短編 | ナノ 学習機能
セブルス
 テスト3日前、ナマエは寡黙な同寮生を探してホグワーツを駆け回っていた。談話室にも中庭の木陰にもいなかったから、あとはいるとしたら多分あそこだ。中に入ると、試験前という事もあって図書館は生徒であふれかえっていた。


『セブルスー!』


 マダム・ピンズに「図書館では静かに!」と怒られたが、気にせセブルスの元へ一直線に走っていく。ちょうどレポートを書き上げたところらしいセブルスは、本を閉じ、羽ペンを置いて立ち上がろうとしているところだった。よかった。タイミングはバッチリだ。


『セブルス、助けて!』
「どうしたんだ?」
『もうすぐテストなのに、勉強全然終わってないの!』


 だから勉強教えてください。そう頼むと、セブルスはため息をついた。まずい、呆れられただろうか。


「君には計画性ってものがないのか?いや、ないから毎年こうなってるんだろうな」
『仕方ないじゃない、気づいたら3日前だったんだもの!』
「仕方なくないだろ」


 気づいたら3日前というのはうそだ。さすがに周りが懸命にテスト勉強をしている中、1人だけ気づかずにいるほど私は鈍くはない。それでもここまで勉強をせずに放っておいたのは、セブルスと一緒に勉強をする口実がほしかったから。

 人付き合いが悪く暗いと揶揄される彼だが、口が悪いだけで案外優しかったりするのだ。1年のときにたまたま授業でペアを組んだときに、レポートを仕上げられずに困っていたら助けてくれたのがきっかけで彼を好きになった。

 だけど、1人を好むセブルスにしょっちゅう付きまとうのも、疎まれてしまうのではと思うとできなかったし、何よりセブルス相手に何の話をすればいいのかわからない。
魔法薬学について語れればいいのだろうが、あいにくそんな大層な頭は持ち合わせちゃいない。となれば、勉強を教えてもらうしかないじゃない。

 怪しまれずに2人で話すきっかけを手に入れたナマエは、ぶつぶつと文句を言うセブルスの後をニコニコしながら追いかけた。

 夜、すべての勉強を放置してきたことをナマエは後悔した。このペースじゃ絶対に終わらない。というか、これはさすがにセブルスに悪い。あくびをかみ殺すようなしぐさを取るセブルスに気づき時計を見ると、もうとっくに就寝時間を過ぎていた。


『セブルス眠い?眠いなら寝ていいよ』
「いや、大丈夫だ」


 セブルスだって自分の勉強があるだろう。優しさに甘えたいところだが、あまり拘束してめんどくさい女だと思われるのは避けたい。


『無理しなくていいよ』
「無理なんてしてない」
『でもさすがに迷惑――』
「迷惑だと思っていたら僕は手伝ったりしない」
『――え?』
「……教えることで僕の勉強にもなる」


 そんなのうそだ。私がやってるのは落第を免れるための基礎中の基礎。セブルスからしてみれば簡単すぎてやる価値のないものばかりだろう。

 そんなに優しくされたら、もっと好きになってしまう――勉強を教えてもらうだけでは満足できなくなってしまう。かぶせ気味に言われたセリフに戸惑いを隠せないでいると、セブルスは眉間にしわを寄せた。


「それにしても毎年毎年よくこんなギリギリまで溜められるな」


 セブルスの嫌味がチクリと心にささる。おそらくこっちが本心だろう。もっともな意見なだけに、心以上に耳が痛い。だけど、来年以降も私はきっとギリギリまで勉強しないだろう。


「ナマエには学習能力はないのか?」
『学習してるよ……だからギリギリまで勉強しないんじゃない』


 ギリギリまで溜めておけば、セブルスが文句を言いつつ手伝ってくれるって知ってるから。さすがに3日前ってのはやりすぎたと反省しているが……。


「わざとってことか?」
『あ……』


 しまった。ついポロッと本音が出てしまった。もうダメだ。もう勉強教えてって言えない。軽蔑の眼差しを向けられていそうでセブルスのほうを見れない。


『ごめん。セブルスに勉強教えてもらいたかっただけなの……』


 覚悟を決めて自白すると、セブルスはさっきまで説明していた教科書をパタンと閉じた。ああ、やっぱり怒らせてしまった。そりゃそうよね。睡眠時間を削って教えてくれているのに、わざと勉強してなかったとか言われたら怒るよね。


「ナマエ……」
『本当にごめんね、セブルスも自分のテスト勉強しなきゃいけないのに……やっぱり自分でやる』
「いい、僕は1週間前には終わらせるようにしてるから」
『さすがセブルスだね。私なんかとは全然違うね。私なんかにかまわず、自分の好きなことしてていいよ』
「なんかじゃない!」


 突然語気を荒げたセブルスは、本を閉じた手を私の手に重ねてきた。


「ナマエだから言ってるんだ。1週間前に試験勉強を終わらせるのも、試験前になると毎年君が来るから……」


 途中まで勢いで話していたが、我に返ったセブルスは徐々に声を小さくした。変わりに私の心音がどんどん大きくなっていく。触れられた部分から熱が伝わってきて、全身が熱い。


「僕は、ナマエが来てくれるのを待ってて……こんなときにしかまともに話せないし――話っていっても僕の口から出るのは嫌味ばかりだけど――でもそれでも僕は……だから、その」


 たどたどしく言葉を切りながら話すセブルスの弱々しいしい声と反比例するように手に力が込められていく。「いまさら自分でやるとか言わないでくれ」と言うセブルスの顔が赤く見えるのは、きっと暖炉の炎のせいではないだろう。


『……じゃあ、続き、お願いしてもいいかな?』


 一緒に心臓まで出てしまいそうなのを懸命にこらえて声を出す。セブルスは何も答えなかったが、再び教科書を開いて説明を再開した。


『あの、セブルス?』


 手が、添えられたままなんですが。


「説明中なんだから黙ってろ」


 でも、手が……。このままじゃ説明が頭に入りません。


「ということだ。わかったか?」
『う、うん』


 ごめん、うそ。何もわかんない。



 その日、1時までかかってセブルスが私に教えてくれた薬草学のテストは、みごとに追試だった。


「なんで追試なんだ!」
『だ、だって!』


 あの夜、最後まで手はつながれたままだったのだ。説明が頭に入ってくるわけがない。そう小声で反論するとスネイプは少し考え込むそぶりを見せ、掲示板から目を離さないまま「じゃあ、慣れればいいだろ」と不意に手をとり指を絡めてきた。

 まずい。これでは追試の勉強どころではない。ナマエはひそかに薬草学の落第を覚悟した。
学習機能 Fin.

10000hitアンケのリクにあった「なんでもっと早くやらないんだといいつつ勉強を教えてくれるセブ」です。
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