20130505120217 | ナノ
跡部仁王既婚者です
登場はしませんが苦手な方はご注意ください

「それではよろしくお願いします。」
[ええ。お願いします。それでは失礼いたします。」
大学を卒業したのち、跡部財閥の経営する会社の一つの取締役となった跡部はその子会社である建築関連の企業を訪れていた。
忙しい毎日で凝り固まった肩をほぐすように揉みながら歩く跡部の目に飛び込んできた人の姿に思わず声をあげる。
「…仁王!」
振り向いたその姿は、5年前よりも筋肉が衰えたのか、より一層細くなっているけれど、見かけより柔らかい銀色の髪を一つに結び、ほくろの印象的な口元をニッと持ち上げたニヒルでありながら何処か愛らしい笑い方も、だらしなく丸まった背中も、あの頃と何一つ変わらない。
「久しぶりじゃねーの」
「…お前さんが大学卒業して以来じゃからのー。」
「まさかこんなところで会うとはな。仕事か?よくその髪で就職できたな。」
学生時代の制服もそうだったが、派手な髪には到底ふさわしくないスーツ姿の仁王のに近づいて笑みを作りながら問いかけると、相変わらず余裕そうにフッと笑い返される。
「普段は取引なんか来んぜよ。小さい建築デザイン事務所じゃき、髪は自由ちゅーかむしろ歓迎。ちゅーかここもお前さんの会社だったんか。」
「建築のデザイン事務所か…まあ似合ってんじゃねーか。あと、まだ俺の会社じゃねーよ。俺の親の会社だ。」
「じきにお前さんが継ぐんじゃろ?さすがじゃのー。」
餓鬼のころだったらなんともない、むしろ当たり前じゃねーの。俺様をなんだと思っていやがる、なんてかこつけたであろう言葉も今は何も返せなくなる。
5年前­…この会社、財閥のために愛した男の手を自ら離した。
仁王は裏切り者とも最低とすらも言わずに、ただお幸せに。そう言って仁王を置いて他の女と去っていく俺を見送ってくれたのだ。
「んじゃ、俺は事務所に戻るぜよ。またいつか…」
小さく口角をあげ背中を向けた仁王の腕を、俺は無意識につかんでいた。
結局あのころから何一つ変わっていないのは自分の仁王に対する思いなのだ。
5年間、隠し続けてきたけれど一日だって忘れることのできた日はなかった、仁王に再会できて、このまま別れることなんてできなかった。
手の平に人の肌以外の何かを感じ目をやって、一瞬目の前が真っ暗になったような気がした。
仁王のみ意義手の薬指に光るシルバーの指輪…それは紛れもなく愛の誓いを、家庭を意味するもので…
仁王の幸せを誰より祈ってきた。ほかの誰の幸せよりも仁王の幸せを祈ってきた。
それなのにいざ仁王が悲しみを乗り越えようやくつかんだ幸せを目にして、自分のこの体でこいつを幸せにしてやりたかったのにと、唇をかみしめる俺は、大事な手を放したのは自分のくせに、なんてずるい男なんだろうか。
「跡部?」
腕をつかんだまま下を向いている俺の顔を覗き込む仁王に気が付き、あわてて偉そうな顔を作る。
「せっかく5年ぶりに再会したんだ。今夜一緒に飯でも食わねーか?」
この思いが、この言葉が仁王を苦しめることになるかもしれない。
互いに手に入れた新しい平凡な幸せ。
不満なんてなかった。
世間一般的に見てきれいでs立ちのいい妻に、まだ幼いけれど賢い息子。
裕福な生活をほぼ確実に送っていける…
平凡どころか誰間がうらやむような幸せな日々を自分が送っていることはわかっていて、あまり他人を受け入れない仁王が受け入れた人間ならきっといい嫁を貰って幸せに暮らしているであろうことも想像できる。
いずれにせよ帰る場所がお互いにあること、守るべき人がお互いいいること。
愚かすぎる考えだなんて百も承知しているけれど、どうしたって抑えきることができない。
俺の提案に仁王は一瞬の沈黙ののち了承してくれた。
「じゃあ7時にここでいいか?事務所を教えてくれりゃ迎えに行くが。」
「ここでええよ。ミカエルや跡部にみられるんもなんじゃか恥ずかしいしの。」
「そうかよ。…じゃ後でな。」
「おん。」
立ち去る仁王の背中を見つめながら、心の中の葛藤に俺は頭を抱えるのであった。

あっという間に夜になり、仁王と待ち合わせ食事をしに小さな居酒屋へと向かった。
「ほんまにこんなとこでええの?」
「ああ、ほかにこういう店に来る機会ねーし一度くらいはな。」
「同僚とかとはこういう店来たことないん?」
「あーん?同僚と飯食う機会なんてねーよ。大抵取引先との会食か家で食う。」
「そりゃ奥さんは幸せもんじゃき。」
そういいながら仁王の浮かべた笑顔は何も気にしていない余裕そうな笑みであるながらも何処か危うげで、5年前のあの日も同じように笑っていた。
「仁王は…同僚と飯とか食うのかよ?」
自分の妻のことを話す余裕も、仁王の嫁のことを聞く余裕も一切なくて当たりさわりのない質問を返す。
「週2回くらいはいくかの。で、ここはお気に入りの店じゃき。」
その言葉に二人で店内を見回した。
確かにここは噂に聞くようながやがやとしたうるさい店ではなくて、サラリーマンやOLでにぎわっているものの、すべての席が半個室の座敷席になっていて、うるさいのを好まないけれど結局さみしがりやな仁王にはぴったりなのかもしれない。
仁王が仕事場の仲間とうまくやっていることに安心しながら、いつも仁王とともにいることのできる、こうして食事をすることも簡単にできる同僚がうらやましいと思ってしまうほどに仁王のことが愛しくて仕方ないのだ。
誰より愛した男と再会し、この感情を抑えることなど誰ができるだろうか。
「お前がそんな頻繁に人と飯食いに行くとは意外じゃねーの。」
「俺ももう社会人じゃき。ちょっとくらい人づきあいせんといかんぜよ。お前さんは俺のこと餓鬼だと思いすぎ。まあ事務所の人たちみんないいやつらナリ。」
唇を尖らせた仁王の頭を「悪かったな」と軽く叩く。
久しぶりに触れた柔らかな髪に湧き上がる愚かな感情はおさまることを知らない。
頭に乗せられた手に「やっぱり餓鬼扱いじゃ。」と愚痴をこぼした仁王に
「で、どうじゃ?庶民的な居酒屋も悪くないじゃろ?」
と自信満々の表情を向けられる。
「ああ。確かにお前の好きそうなうるさすぎずさみしすぎない店だな。なかなかいいんじゃねーの?」
「それはそれはお褒めいただきありがとさん。」
一度くらい庶民的な居酒屋を見てみたい。と言って連れてきてもらったが、そんなのは建前でただ仁王が普段どんなよころで食事をして笑っているのか、5年間のうちに見ることのできなかった自分の知らない仁王を知りたかっただけなのだ。
そんなことを考えていると次々と注文した品が運ばれてきた。
机に並べられた料理を見て、仁王に任せた自分が馬鹿だったと眉をしかめた。
「肉しかねーじゃねーか。」
「俺が野菜嫌いなん知ってるじゃろ?」
「それは知ってるけどよ、もう少しバランス良く食えよ。…心配して言ってんだぞ。」
「お前さんのその言葉、久しぶりじゃき。同僚はなんも言わんからの。真田や参謀や柳生なんかも最近諦めてきとるんよ。」
クツクツと喉を鳴らす仁王は見た目通り、というべきか相変わらず不摂生な生活をしているようで、心配であると同時に、やっぱり仁王のことは俺が守りたいと、俺がいなくては駄目なんだ。なんてうぬぼれて、「たまには一緒に飯食いに行こうじゃねーの。」と言おうと開きかけた口を仁王の言葉がとめた。
「そんな心配してくれんでも家では食っとるよ。食わされてるって言うんかの…子供に悪影響だからってな」
子供…自分にも子供がいるにも関わらず、いざ仁王の口から自分でないやつとの絆・幸せな家庭の話をされると目頭にこみあげる熱いものを抑えきれなくなりそうで。
本当は…二人で幸せな家庭を築きたかった。
何もできなくていい。
ただそばにこいつがいてくれればそれだけで幸せだったのに、財閥の御曹司としての親や世間の目・男同士での結婚がこの国では許されていないこと・男同士では跡継ぎを授かることができないこと…そんなことで仁王を手放し傷つけたのは俺自身なのに。
「結婚、したんだな。連らかとか式くらい呼んでくれても良かったんじゃねーのかよ?あーん?」
はたして俺は今、笑えているだろうか。
俺は仁王のように自分を偽ることに慣れていない。
そう考えて仁王のこの店にきたときとなんら変わっていないように見える表情の裏に、昔と同じように必死に悲しみに耐え、本音を隠していることに気づいて、愚かな一歩を踏み出そうとするのをとめた。
「呼んだりしたら赤也やブン太がうっさいからの。連絡せんかったんは…まあ許してくんしゃい。」
5年前、俺が今の妻との結婚を決めたとき、丸井と切原には最低だ、仁王先輩を傷つけてるのがわからねーのかと散々言われた。
無理もない。
俺以外にも仁王に行為を寄せていたやつはきっといて、その中で仁王は自分を選んでくれまわりも応援していてくれたのだから。
半分泣きながら怒る丸井と切原をとめたのは仁王だった。
「赤也、ブン太、そんな怒りなさんな。めでたいことじゃき。俺はなんもきにしとらんのじゃからちゃんと祝いんしゃい。」
一緒になって怒るどころか、二人をなだめ、一言おめでとさん。と笑ったのだ。
もっと罵ってほしかった。
どんなにきつい言葉を投げかけられても、殴られようともいいと思っていたのに、俺の好きな、見かけによらず繊細でやさしい仁王はただ俺の結婚を祝福してくれたのだ。
その笑顔の裏で、泣いていることを知っていながら、俺はありがとうとしか返せなかった。
顔をしかめ唇をかみしめるのも限界だ。
「こういう店にお手洗いはあるのか?」
「お前さん居酒屋をなんじゃと思ってるん…右にまっすぐいったらあるぜよ。」
「いや、なんだとって…まあいい。行ってくる。」
「おん。いってらっしゃーい。」
トイレに逃げるなんてまるで小学生だが、そうでもしなきゃ涙を隠すことなんてできなかった。
仁王の前では、せっかく久しぶりに会えたのだから、何も考えなくてよかった子供の頃のような強い自分でありたかった。
それでも結局人の気持ちに敏感なあいつにはばれているのだろう。
一見仲の良い友人か同僚のようにみえて実際は、お互い探り探り傷つけないよう傷つかないよう、過ちを犯さないように接する俺と仁王は、友達でもなければ恋人にもなれないのだ。
顔を洗い席に戻ると、仁王は机に顔を伏せて寝息をたてていた。
体をゆすっても起きないくらい寝入ってしまっている。
その懐かしい、起きているときからは想像できないあどけない寝顔に、愛しさがより一層こみあげてくる。
「ちっ。顔洗ってきた意味ないじゃねーかよ…」
そう一人悪態ついて、すべてを壊してしまいかねないことをわかっていながら白い頬に唇を近づけたそのとき、テーブルのうえの仁王の携帯が震え、ディスプレイに表示された名前が目に入り、触れるまであと一センチというところで、仁王の頬から離れた。
「おい仁王、電話なってるぞ。」
呼びかけても一向に起きない仁王の肩に俺のスーツをかけ、伝票をもち席をたつ。
これは賭けだ。
仁王がもし、今の幸せを手放してでも、俺を求めてくれるというのなら、また会ってくれるのならそのスーツを理由に再び会う機会をつくったのだ。
自分から完全にふみだす勇気も、完全に忘れ離れることもできない俺の狡さをどうか許してほしい。
ただ一つ確かなのは、どんな結果になろうとも、この仁王に対する思いは、色褪せることをしらないということだ。
今までも、これからも、たった一人何より愛しているのは仁王、お前だけだ。



テレビで焼き鳥テーマパークとやらを紹介していて、サラリーマン二人で訪れている方たちにインタビューしているのを見て、スーツで焼き鳥にビール!!とあらぶったのですがどうしてこうなった??
もう何も関係ない…

中学や生高校生の頃のように、ただ好きなだけじゃダメ
跡仁はお互い大人で頭がいいから、お互いのことが好きすぎるが故にうまくいかなかったりするのかなと思ったら、もう…
なんだか続きそうな気もしますがどうしますか!

ドロドロ不倫も好きですが、こういうのも好きです
でも今度はもっとかわいい焼き鳥ビールに挑戦します!

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