセブの娘・溺愛・無自覚でイチャイチャ・周りに秘密
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