thick-skinned | ナノ

告白されることには慣れていた。
同学年からも先輩からも後輩からも、休み時間や放課後に呼び出されては好きです。と告げられたし、下駄箱や机に手紙が入っていることも頻繁にあった。

その度に今はテニスに集中したいなんて適当な理由をつけて断りながら、彼女たちはなぜ俺を好きになったのかと疑問に思っていた

丸井のように女子たちとたくさん会話してるわけでもなければ柳生のように優しくしてあげるわけでもないし、柳のように真面目なわけでもない
人とつるまずただ屋上に佇んで、真田に叱られ部活に行く。そんな毎日を送る俺の何処に惹かれたのかが理解出来なかった。

もう日常のようなものだったから呼び出されたあとのことは予想出来るようになっていた。
それでも、俺たちの生活の中心であった部活を引退し、照りつける日差しも弱くなってきて、残暑も終わりだなと思っていたときに自分を呼び出した後輩の口から例の彼女たちと同じセリフが出てくるとは予想出来なかった。

「突然話があるってどうしたん?部活の相談じゃったら俺よりー」

コート裏に棒立ちしこちらを振り向かないワカメ頭といじくってきた後輩の背中を眺めながら、よくここの木陰で部活をさぼっていたな、なんてことばかり考えていた俺の頭にこれから起こることなんてちっともよぎっていなかった。


「先輩、好きっス。」
「…え?」
予想を大きく外れた好きという二文字に間抜けな声を出す仁王に構わず赤也は続ける。
「付き合ってくれとか言ってるんじゃないっす。ただ、先輩たちが引退してこのまま会う機会も減っていくんだなって考えたら気持ちを伝えるだけでもしようと思って!突然呼び出してすみませんでした!」
そう言って校舎に戻ろうとする赤也の腕を無意識に掴んで引き止めていた。
「…どうしたんっすか?」
「俺もお前さんのこと、好いとうよ。」
嘘じゃない。
赤也は大切な後輩で、後輩としては大好きだ。
でもこれは所謂恋愛感情というものではないんだろう。
それでも…イタズラばかりして詐欺師と呼ばれる自分に好意を寄せてくれるこの後輩が、このまま離れていってしまうんじゃないかと考えたら無性に寂しくて、彼が望む恋人という形で引き止めようと、俺は嘘をついた。
俺の言葉に赤也はパァッと顔を輝かせガッツポーズをしている。
自分はなんてズルいんだろう。

恋人になったからといって何かが変わることはなかった。
たまに部活を覗きに行って一緒に帰ったり、昼休みに屋上でお昼御飯を食べたりするだけで、休日は赤也が部活があるのでどこかに出かけることも、手を繋いだりキスをしたりすることはなかった。
こんなものなのか。と安心しつつ何処か寂しく感じるのは何故なのかなんて深く考えはしなかった。

残暑もすぎてYシャツ一枚では肌寒く感じるようになってきた赤也と歩く帰り道
「すっかり涼しくなりましたね!」
「ちゅーか寒いぜよ。」
「この間まで暑い暑い言ってたじゃないっすか!」
「覚えとらん。」
「覚えてないわけ…あっ!」
何かを見つけたようで突然走りだし、取り残された俺の元に戻ってきた赤也の手には小さな袋が2つ。
「たい焼き買ってきたんすよ!ちょっとは温まると思って。こっちは俺ので、これがツナマヨだから先輩の!」
「おぉ、ありがとさん。でもツナマヨって?」
「先輩甘いのよりこういうのがいいでしょ?」
そう言って満面の笑顔で手渡されたたい焼きはなんだかやけに美味い。
「ツナマヨ美味いっすか?」
「おん。食べる?」
「やった!じゃ、いただきまーす!」
差し出した食べかけのたい焼きに赤也の顔が近づいたかと思うや否や、唇に感じる感触に心臓がはねる。
「ごちそーさま。ちょっとベタすぎましたかね?」
「そう思うならするんじゃなか…」
へへんと笑う赤也に突然のことへの驚きとドキドキと高鳴る心臓の音がばれないように悪態をつく。
赤也がどんな顔をしていたかなんて知る由もない。

いつも別れる交差点につき、いつも通りに別れの挨拶を交わす。
「気をつけて帰って下さいね!」
「おん。赤也もな。じゃまた明日。」
手を小さく振って家への道を進もうとすると「あの!」と大きな声で呼び止められる。
「仁王先輩は本当は俺のことどう思ってますか?」
少しも笑みを浮かべず問う赤也の姿に、お得意のごまかしの言葉が出てこない。
長い沈黙を破ったのは赤也だ。
「…冗談っすよ!じゃあさようなら!」
"さようなら"その言葉に少し違和感を覚えながら自宅へと帰った。

それから10日後。あれから赤也とは一言も会話をしていない。
毎日チャイムと同時にクラスに来た昼休みも一度も顔を出さないし、部活に行くと試合しろだのダブルスだの要求していたのにそれもない。
廊下ですれ違うと気づいてないふりをして走り去ってしまう。
避けられているんじゃないか…?そう考えたら胸がズキンと痛んだ気がした。

どうしたらいいのか、どうしたいのかと頭を悩ませ廊下の窓の外をふと見ると裏庭にまさにその悩みの種の後輩と1人の女子がいるのが目についた。
女子生徒が赤也に手紙を差し出しているようだ。

「仁王くん、何を見てるんですか?おや、切原くんじゃないですか。告白ですかね?年頃ですしついに切原くんにも彼女が出来るかもしれませんね。」
柳生の言葉に何故か視界が霞む。
「…っトイレ行ってくるぜよ」
俯きながら去る仁王に柳生は苦笑した。
「少し刺激しすぎたかもしれませんね。」

普段使われることのない非常階段まで来て仁王はズリズリと座り込む。
どうして涙がでるんだろう。
友人や後輩に彼女が出来たって悲しくなんかならない。
休日に外出出来ないことが寂しくなったりはしない。
キスをされてドキドキしたりしない。
話せなくて泣きたくなったりなんかしない。
あぁ。これが恋愛感情なんだってようやく気付いた。
今頃気付いたってもう遅いのだ。


「先輩、泣いてるんすか?」
その声にゆっくり顔をあげると立っていたのはようやく気付いた好きな人。
「先輩、俺に避けられて寂しかった?」
横に腰をおろした赤也の問いに頷く。
「…なんで避けたん?」
「ある人のアドバイスっす。」
返答に疑問を抱きながらももっと気になることを問いかける。
「告白、されとったの。」
「仁王先輩がね。手紙渡してくれって頼まれたんっすよ。先輩には恋人がいるから無理だって言ってやりましたけどね!…誤解してそんな泣いてたんっすか?可愛いとこありますね。」
「心配したんに。」
鼻をすすりながら返すと赤也はヒヒヒと笑って目を押さえていた俺の手を外し顔を見つめてきた。
「やっぱり先輩、俺がいないと駄目っすね。」
「…煩いワカメ」
「あんまりそういうこと言うと襲っちゃいますよ?」
「…ええよ、赤也なら。」
予想外だったのか、え!と叫んだだけで何も言わない赤也に冗談だと言おうとしたとき、ぎゅっと手を握られた。
「ゆっくりいきましょ!先輩、意外と恋愛疎いから。」
ケラケラ笑いながら言う赤也の、自分より少し小さな手が凄くかっこいいと思ったなんて口には出さないでおこう。




赤也は恋愛相談というか仁王相談は柳生にすると思います。
仁王が本当に自分を好きなのか悩んだ赤也が柳生に相談して、柳生は仁王が自分の気持ちに疎いだけでちゃんと赤也が好きなんだって気付いてて、仁王に自覚させるためには…って話。

グッズの赤也のメッセージ、赤仁で言わせたくてですね!
だって赤仁隣だったから!
仁王のメッセージは無理でした…

以上!

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