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ぬ仁王も俺も何も買わずに結局また2人で歩く帰り道。
同じ道でもやっぱり仁王と一緒だと景色がまるで違って見えるから不思議だ。

「赤也は1年が入ってきてやたら張り切っとるよな。」
「そうだねぇ。あまり偉ぶったりしないといいけど。」
「俺らの時はひどかったからの。」
「…まああれがなきゃ仁王は俺に見向きもしなかっただろう?今は先輩方に感謝してるよ。」
眉を下げて冗談めかして言う幸村に仁王はクスリと笑って空を見上げる。
「…それはどうかのぅ?」

2年前の7月。
幸村はテニス部の2年に呼び出され裏庭へと向かっていた。
「全く…自分たちが弱いからって八つ当たりはやめてほしいな。」
ぶつぶつと1人文句を言いながら裏庭についた幸村は自分の目を疑った。
裏庭には自分を呼び出した先輩3人と…自分の姿。
にわかには信じがたいその光景に幸村が無意識に木の影に身を潜めるとドガっという重い音がして少し身を乗り出すと地面に倒れている自分と逃げ去っていく先輩の姿があった。
状況は全く把握出来ないが人が殴られて倒れているのを放っておくわけにはいかない。

「…君、大丈夫かい?」
ドッペルゲンガーというやつだろうか?俺は死ぬのだろうか?なんておとぎ話のようなことを考えながら幸村がおそるおそる地面に倒れ込んでいる自分の姿をした人物に近づくと、彼は幸村を見て「しまった。」 というような顔をした。

「驚かせてすまんの。俺じゃき。」
そう独特の言葉使いで言って髪をクシャリとすると現れたのは特徴的な銀色の髪。
「…仁王?!」
「プリッ」
どうして仁王が自分の姿をしていてここにいて殴られているのか。
状況は未だ理解出来ないし聞きたいことは山ほどあるが、その前に赤く腫れた頬をどうにかしなければならない。
「…とりあえず手当てをしよう。」
極力戸惑いを隠し仁王の手を取り保健室へと急いだ。

「…いてっ。もうちょい優しくしてくんしゃい。」
「これでも最大限優しくしてるつもりさ。結構酷い怪我だ。」
保険医がおらず仕方なく幸村が思うがままに手当てをしてやると仁王は思い切り眉をしかめた。
「お前さん、何度もあの先輩らに呼び出されとるん?」
「呼び出しは3回目。でも手を出されたことはないよ。」
「んじゃやっぱり俺の態度が悪かったんじゃろうなぁ。」
ククっと喉を鳴らす仁王の頬を「はい、手当て終わり。」と軽く叩いた幸村は疑問に思っていたことを問いただす。
「一体何を言ったんだい?…というかどうして仁王が俺の姿をしてあそこにいたんだい?」
仁王は「なして叩くんじゃ。」と頬を抑えながら幸村を睨むが、不気味なほどに優しく微笑む幸村に身震いして小さくため息をついた。
「ま、バレちゃ仕方ないの。イリュージョンじゃき。」
「イリュージョン?」
「おん。他人になりすましそいつ自身のプレイを模倣する。俺の編み出したプレイスタイルぜよ。」
「やっぱり君は面白いね。」
「それは光栄じゃ。で、お前さんの研究のためなりすましとったら偶然先輩らが来て…そこからは幸村が見た通り。」
「一体俺の姿でなんて言ったんだい?」
「お前らが弱いからって八つ当たりはやめてくれ。こんなことしてる時間があったら練習して少しでも僕に近付いたらどうですか?って。」
仁王の口から放たれる自分そのものの声と、まさに自分が言いたかった内容に幸村は一瞬言葉を失う。
「…無駄な争いを嫌う仁王がそんなこと言うだなんて。」
「お前さんの格好じゃったからの。俺に危害は加わらんと思ったんよ。」
「俺に危害が加わることは考えなかったんだ?」
そう微笑む幸村にクツクツと笑う仁王を綺麗だ。と幸村は思った。
「…お詫びに今度のオフの日、俺にちょうだいよ。」
「拒否権は?」
「ないよ。」
「やっぱりな。」
そう言って、またクツクツと独特の笑い方をする仁王はやっぱり美しい。
帰ったら久しぶりにキャンバスに向かおうかな。
考えながら、幸村も楽しそうに笑った。


「あれがなかったら仁王は俺とデートしてくれなかっただろう?」
「あれはデートだったんか。」
「俺はそのつもりだったよ。」
「男同士で出掛けるんをデートと思う奴はそうおらんぜよ。」
「俺は綺麗なものが好きなんだ。」
「…?まあガーデニングに水彩画言うたらそうじゃろうなぁ。」
「うん。それと…仁王、君もね。」
そう言って顔をのぞき込むとアホ!と白い肌を紅く染めて歩みを速めた仁王の背中に幸村は、「やっぱり綺麗だ。」と満足そうに呟いてその背中を追いかけた。


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