その腕に愛の形を跡仁 | ナノ

「行けなくなったって…ずっと前から約束してたんに!」
「仕方ねーだろ。部会なんだからよ。」
「先に約束しとったんは俺じゃろ?!」
「先だろうと後だろうと部長の俺様が行かないわけいかねーだろ?」
「部長としてのことは考えるんに、俺の彼氏としてのことは考えんのじゃね。」
「あーん?そんなこと言ってねーだろ」
「言っとるのと同じじゃよ。」
「…聞き分けの悪いやつだな。」
受話器の向こうで跡部がチッと舌打ちしたのが聞こえ仁王は唇を噛む。
「もうえぇ…別れる。」
「あぁそうかよ。こっちだってこんな我が儘な奴願い下げだぜ。」
小さく呟いた言葉に返された冷たい言葉に仁王は「俺も約束守らん奴なんかだいっ嫌いじゃ!」と言い放ち返事を待たないままブチっと電話を切った。

暗くなった画面を見つめながら仁王は考える。
部会と自分とのデートとどっちが大事なんだ、だなんてまるで仕事と私どっちが大事なの?と馬鹿みたいな質問をする女みたいだ。
俺はこんなに女々しかっただろうか?
…そもそも跡部が最初から俺にやたらかまってこなければ良かったのだ。
そうしたらこんな思いしなかったのに。
責任とってくれ。と思うが、たった今全て終わったのだ。

ベッドに身を投げ出し目を閉じる。
約束をキャンセルされたことが辛かったんじゃない。俺はただ…



「あれっ仁王髪切ったのかよぃ!跡部と別れたとか?」
翌朝仁王の後ろ姿を見かけた丸井が走ってきて冗談まじりに問いかける。
「おん。別れた。」
「…まじかよぃ。…じゃあ俺と付き合おうぜぃ!」
「ええよ。」
予想外の返事に虚をつかれ、バシンと思い切り仁王の背を叩き「じょ、冗談に決まってんだろぃ!」と走り去っていく丸井を見ていると横から声をかけられる。
「目が赤くなっているようだが…訳を教えては、もらえないだろうな。」
「参謀か。花粉症じゃよ。…それより髪切ったんじゃがどうかの?」
「仁王は整った顔をしているからな。長髪も似合うが今の髪型も絵になるな。」
澄ました顔で笑う参謀に「じゃろ?」と笑い返しそのままたわいない話をする。


跡部と付き合い始めてから伸ばした髪。
テニスをするのに邪魔だろうと伸びた髪を結んでくれた跡部のくれたヘアゴム。
初めて会話した時のように髪を切ってしまった今、もう必要ない。
なんだか切なく感じるのは首もとがスッキリして冷えているからだ。


「最近の仁王先輩どうしたんっすかね?」
「跡部と別れてからだぜぃ?話したこともなさそうな奴だろうと男女関係なく来るもの拒まず!って感じなの。」
「じゃあ俺にもチャンスありますかね!!」
「俺がいる限りそれはないよ。」
「おいお前らそういう問題じゃねーだろ…」

幸村たち4人が話しているとおり、跡部と別れてから仁王はそれまでは頑なに断っていた遊びや交際の申し込みを男女関係なく受け入れるようになっていた。

「一体3週間で何人の方とそういった交流をもったのですか?あなたらしくないですよ。」
裏庭で仁王に勝るとも劣らない派手な格好をした男といる仁王を見かけた柳生が、男が去ると同時に話しかける。
「心配せんでも柳生とはそういう関係にはならんよ。」
「真面目な話をしているんです。本当は跡部くんのことがまだ好きなんじゃないんですか?」
「好きじゃったら最初から別れとらんよ。」
「素直じゃないですね。今の仁王くんの姿を彼がみたら悲しみますよ。」
「…跡部は俺なんかより…いや、何でもなか。」
迷惑はかけんから。と手を挙げながら去る仁王の背中を見つめながら、柳生は小さく呟いた。
「まったく…跡部くんは何をしてるんですか…」


今日はめったにない部活が休みの日で1人街にくりだした。
ショーウィンドウに映る肩よりも短くなった自分の髪を見て様々な思いが頭の中をかけめぐる。

髪を切ったところで跡部への思いが断ち切れる訳ではない。
跡部にもらったものが必要なくなったところで跡部が必要なくなるわけがない。
約束をキャンセルされたことが、自分との約束より部を優先されたことが悲しかったんじゃない。
ただ一言、俺も会えなくなって残念だ。そう言って欲しかった。
切り出した別れを拒んで欲しかった。

「お兄さんかっこいいね。高校生?俺たちと遊ばない?」
「奢ってくれるならええよ。」
自分で別れを切り出しておきながら、本当は別れたくなかったなんて言えるほど素直にはなれなくて。
色々な人と遊ぶことで、跡部がいなくても大丈夫なんだと強がることしか出来ないのだ。
「もちろん奢るよ。じゃあ行こうか。」
そう言いながら男が伸ばした腕が何者かに掴まれる。
「人の男に気安く触ろうとしてんじゃねーよ。」
久しぶりに耳にしたその声に言葉を失う
「知り合い?」
「…いや、別に」
「俺は別れるとは言ってねーぞ。…とにかくこいつは俺の男だ。」
唖然とする男をよそに跡部は仁王の腕をつかみ人気のない公園へと引き連れる。

痛いって!と訴える仁王の腕を離した跡部が振り向かないまま口を開く。
「知らない男にホイホイついていってんじゃねーよ。」
「お前さんにはもう関係ないじゃろ。」
「お前が勝手に別れるって言い放ったんだろーが。」
「俺が悪いって言いたいん?」

こんなときも素直になれなくて、何故か涙が出そうになり何も言わずその場を立ち去ろうとすると、突然体をひかれ柔らかいものが唇に触れる。
それが跡部の唇だと気付いたときにはすでに自分は跡部の胸の中にいた。

「…悪かった。お前の気持ち分かってやれなくて。約束守ってやれなくて。本当に悪かった。」
「…俺、会えなくなって残念って言って欲しかっただけなんよ。」
「ああ。」
「別れたくないって言って欲しかったんよ。」
「ああ。」
「本当は別れたいなんて思ってなかったんよ。」
「ああ。会えなくなって残念だったぜ?俺はいつだってお前に会いたいって思ってるし、ずっと別れたくなんかねーよ。だから…戻ってこいよ。」
少し弱々しい跡部の言葉に涙を堪えながら「おん。」と答えると小さく良かったと呟く俺を抱きしめるその体はあの日までよりも少し細く感じる。

「跡部、少し痩せた?」
「あーん?気のせいだろ。」
「そっか。」
「仁王こそバッサリ髪切ったんだな。」
「お前さんがくれたヘアゴム使えんくなっちゃったぜよ。」
謝る俺の手の平に小さな紙袋がのせられる。
開けてみろと言われ袋を開くと中から出てきたのは、やけに肌触りのいい黒いリストバンド。
そこには2つの名が刻まれていた。

「これ…」
「特注で作ったんだよ。ちゃんと重りも入れられるぜ。真田がうるせーだろうからな。あの日本当はこれを作りに行っててよ。その日しか無理で、自分で作りに行きたくてな。指輪やネックレスは真田がうるせーけどこれなら部活中も問題ねーだろ?」
そう言って腕をまくった跡部の手首につけられたリストバンドを見て堪えていた涙が溢れ出す。

跡部の愛が嬉しくて、気付けなかった自分が情けなくて。
「ごめんなさいっ」
泣きながら謝る俺に「ビービー泣くんじゃねぇよ。」と呆れたように言いながらも頭に置かれた大きな手のひらが温かくて余計に涙が止まらなくなる。
「ったく。そんなに謝るならお詫びとして、一生俺様から離れるんじゃねーぞ?」 その言葉に涙を拭き顔を上げ口角を上げてみせる。
「おん、約束じゃ!」
「当然だろ?まぁ嫌だって言われても離す気ないけどな。」
満足げに笑う跡部の顔に自然に仁王の顔もほころんだ。




仁王って同士討ちのときもダブルスのときも、パワーリスト外してない。
同士討ちの相手の柳生は外してるのに。
外したくないんだね?! 
跡部から貰ったんだね?!
そうに違いない!と思って書きました。

跡部の腕についてない?錯覚です!

ポーカーフェイス仁王も大好きですが泣きじゃくる仁王もまたよろし。
見たことないけど。

仁王がいなくて地味に弱る跡部もいいなー!

終わり方謎でごめんなさい…
以上。

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