永遠はあるから | ナノ

今更別に男同士であること自体や自分の家族や友人、周りの奴にどう思われてるかなんてことを気にしたりはしない。
女に生まれていたら良かったのに、なんて嘆くことも特にない。
ただ自分と彼との繋がりには永遠を確証するものがないことが、自分が女の体をしていたら、永遠を手にする術があったのにと 、それだけは自分の体を恨まずにはいられないのだ。

放課後、部活を終え仁王を迎えに立海へと出向き立海から少し離れた海の近くの小さな公園に来た。
「んー!やっぱり此処は気持ちえぇのぅ。」
「毎回毎回同じところでいいのか?公園なら他にもたくさんあんだろ?」
「おん。でも此処は海も見えるし、子供もおらんし。」
「まあお前が喜んでくれる場所なら俺はどこだっていいんだけどよ。」
そう言って、隣に座る仁王の柔らかな髪を撫でてやると、仁王はわずかに体を此方へと寄せてきた。
こんな態度をとってくるのも人がいないからかと思うと、俺自身この場所がお気に入りだ。

この場所に初めて来たのは3ヶ月ほど前、まだ空気の冷たかった頃。
「公園のベンチでおしゃべりなんてカップルっぽいのぅー。」
「”ぽい”も何も本物のカップルじゃねーか。」
「でも周りからしたら男子中学生が二人きりで何してんだって感じじゃろ?」
「お前がそれを気にするから人のいない公園探したんじゃねーか。」
「まぁそうなんじゃけどー。」
”子供のいない公園に行きたい”という仁王の要望に、じゃあどこかを貸し切るかと言えばそれは違うと言うのだ。
仁王の言う公園はそもそも子供のためにあるようなもので、それを貸し切らずに子供のいない公園なんて無茶ぶりだ。
どうにか見つかったからいいものの。
「仮に誰かが見てきたとしても、それは俺様たちが余りに絵になるもんだから嫉妬してるんだろ。」
「ナルシストに俺を巻き込まんでよ。」
「あーん?自分の恋人を誉めるのは当然だろ?」
「…そんなん言えるんもお前さんくらいじゃき。」
普段は何も求めない分なのか突然無茶を言ってくる仁王には困らされることもある。
それでも寒さからか照れからなのか鼻を赤くして笑う仁王を見ると全て許してしまったのだった。

「今日は俺の家で夕飯食ってくか?……仁王?」
返答がないことを不思議に思い仁王の方を見ると、その顔はひどく悲しそうで、視線の先に目をやると愛おしそうにお腹をさする1人の妊婦がいた。
まただ。妊婦や小さな子供を見る度に、仁王はつらそうな顔をする。
それは子供が嫌いだと言うより、今にも泣き出しそうなほどに切なげな表情で。
どうしたのかと問いかけても毎回はぐらかされるだけだった。
「夕飯、食ってくか?」
仁王の頭にそっと手を乗せ顔を覗き込めば、仁王はようやく気付いたのかいつもと変わらずニッと口角を持ち上げた。


数日後、珍しくうちに来たいと自分から言ってきた仁王を部屋に招き入れると、仁王はいつものようにお気に入りだというソファーにダイブする事もなく、ドアの前で何か言いたげな顔をしている。
「…どうした?」
「…あんな…俺、赤ちゃん出来たかもしれん!!」
「は…?」
”赤ちゃんが出来た”その言葉が女の口から出たならば、どう責任をとろうか、俺たちはまだ中学生だと頭を悩ませたのだろうが、目の前の愛しい恋人は正真正銘の男。
話を理解出来ない俺をよそに仁王は話を続ける。
「最近なんか微熱が続いてての、吐き気もするんよ。なんか食の好みも変わった。それに腹も出てきたんよ、妊婦さんみたいに。丸井に妊娠じゃね?なんて言われて調べたんじゃけど、妊娠の初期症状にピッタリ当てはまってるんよ。」
そう言って、この間公園で見かけた妊婦と同じように愛おしそうに確かに少し膨らんだ腹を撫でる仁王の姿にいたたまれなくなる。
おそらく想像妊娠…男でも想像妊娠をすると聞いたことがある。
仁王は馬鹿じゃない。むしろ現実的で男が妊娠なんて夢みたいなことがあるわけないと分かるはずだ。
それでも…それよりも妊娠を強く望み想像妊娠したというのか。
子供や妊婦を見る度に泣きそうな顔をしていたのは、男である自分には子供を授かることが出来ないと思わされるから。
それほどまでに俺との子供を望んでいた仁王の思いになぜ気づいてやれなかったのか。

優しく自身の膨らんだ腹を撫でる仁王の手をそっと取り、口を開く。
「…仁王、それは想像妊娠だ。」
「想像妊娠?」
「あぁ…妊娠を強く望むことで実際には妊娠していないのにまるでしているかのような症状がでることがある。それは男にもあることだ。」
「……なんでそんなこと言うん…?」
「俺だって言いたくて言ってるんじゃねーよ。でもお前も分かってんだろ?…男は妊娠できないなんてこと。」
こんな残酷なことを愛するものに告げたい人間がどこにいるだろう。
自分自身仁王との子供ができたらどんなに幸せかと思ったこともある。
それでも…どんなに辛くても現実を見て早いうちに告げなければならない。
出来る限り傷の浅いうちに。

握りしめた仁王の手がプルプルと震えている。
「…分かっとるよ…そんなこと!でも、もしかしたらあるんじゃないかって、跡部の子供生めるんじゃないかって!子供が出来たらお前さんの跡取りもできて、そしたらお前さんの親にも認めてもらえるんじゃないかって、子供がいたらお前さんがずっと一緒にいてくれるんじゃないかって、永遠の形が欲しかったんよ、あり得ないってわかっててもそれでも…!」
普段感情を露わにしない仁王がボロボロ涙をこぼしながら初めて打ち明ける思いを聞いて、俺は仁王をそっと抱きしめる。
全く脂肪のついてないその体は紛れもなく男のもので、その男を抱きしめる自分も男…そんなことは関係ない。
これほどまでに自分を思っていてくれたことが嬉しくて愛しくて、子供がいなくたって親に認めてもらえなくたって、離してなんかやらないのに。
「…なあ仁王。子供がいなくたって、俺はお前を絶対に離さない。親に認めてもらえなくたって、親にどんないい女を薦められようとお前以外を愛したりしないしこうして抱きしめたりもしない。仁王、お前だけだ。永遠に。…言葉と態度だけじゃ信じられねーか?」
抱きしめながら優しく問いかければ、そっと背中に細い腕を回され抱きしめる力を強めた。
「子供が出来ないなら、その分もお前を幸せにしてやるよ。」
「…期待してええの?」
「あーん?当然じゃねーの。」
俺の胸に顔をうずめながらクスリと笑った仁王の頭にそっと唇を落とした。



形はなくとも、2人の永遠の愛の絆は確かに存在するのだ。
抱きしめあう2人はそう確証していた。



Twitterで男の方も想像妊娠をすると知ってSSSとも言えない跡仁を垂れ流したところ、フォロワーさんで誉めてくださった方が数人いて、嬉しさのあまりネタにしてみました!
自分の書く話を好きといってくれる方が一人でもいると涙出ます。


跡部との目に見える繋がり、永遠がほしくて、どうしても跡部の子供を生みたいけど無理なことを理解している。
幸せそうな妊婦さんが羨ましい。
大好きな人との子供を生めるなんて。
想像妊娠してしまうくらいに跡部とずっといたい。
そんな仁王をこれまでもこれからも誰より愛する跡部。
目には見えないけど2人の絆は絶対だ!
子供の分も2人で愛し合って幸せになってくだされば私も幸せ!

以上!


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