蕾が開くときまで赤仁 | ナノ
春休み目前の帰りのHR中、机に伏せていた顔をなんとなく窓の方へと向けた切原の目に美しい桃色が飛び込んでくる。

その途端ガタッと椅子を倒して立ち上がった切原に驚く教師に「腹痛いんで早退します!」とだけ告げ教室を飛び出した。

「おー赤也、そんな急いでどうしたんだよぃ?」
「走ると危ないぜ?」
クチャクチャとガムを膨らませ歩く丸井と桑原を振り向きもせず走り去る。
「すいません!副部長に俺は帰ったって適当に言っておいてください!」
「は?なんだよぃそれ!」
「お、おいっ赤也!」


部長と副部長には後でこっぴどく叱られるだろう。
それでも構わない。
一刻だって無駄にできないんだ。
切原はそう思いながら自転車のペダルを踏んだ。


こぐ度にギィギィと錆びた音がする自転車で、もう何度も訪れたなんだか寂しさを放っているように感じられる建物にたどり着き、目的の部屋の前で顔をパンパンと叩いてから笑顔でドアを開く。

「仁王先輩こんちは!」
部活が行われているであろう時間に訪れた俺に仁王先輩は少し驚いたようだったけど、その顔はすぐに笑顔に変わった。
その笑顔が見たかったんだ。
今までも。出来ることならこれからも。
「ちょっと外出れますか?」
「おん。どこ行くん?」
「それは内緒っす!」
ヘヘッと笑って握った先輩の手は相変わらず冷たかった。

春とはいえまだ少し冷たい空気に震える先輩の肩に自分のブレザーをかける。
「そんな薄着で身体冷やしちゃ駄目じゃないっすか。」
「…赤也の方こそ風邪ひいたら真田に怒られるぜよ?自分で着んしゃい。」
「俺は鍛えてるから大丈夫っすよ!」
「なんとかは風邪引かないって言うしのぅ?ありがとさん。…ちょっと小さいけど」

「一言も二言も多いっす!」
わざとらしく頬を膨らませて顔を見合わせ笑いあう。
この時間がどうしようもなく好きだ。

「じゃあ行きますよ!ちゃんと捕まってて下さいね!」
「重くなか?」
「余裕っす!立海のエースをなめないでくださいよ!」
「そりゃ頼もしいぜよ。」
クスリと笑った仁王先輩の手が俺の肩に乗せられたのを確かめてから、錆びた自転車のペダルを踏む。
以前より少し軽くなった重みに鼻の奥がツンとした。


「もうすぐ着くんで目閉じててください!」
「変なことせんでよ?」
「しませんよ!」
毎日毎日変わらない寂しい景色を見ている仁王先輩に、少しでも明るい景色を見せてあげたくて…その瞬間までもう少しだ。


しかし目の前に表れたのはまだ蕾のままの桜の木。
「…」
「まだー?…赤也?」
自転車をこぐのを止め何も言わない切原を不審に思った仁王は目を開き切原の顔を覗き込む。
「なんで泣いとるん?」
「うぅ…ごめん、なさいっ」


「なるほど。俺に桜を見せたかったんか…。」
「はい。学校で咲いてるの見て…ここにきたら綺麗だろうと思ったんです…」
蕾のままの桜の木の下にしゃがみこんで俺が泣き止むまで待ってくれた仁王先輩は桜を見上げて呟いた。
「赤也が見たんは梅の花かもしれんの」
「梅…?」

自分の馬鹿さに腹が立つ。
きっと無理をしてついてきてくれた仁王先輩に、俺の勘違いが原因で何も与えることができなかった。

「赤也、ありがとさん。」
「俺迷惑かけただけっすよ?」
涙声で答えると返ってきたのはとても優しい声。
「俺に見せたいって、連れてきてくれたことが一番大切ナリ。」
その言葉を聞いて俺は先輩の少し冷たい体をぎゅっと抱きしめる。
「桜の代わり、今はこれで許してください。」
「おん。」


この蕾が開いたら、また2人で錆びた自転車に乗って見にこよう。
そう約束した帰り道。
どうかこの約束が果たされますように
どうか時間をください。
桜色に染まる道を2人で歩こう。



赤仁の2けつってとっても可愛いと思うのです。
赤也は梅と桜間違えるだろう。
でも全て仁王の為なんです。
窓の外に咲く桜(本当は梅)をみて、仁王に見せたくていてもたってもいられなかった。

この話には続きがある(かもしれない)のです。
以上!

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