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念願の立海大附属高校に入学してから早2ヵ月。
新しい学校生活にもすっかり慣れ今日はいは部活の先輩である丸井先輩に連れられて繁華街のカラオケ店前に来ている。
「かわいい子来るといいっすね!」
「まぁ忍足の趣味だからスタイルはいいんじゃねぇ?特に脚。」
「えっ!忍足さんって足フェチなんですか?!なんかショック…」
「それ、忍足に直接言ってやれよぃ。」
ゲラゲラ笑いながらガムを膨らませる先輩を横目に悩みの種である癖毛をどうにか整える。
これから来る女の子たちに少しでもよく見えるようにしなければ…部活のために高校に入ったとは言え、やっぱり自分も思春期の男としてはかわいい彼女が欲しい。
そう気合いを入れるとせっかく整えたつもりの髪を先輩にグシャグシャにかき回された。
「ちょっと!何するんすか!」
「今更セットしたって何も変わんねえだろぃ。…あっ来た来た。」
先輩の言葉に反抗しようとしたところで、きゃぴきゃぴした高い声が聞こえ、声がする方を向き、見えてきた人の姿に少し肩を落とした。
ケバい。本当に高校生だろうか?
派手な化粧にグルグルに巻かれた明るい髪。着崩した制服姿は姉の読んでいる雑誌の表紙そのものだ。
なるほど確かにモデル体型だけれど。
「忍足だけかよぃ?宍戸は?」
「宍戸はやっぱり俺は合コンなんて行けねーよ!とか言い出してなぁ。代わりのやつ呼んだんやけど急やったからちょっと遅れる言うてたわ。」
女の子たちを引き連れてきた忍足さんの言葉にえー、宍戸くん来ないの?会いたかったのにー。と不満を漏らす彼女たちから察するに強豪テニス部との合コンという予定だったのだろう。
甲高い声を聞きながら、見た目がタイプじゃなかろうと大事なのは中身だ!と1人気を引き締めた。
せっかくのオフの日だ。楽しまないと。
あわよくば誰かといい感じに…
「堪忍な。代わりに呼んだやつもかなりの男前やで。スタイルもええし…」
「遅れてすまんのぅ。」
独特の方言が後ろからして振り向けばそこに立っていたのは女の子たちよりも一層派手なのばした銀色の髪の襟足を一つにくくり、だらしなく制服を着崩した身長の割にずいぶんと細みな男。
「待たせたの」
そう言って、ほくろの印象的な口元をニッと上げた彼に自分の胸が高鳴るのを感じた。
「めちゃくちゃイケメンっすね…!」
隣に立つ丸井先輩を含め立海の先輩たちもみんな顔は整っているけれどそれとは全く違うタイプで、なぜだか分からないけれどドキドキしながら隣を見ると丸井先輩はガムを膨らませたまま銀髪の彼を目を見開いて見つめていた。
「…仁王…」
「…知り合いなんすか?」
そう問い掛けるとパチンとガムが割れるのと同時に我に返ったようで、取り繕うような笑みを浮かべて
「いや…別に?中学の大会でちょっと見かけただけだよぃ。」
と答える先輩の様子を少し怪訝には思ったけれど、それよりも不思議なことに俺の頭の中は初対面の綺麗な男の人でいっぱいだった。

「赤也くーん、隣いいー?」
「あっ…はい。どうぞ。」
カラオケ店の中に入り一通り自己紹介を終えると隣に金色に近いぐるぐるの髪を結っている元の顔が分からないくらいに化粧をした女の子が座ってきた。
「赤也くん、パーマかけてるの?」
「はぁ?…あっいや、地毛っす。」
いきなりコンプレックスの髪を触りながら言う彼女に一瞬顔をしかめてしまったけれど、初対面の女の子にキレるわけにもいかないと必死に笑顔を作ろうとすると、部屋の片隅からキャーという黄色い悲鳴が聞こえ、彼女も何も言わずに隣から去っていった。
解放された。ホッと息を吐き、何気なく部屋を見渡すと銀髪の彼…仁王雅治さんが女の子に囲まれているのが目に留まった。
「仁王くんアドレス教えてよー」
「じゃあこの中で一番俺を楽しませてくれた奴1人にだけ、こっそり教えちゃるきに。」
「仁王に気に入られるんは難しいで?」
「エー!楽しませるだって!」
「じゃあ趣味とか教えてよぉ!」
「秘密じゃき。ミステリアスな男も面白いじゃろ?」
仁王さんがそう言ってニコッと笑うと、再び黄色い悲鳴があがる。
慣れている…みた目通りと言っては失礼だけど女の子の心を掴むのがうまいらしい
一方で自分は1人で盛り上がる彼らを見ているだけだし丸井先輩は食べてばかりだし、俺たちは何をしにきたのだろうか。
甘ったるい香水の匂いが籠もっているせいかなんだか気持ちが悪くて、近くにあったグラスに手を伸ばし中身を飲み干すが一向に良くならない。
一応カバンを持って、外の空気を吸いに部屋を出た。

「うぁー…きもちわりぃ。」
壁に寄りかかりそのまま座り込む。
もうこのまま帰ってしまおうか。
丸井先輩が怒るかな?
いや、先輩だって食ってばっかりだから大丈夫だろう。
と自問自答を繰り返していると、突然頬に冷たい
「ヒッ!」
「…大丈夫?」
「あ、仁王…先輩。」
振り向くと仁王さんが俺の頬にペットボトルの水を当てていた。
「俺はお前さんの先輩じゃなかろ。ま、ええけど。それより切原くんじゃっけ?顔色悪いぜよ。大丈夫?」
「あぁ…ちょっと外の空気吸いにきただけっす…!」
名前を覚えていてくれたことがなぜだか嬉しくて、元気に答えたつもりだったけど仁王さんは眉を下げて俺の顔を覗き込んできた。
「本当に?あんま無理しなさんな。」
「本当に大丈…うっっ!」

「あの…本当にすみません…!」
大丈夫ッス!と言おうとして仁王さんの制服に盛大に嘔吐してしまい、自分はスッキリしたものの汚れてしまった制服のブレザーをトイレの手洗い場で洗う仁王さんに深々と頭を下げる。
「全然気にせんでええよ。洗濯すりゃええんじゃし。切原くんはもう気分は大丈夫なん?」
「もうすっかりスッキリっす!」
「それなら良かったぜよ。結果オーライナリ。」
「先輩めちゃくちゃ優しいッスね…うちの先輩たちだったら絶対許してくれないっすよ…。」
「別に優しくなんてなかよ。…で、多分切原くんが飲んだの酒じゃ。店員が間違えたんじゃろうな。ウコンでも買って帰るかー。」
「えっ酒?!うっわ未成年なのに…あの、仁王先輩、バレたらやばいですかね?」
未成年飲酒がバレて、猛勉強して入った立海を退学になんてなったら笑えない。
思わず仁王さんのワイシャツを掴みながら問い掛けると、一瞬キョトンとしてハハッと笑ったその姿が凄く綺麗だ。
「別にバレたりせんて。案外真面目さんなんじゃのぅ。ちゅーか、仁王先輩呼びは定着したんか?」
「あっ、なんかつい癖というか…先輩って感じがして…」
「どんな感じじゃ。まぁ好きに呼んでくんしゃい。ってわけで帰るぜよ。」
「えぇっ?!後の人たちどうするんすか?」
「2人で抜け出すぜよ。切原くん、つまらなそうじゃったし…どうする?」
「…行きます!」
「了解。」
そう言ってイタズラっ子のような顔をした仁王先輩にドキリとしたのは、きっとお酒のせいだろう。



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