ありふれた最上級の幸せを(跡仁) | ナノ
「今日はごちそうさんでした。まっこと美味しかったぜよ。」
「こんなもので良けりゃいくらでも食わせてやるよ。」
「毎日こんなご馳走食べれるなんて幸せもんじゃのー。」
「…別にそんなことねーよ。」
跡部宅での食事を終え、仁王を家まで送る車中で仁王の言葉に苦笑する。
そんな跡部に仁王は手を顎に当て何か考え込み何か浮かんだようで、イタズラを思いついたときのような楽しそうな声で提案をする。
「のぅ跡部、今度の土曜の夜あいとる?」
「特に予定はないが…何処か行きたいところでもあんのか?」
「6時くらいにうちに来てくんしゃい!何も用意してこんでええから。」
滅多にない仁王からの誘いを不思議に思いつつ、願ってもなかった嬉しい提案に快諾すると遊園地に向かう車中の子供のように足をふり口をゆるませている仁王の姿に跡部も笑みを零した。


土曜日の18時。
自主練を終えた跡部が仁王の家につきインターホンをならすと中から現れたのは母親のものであろうエプロンを身にまとった仁王。
「おかえりんしゃい。お風呂にする?ごはんにする?それとも…って言いたいところなんじゃけど、まだ終わっとらんけぇ、先風呂入ってくんしゃい。」
「…は?どういうことだよ?」
「自主練してきたん?流石じゃき。」
状況をのみこめない俺の背を押す仁王に洗面所へと連れていかれる。
「シャンプーとかは適当に使ってくんしゃい。じゃあごゆっくり!」
と言い残し仁王は鼻歌まじりに洗面所を出て行ってしまった。
とりあえず言われたとおり入浴しておくかと、服を脱ぎ浴室に入ると壁にはたくさんのステッカーが貼られ水鉄砲やらなにやらおもちゃがたくさん置いてあった。
弟のものだろうか?と考えたところで少し大きな水鉄砲で弟と遊ぶ仁王の姿が頭に浮かび、なんだか温かい気持ちになる。

2種類あるシャンプーとリンスのうち適当に紫色のボトルのものを使い洗髪し、身体も洗って湯船につかる。
自分の家のものと違いギリギリ脚を伸ばすことが出来るくらいの湯船だが不思議なくらいリラックス出来る。
小さな窓の側に置いてある手のひらサイズのひよこのおもちゃに手を伸ばし、なんとなくそのお腹を押してみると「ピヨッ」という鳴き声がして、まるで仁王みたいだと思った時、ドアの向こうから本物の仁王の声がする。
「湯加減いかがですかー?」
「あぁ、ちょうどいいぜ。」
「ん。タオル洗面台に置いておくナリ。…あっ!跡部もしかして紫のシャンプー使った?」
「使ったが…なんかまずいのかよ?」
「姉ちゃんのじゃき、怒られる…」
「あーん?お前が適当に使えって言ったんじゃねーか。」
「プリッ。まあまさかバレんじゃろ。気にせんで!」
バレんでバレんでと言いながら戻っていく仁王を少し羨ましく感じた。

風呂から上がりリビングに入るとなんだか焦げ臭い。
キッチンに立つ仁王を見つけ
「おい、なんか焦げてる臭いが…」
とキッチンに入ろうとすると勢いよく突き飛ばされる。
「大丈夫じゃから!疲れとるじゃろ?大人しく座っとって!」
と言われ仕方なく従っていると程なくして仁王がお盆を持ってきた。

「はい、ごはんですよー。」
「これ仁王が作ったのか?」
「もちろんじゃ。」
テーブルに並べられた料理は跡部が普段食べているものと比べると、質素なものだし見た目も良くない。
それでも跡部の目には今まで食べたどんな高級料理よりご馳走に映った。
「いただきます。」
「はい、いただきます。」
肉やじゃがいもの入った肉じゃがとは違う煮物らしきものに箸を伸ばし口に含む。
「どう?まずくなか?」
心配そうに俺の顔を覗き込む仁王に笑って答える。
「すごい美味いぜ。」
「ほんまに?良かった…!」
ホッとしたのかようやく料理に手をつける仁王をみて、俺も次々と箸を伸ばした。
お世辞ではない。
一体この料理がなんなのかは分からないが、何かを食べて箸が止まらなくなるのは初めてだ。
「仁王家オリジナル料理なんよ。お袋の味ってやつぜよ。母ちゃんに習ったんじゃけど…1人で作ったら本来のものとは変わっちゃったナリ。」
と仁王が肩を落とす。
「料理するなんて意外だったな。」
「調理実習以外したことなか。それも大体ブン太に任せてるしのぅ。結構難しいぜよ。でも焦げ臭かったんは処理したから安心してくんしゃい。」
「焦げでもなんでも食ってやるけどな?」
「…お前さんアホ?」

テレビ番組をBGMに仁王の手料理を食べながらたわいない話をする時間が凄く楽しくて終わってしまうのが惜しい。
「跡部今日はよう食べるのぅ。」
「残すわけにいかねーだろ?」
「別に無理せんでええよ?」
「あーん?無理なんかしてねーよ。丸井くらい目じゃないくらいいくらでも食えるぜ。仁王が作ったものならな。」
俺の言葉に顔を赤らめ何か言ってる仁王を横目に並べられた料理の全てをたいらげた。

「本当に全部食べてくれたんか。嬉しいもんじゃのぉ!母ちゃんが言っとることがやっと分かったぜよ。」
そう言って幸せそうに笑う仁王の頭をクシャリと撫でる。
「美味かったぜ。じゃあ次は仁王をいただこ…」
「ダーメ。俺は皿洗いしてくるぜよ。テレビでも見とって!」
手を払って俺の誘いを断りキッチンに向かう仁王についていき、ずっと疑問に思っていたことを問いかける。

「なぁ、なんで急に飯作ってくれたんだよ?」
「んー?…俺の気のせいかもしれんけど…この間お前さんのこと幸せもんって言うたとき、なんか悲しそうな顔してる気して…家庭の味、普通の生活っちゅーかなんて言えばいいんか分からんけど、俺なりの普通の幸せみたいなもの、お前さんにあげたかったって言えばええんかの…」
自分の抱いている感情を小さな表情の変化から感じ取り、自分も部活で疲れているにも関わらず、自分のためにと慣れないことをしてくれたことを知り目頭が熱くなる。
仁王の言葉を最後まで聞かないまま、気付くとその背中を抱きしめていた。
「ちょっ!洗いにくいぜよ、離れんしゃい!」
「皿なんて後でいいじゃねーか。」
「皿に嫉妬しとるん?」
「あぁ、してるぜ。悪いかよ?」
「…そういうこと言うたんじゃなか…」
ぶつぶつ口では文句を言いながらも抵抗しない仁王を抱きしめながら、帰ってきたら仁王が家にいて、大きくないガラクタだらけの風呂に入り、失敗と隣り合わせの庶民的な仁王の手料理を食べる。
大勢の執事やメイドに迎えられるより、大きくて綺麗な風呂に入るより、一流シェフの作る高級料理を食べるより…仁王と過ごすごく普通の日々は何より幸せな日々であるに違いない。
そんな将来を思い浮かべ、仁王を抱きしめる腕を強めた。



普通の幸せというかお金じゃない幸せのようなものを欲する跡部に仁王なら気付くと思う。
そんな幸せを与えてあげると思う。
そんな仁王が跡部は好きで好きで仕方ない!
仁王とこんなごくごくありふれた日々を送りたい、送ってみせるって決意した模様

以上!

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